唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
「なぜ、何度言っても分からないんだ!」
「こんなこともできないのか!」
会議室に響き渡る怒声。凍りつく社員たち。そして、その後に訪れる重い沈黙と自己嫌悪…。
「また、ついカッとなってしまった…」
社長室で一人、頭を抱える。そんな経験をお持ちの経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
私はこれまで、数多くの中堅中小企業のコンサルティングを行ってきました。その中で、経営者が共通して抱える悩みの1つがこの「感情のコントロール」と、それによって生じる「社員との溝」です。
業績へのプレッシャー、資金繰りの不安、そして「会社を成長させたい」という強い想い。その熱意が空回りし、つい社員に厳しく当たってしまう。その気持ちは痛いほど分かります。しかし、その感情的な言動が、あなたの知らないところで会社経営の根幹を揺るがす深刻な問題を引き起こしているとしたら…。
実は、経営者が感情的になったとき、社員はただ黙って萎縮しているのではありません。彼らの心の中には、経営者が想像もしないような「本音」が渦巻いています。そして、その本音を見過ごしたままにしておけば、どれほど優れた事業戦略も絵に描いた餅となります。優秀な人材は静かに会社を去り、組織は内側から崩壊していくのです。
この記事では
- なぜ社長は感情的になってしまうのか、その構造的・心理的背景
- 感情的な言動が引き起こす、社員の「見えざる本音」と組織への深刻なダメージ
- 一度壊れてしまった信頼関係を再構築するための、具体的かつ実践的な「5つの修復ステップ」
を、余すところなく解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたは社員の本音を深く理解し、感情に流されることなく、強くしなやかな組織を築くための具体的な武器を手にしているはずです。単なる精神論ではない、明日から実践できる具体的なノウハウをお伝えします。ぜひ最後までお付き合いください。




なぜ社長は「つい感情的」になってしまうのか?


そもそも、なぜ社長という立場にある人は、感情的になりやすいのでしょうか?それは単に「性格」の問題だけではありません。中堅中小企業の経営者が置かれている特有の構造と心理が複雑に絡み合っているのです。
中堅中小企業特有の「孤独」という構造
多くの中堅中小企業では社長が最大の株主であり、最終的な意思決定権を一身に背負っています。この「権力の集中」は、スピーディーな経営判断を可能にする一方で社長を絶対的な存在にし、周囲が意見しにくい状況を生み出します。
- 相談相手の不在: 役員や幹部社員がいたとしても、最終的な責任はすべて自分が負う。資金繰りの悩み、事業の将来への不安といった本質的な悩みについて、腹を割って話せる相手は社内にはほとんどいません。この「経営の孤独」が、社長の精神的なプレッシャーを増大させます。
- 公私の混同: 特に創業社長の場合、会社は「自分の分身」そのものです。社員のミスがまるで自分自身を否定されたかのように感じられ、私的な感情がビジネスの場に持ち込まれやすくなります。
- 価値観のギャップ: 命がけで会社を経営している社長と、生活のために働く社員との間には、仕事に対する熱量や価値観に根本的なギャップが存在します。「なぜ自分と同じようにやってくれないんだ?」という苛立ちが、感情的な言動の引き金になるのです。
中小企業の経営課題では、足元でも「人材の確保・育成」が最上位に位置づけられています(2024年版 中小企業白書)。一方で、経営に関して「腹を割って相談できる相手」が不在・不足であることをうかがわせるデータもあります。2020年版 中小企業白書では、日常の相談相手がいない中小企業が一定割合でおり、従業員規模が小さくなるほど相談相手がいない傾向が見て取れます。
このような「人材確保の難しさ」と「相談体制の弱さ」は、現場の経営判断の負荷を強め、経営者の心理的負担や孤立感を高めうる状況だと指摘できます。加えて、人手不足が企業の存続にも影を落としており、帝国データバンクは人手不足倒産が2025年度上半期に、上半期としては過去最多を更新したと報告しています(帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度上半期)」)。


社長を追い詰める「3つの心理的罠」
構造的な問題に加えて、経営者特有の心理状態も感情のコントロールを難しくしています。
- 完璧主義の罠: 「会社はこうあるべきだ」「社員はこう動くべきだ」という高い理想を持つことは素晴らしいことですが、それが過度な完璧主義になってしまうと、現実とのギャップに常にストレスを感じることになります。自分の思い通りに動かない社員に対して「期待を裏切られた」と感じ、怒りの感情が湧き上がります。
- コントロール欲求の罠: 自分の会社をすべて把握して管理したいという欲求は、経営者として自然なものです。しかし、社員一人ひとりの行動や心を完全にコントロールすることは、たとえ経営者であっても不可能なことです。この不可能性を受け入れられないと、コントロールできない状況に対して強いフラストレーションを感じ、力で押さえつけようとしてしまいます。
- 「べき思考」の罠: 「社長たるもの、弱みを見せるべきではない」「社員は社長の意図を汲み取るべきだ」といった固定観念に縛られていませんか?この「べき思考」は、自分自身を追い詰めるだけでなく、他者にも同じ基準を求めてしまい、満たされない場合に怒りや失望を感じやすくなります。
これらの構造的・心理的要因が絡み合い、社長は「感情的になりやすい状態」に常時置かれていると言っても過言ではありません。まずは、ご自身がそうした状況にあることを客観的に認識することが、問題解決の第一歩となります。
社員の「本音」と深刻なダメージ


社長が感情を爆発させた後、静まり返ったオフィスで社員たちは何を考えているのでしょうか?「社長は仕事に熱心だ」「期待されている証拠だ」とポジティブに捉えている社員は、残念ながら皆無に近いでしょう。そこには、経営者が決して見過ごしてはならない深刻なダメージが広がっている可能性があります。
「はい、わかりました」の裏に隠された3つの本音
嵐が過ぎ去った後、社員が口にする「はい、わかりました」という言葉。しかし、あなたはその言葉を額面通りに受け取ってはいけません。その短い返事には少なくとも3つのネガティブな本音が隠されています。
- 【本音①】恐怖:「とにかく、この場をやり過ごしたい」
最も多いのが恐怖心です。社長の怒りを再び買わないよう、とにかく従順なフリをします。心の中では「理不尽だ」と思っていたとしても、反論すればさらに激しい怒りが返ってくることを知っているため、思考を停止してその場をやり過ごすことだけに集中します。この状態においては、社員は指示された業務を最低限こなすだけで、プラスアルファの工夫や改善提案など生まれるはずもありません。 - 【本音②】諦め:「言っても無駄。何を言っても変わらない」
感情的な叱責が繰り返されると、社員は「この社長に何を言っても無駄だ」と学習します。これを「学習性無力感」と呼びます。改善案や新しいアイデアがあったとしても、「どうせまた感情的に否定されるだけ」と、発言すること自体を諦めてしまうのです。社員の口数が減り、会議が社長の独演会になっているとしたら、それは「諦め」が組織に蔓延している危険なサインです。 - 【本音③】面従腹背:「今は従うが、見ていろよ」
最も厄介なのがこのタイプです。表面的には従順な態度を取りながら、心の中では社長への不満と軽蔑を募らせています。同僚と陰で社長の悪口を言い合ってストレスを発散したり、転職活動を水面下で始めたりします。彼らは社長が見ていないところで手を抜き、重要な情報を意図的に報告しないことさえあります。このような社員は時に危険人物に変貌し、組織の規律は崩壊させ、組織の一体感を失わせていきます。
危険人物については以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。
組織の免疫力を奪う「心理的安全性」の欠如
これらの本音に共通するのは、「心理的安全性」が完全に破壊されているという事実です。
心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、「この組織の中では、自分の意見や気持ちを安心して表明できる」と信じられる状態を指します。決して「ぬるま湯」の組織という意味ではありません。むしろ、活発な議論や健全な対立を通じて、組織がより良く成長していくために不可欠な土台となるものです。
社長が感情的になるたびに、この心理的安全性は少しずつ削り取られていきます。その結果、組織には以下のような深刻なダメージがもたらされます。
- 報告・連絡・相談(報連相)の質の低下
悪いニュースほど、社長の耳には入らなくなります。「報告したら怒られる」と分かっているため、トラブルやミスの発見が遅れ、致命的な経営判断のミスにつながります。 - イノベーションの停滞
新しい挑戦には失敗がつきものです。しかし、失敗を過度に恐れる組織では誰もリスクを取ろうとしません。社員は前例踏襲の安全な道ばかりを選ぶようになり、組織は変化に対応できず、やがて市場から取り残されます。 - 優秀な人材の流出
株式会社リクルートの研究機関、就職みらい研究所が発表した『就職白書2024』によると、学生が企業を選ぶ際に「自分が成長できる環境である」という項目の支持率が上昇しており、「どこの会社に行っても通用する能力が身につく」と考える学生の割合は2024年卒で77.9%に達しています。また、就職先の決定にあたって「社員・社風(上司・社員の魅力含む)」を重視する傾向もあり、別の調査では「入社の最終的な決め手」が「社員・社風」から「仕事内容・勤務地」へのシフトが報告されています(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「2024年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」)。
このように、成長実感を得られる環境や、情緒・風土・人間関係の良さが企業選びにおいて重要な要素になっており、こうした価値観を持つ学生ほど「自己を尊重してくれる」「能力を活かせる/認められる」職場を求める傾向が強いと言えます。したがって、そうした優秀な人材ほど、心理的安全性が低い環境や人間関係に課題のある職場に対しては見切りをつけるのが早いのです。彼らは、自分の能力が正当に評価され、尊重される環境を求めて、静かに離脱していく可能性が高いと考えられます。 - メンタルヘルスの悪化と生産性の低下
恒常的なストレスは、社員のメンタルヘルスを確実に蝕みます。休職者の増加は、本人にとって不幸なだけでなく、残された社員の負担を増やし、さらなる生産性の低下を招くという負のスパイラルに陥ります。
感情的な言動は、その一瞬で終わるものではありません。それは、組織という身体にゆっくりと広がる毒のように、時間をかけて会社の体力を奪い、成長の芽を摘み取っていくのです。
なお、心理的安全性については以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読み下さい。






感情的になった後の「5つの修復ステップ」
では、一度壊れてしまった信頼関係はどのようにすれば修復できるのでしょうか?「時間が解決してくれる」というのは幻想です。むしろ、時間が経てば経つほど溝は深まっていきます。重要なのは、社長自らが能動的かつ誠実に行動を起こすことです。
ここでは、具体的な「5つの修復ステップ」をご紹介します。この順番通りに、一つひとつ丁寧に行うことが成功のカギです。


【ステップ1】即時かつ誠実な「自己認識」と「謝罪」
最も重要で、そして最も難しいのがこの最初のステップです。プライドが邪魔をするかもしれません。しかし、ここを乗り越えなければ何も始まりません。
- 何をすべきか
- 冷静になる: まずは深呼吸し、自分の感情が落ち着くのを待ちます。アンガーマネジメントで言われる「6秒ルール」(怒りを感じてから6秒待つ)は有効です。
- 客観的に振り返る: 自分が「いつ、どこで、誰に、どのような」言動をしたのかを具体的に思い出します。「売り言葉に買い言葉だった」といった言い訳は一切排除し、自分の言動が相手に与えたであろう影響を想像します。
- 速やかに、直接、謝罪する: 可能な限り、その日のうちに、できれば1対1の場で謝罪します。メールや第三者を介するのは最悪の選択です。
- 謝罪のポイント
- 言い訳をしない: 「君のためを思って言ったんだが…」といった前置きは不要です。「あの時の私の言い方は、あまりに感情的だった。本当にすまなかった」と、自分の非をストレートに認めます。
- 具体的に謝る: 「さっきの会議での〇〇という発言、君を深く傷つけてしまったと思う。申し訳ない」と、どの言動について謝罪しているのかを明確にします。
- 相手の感情を受け止める: 謝罪した後、相手が何かを話そうとしたら、決して遮らずに最後まで聴きます。
社長からの誠実な謝罪は、社員にとって「自分は一人の人間として尊重されている」という強力なメッセージになります。それは、社長が「弱さ」を見せる行為ではなく、間違いを認められる「強さ」と「誠実さ」の証明なのです。
【ステップ2】評価・判断をしない「傾聴」
謝罪は関係修復の入り口に過ぎません。次に必要なのは、社員の「本音」が出てくる土壌を作ること。そのための唯一の方法が「傾聴」です。
- 何をすべきか
- 場を設ける: 1on1ミーティングなど、他の誰にも邪魔されない、安心して話せる時間と場所を定期的に確保します。(週に1回15分、月に1回30分など)
- 聴くことに徹する: この場での主役は社員です。社長は「聞き役」に徹し、話の割合は「社員8:社長2」を目指します。
- 相槌とうなずき: 「うん、うん」「それで?」「そうか」といった短い相槌や、深い頷きを意識的に使います。これは「あなたの話を真剣に聴いていますよ」というサインになります。
- 質問は「開かれた質問」で: 「はい/いいえ」で終わる「閉じた質問」(例:「〇〇は終わったか?」)ではなく、「どう思う?」「どうしてそう感じたの?」といった、相手が自由に話せる「開かれた質問」を心がけます。
- 傾聴のポイント
- 遮らない、否定しない、アドバイスしない: 社員が話している途中で、「いや、それは違う」「もっとこうすればいい」と口を挟むのは厳禁です。たとえ非効率なやり方や間違った考え方だと思っても、まずは最後まで黙って聴き、相手の考えや感情を丸ごと受け止めることが重要です。
- 沈黙を恐れない: 会話が途切れても、焦って社長が話し始める必要はありません。沈黙は、社員が次に話す言葉を一生懸命探している時間かもしれません。辛抱強く待ちましょう。
この「傾聴」を続けることで、社員は「この社長は自分の話を真剣に聴いてくれる」「ここでは本音を話しても大丈夫かもしれない」と感じ始め、少しずつ心の扉を開いてくれます。
1on1については以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。
【ステップ3】「原因の共有」と「再発防止策」の提示
傾聴を通じて少しずつ信頼関係が芽生えてきたら、次のステップに進みます。なぜ自分が感情的になってしまったのかを誠実に伝え、二度と繰り返さないための具体的な約束をするのです。
- 何をすべきか
- 背景を(言い訳ではなく)説明する: 「あの時、実は会社の資金繰りのことで頭がいっぱいで、冷静さを失っていた。だからといって、君に当たっていい理由にはならないが…」というように、自分の弱さや状況を率直に開示します。これは、社員に「社長も完璧な人間ではないのだ」と理解させ、共感を生む効果があります。
- 具体的な再発防止策を約束する: 「今後は、君たちの意見を最後まで聞く前に、自分の意見を言うのはやめる」「カッとなりそうになったら、一度席を外して冷静になる時間を作る」など、自分がどう変わろうとしているのかを具体的に伝えます。
- 共有のポイント
- 一方的な宣言にしない: 「だから、これからはこうする」と決めるだけでなく、「どうすれば、もっと君たちが意見を言いやすくなると思う?」と、相手にも改善策を求める姿勢を見せることが大切です。これにより、社員は「自分も組織作りの当事者なのだ」という意識を持つことができます。
このステップは、社長の「変わる本気度」を社員に示すための重要なプロセスです。
【ステップ4】「行動」による信頼の積み重ね
言葉で何を語っても、行動が伴わなければ意味がありません。信頼とは、一朝一夕に回復するものではなく、日々の小さな「行動」の積み重ねによってのみ、再構築されるものです。
- 何をすべきか
- 約束を実行し、継続する: ステップ3で約束した「再発防止策」を、意識して実行します。一度や二度ではなく、毎日、毎週、毎月と、粘り強く継続することが何よりも重要です。
- ポジティブな変化を承認する: 社員が勇気を出して意見を言ってくれたり、新しい提案をしてくれたりしたら、たとえその内容が未熟であっても、まずは「意見を言ってくれてありがとう」「その視点はなかったな、面白いね」と、その行動自体を承認し、感謝を伝えます。
- 小さな成功体験を共有する: 社員の提案によって少しでも業務が改善したり、よい結果が出たりした場合は、「〇〇さんのあの時の意見のおかげで、こんなに良くなったよ。ありがとう!」と、全員の前で称賛します。
- 行動のポイント
- 一貫性を保つ: 機嫌が良い時だけ優しく、悪い時はまた元に戻る、というのでは意味がありません。どんな状況でも、自分で決めたルール(行動)を守り続ける「一貫性」が、社員の信頼を確固たるものにします。
社員は社長の言葉を聴いているのではなく、「見て」います。あなたの行動の変化こそが、何よりも雄弁なメッセージとなるのです。
【ステップ5】「仕組み化」による文化の醸成
最後のステップは、社長個人の努力だけに頼るのではなく、感情的な対立が起こりにくい「仕組み」と「文化」を組織に根付かせることです。
- 何をすべきか
- コミュニケーションのルールを作る:
- 会議では「人格と意見を分離する」「反対意見を言うときは代替案もセットで」といったグラウンドルールを設ける。
- 相手への感謝や称賛を伝える「サンクスカード」や、少額のインセンティブを送り合う「ピアボーナス」制度などを導入し、ポジティブなコミュニケーションを増やす。
- 意見を吸い上げる仕組みを作る:
- 匿名の意見箱(デジタルでも可)を設置し、定期的に内容を確認してフィードバックする。
- 部門横断のプロジェクトチームを作り、現場からの改善提案をボトムアップで吸い上げる。
- 感情マネジメントを学ぶ:
- 社長自身が、アンガーマネジメントやコーチングなどの研修を受け、スキルを体系的に学ぶ。
- 将来的には、管理職にも同様の研修機会を提供し、組織全体のコミュニケーションスキルを底上げする。
- コミュニケーションのルールを作る:
- 仕組み化のポイント
- トップダウンで推進する: これらの仕組みは、社長自らがその重要性を理解し、率先して活用する姿勢を見せることが成功の絶対条件です。社長が使わない仕組みを、社員が使うことはありません。
このステップまで到達すれば、あなたの会社は単に関係が修復されただけでなく、以前よりもはるかに強く、しなやかで、生産性の高い組織へと生まれ変わっているはずです。それは、社員一人ひとりが安心して自分の能力を最大限に発揮できる「心理的安全性の高い組織文化」が醸成された証なのです。
Q&A
Q1. 感情的になった後、どれくらいの期間で謝罪すべきですか?
A.結論から言うと「即時」が鉄則です。理想は、カッとなったその直後に冷静さを取り戻し、謝罪することです。時間が経てば経つほど、社員の心の中では不信感が固まってしまい、謝罪の効果は薄れてしまいます。「鉄は熱いうちに打て」という言葉通り、問題が熱を持っているうちに、誠意をもって対応することが最も効果的です。遅くとも、その日の業務が終わるまでには必ず行動に移しましょう。
Q2. 社員が本音を話してくれません。どうすればいいですか?
A.焦らないでください。信頼関係の構築には時間がかかります。社員が本音を話さないのは、「話しても無駄だ」「話したら何を言われるか分からない」という長年の経験からくる防衛本能です。まずは、あなたが「安全な存在」であることを、行動で示し続けるしかありません。
具体的には、この記事で紹介した修復ステップ2の「傾聴」を、最低でも3ヶ月は粘り強く続けてみてください。最初は業務連絡ばかりかもしれませんが、続けるうちに、少しずつプライベートな話や、仕事に対する小さな悩みを打ち明けてくれるようになります。その小さなサインを見逃さず、真摯に受け止める積み重ねが、やがて大きな信頼につながります。
Q3. 自分では感情的になっているつもりがありません。客観的に判断する方法はありますか?
A.非常に重要な気づきです。自分では「熱心な指導」のつもりでも、相手は「感情的な叱責」と受け取っているケースは少なくありません。客観的に判断するには、以下の3つの方法を試してみてください。
- 信頼できる第三者に聞く: 奥様や、社外のメンター、あるいは我々のようなコンサルタントに、あなたのコミュニケーションスタイルについて率直な意見を求めてみましょう。
- 会議を録音してみる: 許可を得た上で会議を録音し、後で自分の発言を客観的に聞き返してみてください。声のトーン、言葉の選び方、話す長さなど、自分がいかに一方的に話しているかに驚くかもしれません。
- 社員の反応を観察する: あなたが話している時の社員の表情や態度を注意深く観察してください。うつむいている、目が合わない、体の向きがあなたから逸れている、といった非言語的なサインは、相手が威圧感を感じている証拠かもしれません。
Q4. 謝罪すると、社長としての威厳がなくなってしまうのではないでしょうか?
A. その考え方は逆です。誠実な謝罪は、むしろ社長の威厳と求心力を高めます。
社員が真に尊敬するのは、「常に正しい無謬のリーダー」ではありません。むしろ、「自分の間違いを率直に認め、改善しようと努力する人間的なリーダー」です。自分の非を認められないリーダーの下では、社員もミスを隠すようになります。一方で、トップが率先して謝罪する文化があれば、社員も失敗を恐れずに挑戦し、問題を早期に報告するようになります。 「威厳」とは、権力で相手を黙らせることではありません。人間的な魅力と誠実さによって、人々が「この人についていきたい」と心から思うこと。それが真のリーダーシップであり、威厳なのです。
まとめ
ここまで、感情的になった社長が見落とす社員の本音と、その後の修復法について詳しく解説してきました。
- 社長は、その構造的な孤独と心理的なプレッシャーから、感情的になりやすい存在であること。
- その感情的な言動は、社員の心に「恐怖」「諦め」「面従腹背」といった本音を生み、組織の「心理的安全性」を破壊し、生産性の低下や人材流出といった深刻な経営問題を引き起こすこと。
- 信頼関係の修復には、「謝罪」「傾聴」「原因共有」「行動」「仕組み化」という5つの具体的なステップを、誠実に、そして粘り強く実行することが不可欠であること。
感情に任せて社員を叱責することは、一見、手っ取り早く相手を動かしているように見えるかもしれません。しかし、それは麻薬のようなものです。短期的には効果があるように見えても、長期的には組織全体を確実に蝕んでいきます。そのエネルギーは、本来、市場での競争や、新しい価値の創造、そして未来への投資に向けられるべきものです。
社長の仕事は、事業の舵取りだけではありません。社員一人ひとりが安心して、活き活きと働ける「場」を創り上げること。それこそが、持続的に成長する強い組織の土台となります。そして、その土台を築く上で、社長自身の「感情をコントロールするスキル」は、財務やマーケティングの知識以上に、重要で強力な経営スキルなのです。
この記事が、日々奮闘されている経営者であるあなたにとって、社員との関係を見つめ直し、より良い組織を築くための一助となれば、これに勝る喜びはありません。 もし、自社だけでの改善に限界を感じたり、より客観的な視点からのアドバイスが必要だと感じられたりした際には、いつでもご相談ください。あなたの会社の未来を共に創るパートナーとして、全力でサポートさせていただきます。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。


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