唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

「うちの会社も、もっと一丸となって成長したい」

「優秀な人材を採用しても、なぜか組織として機能しない」

これは、多くの経営者・役員・管理職の皆様が抱える、共通の悩みではないでしょうか?

経営コンサルタントとして数多くの企業を見てきた私が言えることは、「企業規模の大小にかかわらず、組織が持続的に成長し、成果を出し続けるために必要な『基本原則』は普遍的である」ということです。

この原則を知らずに、流行のツールや表面的な制度だけを導入しても、組織は「人の集まり」の域を出ることはできません。しかし、この原則を理解して現場に根付かせることができれば、あなたの会社は単なる「人の集まり」から、目標達成に向かって有機的に動く「強い組織」へと変貌します。

その基本原則とは、アメリカの経営学者チェスター・バーナードが提唱した、組織が成立するための必要不可欠な3つの条件、すなわち「組織の三要素(共通目的・協働の意欲・コミュニケーション)」です。一見、当たり前のように聞こえるかもしれませんが、この三要素が高い水準で満たされていることこそが、成功する会社と停滞する会社を分ける決定的な要因です。

本コラムでは、この組織の三要素を、中堅中小企業の目線に立って、明日から現場で実践できる具体的な施策とともに、徹底的に掘り下げて解説します。

組織の三要素とは何か?〜成功する組織の「必要条件」

著書『経営者の役割』の中で、バーナードは組織を「二人以上の人々の間で意識的に調整された活動ないし諸力の体系」と定義し、組織が組織として成立し、存続していくために、以下の三つの要素が不可欠であると説きました。

  1. 共通目的:目指すべきゴールや目標が共有されていること
  2. 協働の意欲(貢献意欲):組織の目標達成に協力したい、貢献したいという気持ち(モチベーション)があること
  3. コミュニケーション:目的や意思、情報を円滑に伝え、理解し合う仕組みがあること

この3つの要素のどれか一つが欠けても組織は機能しません。例えばどれだけ「共通目的」が立派であっても、社員に「協働の意欲」がなければ絵に描いた餅です。また、その目的や意欲を伝え合う「コミュニケーション」がなければ、組織はバラバラになってしまいます。

これら三要素のバランスを高めることが、組織の力を最大化するカギなのです。

核心要素①:ブレない軸となる「共通目的」

組織のメンバーが同じ方向を向き、エネルギーを集中させるために最も重要なのが「共通目的」です。これは単なる「売上目標」や「利益計画」といった数字だけを指すものではありません。むしろその数字の奥にある、会社として社会に提供したい価値や存在意義、すなわち「経営理念」や「ビジョン」こそが、ここでいう共通目的に当たります。

実践のポイント:目標を「自分ごと」にする

特に中堅中小企業において、この共通目的が曖昧なケースが多く見られます。経営者が頭の中で考えているだけでは社員は動きません。共通目的を現場レベルまで落とし込み、「自分ごと」にすることが、組織力を高める第一歩です。

施策1:理念・ビジョンを「物語」として語り継ぐ

ただポスターに貼るだけでなく、なぜこの会社が存在するのか、将来どんな社会を実現したいのかを、経営者自身が熱意をもって具体的なエピソードや物語として社員に語り続けることが重要です。

  • 具体例:「単なる製品づくりではなく、『地域社会の生活を豊かにする』という理念のもと、私たちは動いている」と、日々の業務と理念を結びつける。

経営理念とビジョンについては以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。

施策2:部門・個人の目標を「共通目的」に紐づける

全社のビジョンが、各部門の目標、そして最終的には各社員の行動目標(日々のタスク)に論理的につながっている状態を作る必要があります。

  • 「今月の目標達成が、お客様の満足度向上、ひいては社会貢献にどう繋がるのか」を、会議や面談の度に確認し、目的意識を持たせるのです。

共通目的は、社員が「この会社で働く意義」を見出すための「羅針盤」となるものです。特に若手社員は、給与だけでなく「社会への貢献」といった意味合い(パーパス)を重視する傾向があります。この羅針盤が明確であれば、多少の困難があっても、社員は自ら考え、行動するようになります。

核心要素2:組織のエネルギー源「協働の意欲」

協働の意欲」とは、組織の目標達成のために自発的に力を貸して協力し合おうというメンバーの意欲のことです。貢献意欲やモチベーションと言い換えることができます。これが組織のエネルギー源となります。

バーナードは、人が組織に貢献しようと思うのは、その組織が個人の目的をも満たしてくれるからだと指摘しました。つまり、会社が社員に提供する「インセンティブ(報酬)」が、社員の「貢献」に見合っていると認識されることが重要です。

実践のポイント:貢献を「正しく報いる」仕組みを作る

経営資源に限りのある中堅中小企業においては、大手企業のような豊富な資金や福利厚生で社員を惹きつけるのは難しい場合も多いかもしれません。しかし、社員一人ひとりの貢献に対して、金銭面だけでなく精神面も含めて報いることは可能です。

施策1:公正で透明性の高い「評価制度」の運用

社員の頑張りが正当に評価され、それが昇進や昇給、賞与といった目に見える報酬につながる仕組みは、協働の意欲を維持・向上させる上で不可欠です。

  • 注意点:評価基準を曖昧にせず、何をすれば評価されるのかを具体的に示し、評価プロセスも可能な範囲で透明化しましょう。特に、目標達成に向けたプロセスやチャレンジも評価対象とすることで、失敗を恐れずに挑戦できる文化が育まれます。

施策2:非金銭的報酬(承認と成長機会)の積極的な活用

金銭的な報酬だけでなく、承認(サンクス)と成長機会は、貢献意欲を高める強力なインセンティブになります。

  • 承認:「頑張ってくれてありがとう」という一言や、全社ミーティングでの表彰、経営者からの直筆メッセージなど、心理的な報酬を意識的に増やします。
  • 成長機会:責任ある仕事を任せる「権限委譲」は、社員の能力開発と自己実現を促します。小さな成功体験の積み重ねが、次の貢献への意欲を生み出します。

中堅中小企業の社員は、自分の仕事が会社全体に与える影響を実感しやすいため、「会社成長への貢献実感」そのものが大きなモチベーションになります。経営者は、社員の貢献を「当たり前」とせず、常に感謝の念を伝えるリーダーシップが求められます。

社員のモチベーションについては以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。

核心要素3:組織をつなぐ血液「コミュニケーション」

組織の三要素のうち、最も基礎的で他の二要素を成立させるための土台となるのが「コミュニケーション(意思疎通・情報伝達)」です。どれだけ立派な目的と貢献意欲があっても、それらが正確に、スムーズに伝わらなければ、組織は協調して動くことができません。

実践のポイント:情報だけでなく「心」も伝える仕組み

コミュニケーションというと、情報共有ツールや会議を思い浮かべがちです。しかし、バーナードが重要視したのは単なる情報伝達ではなく、「協働を可能にするための意思疎通」です。つまり、相手の意図や感情、背景を理解し合うことです。

施策1:心理的安全性の高い「風土」づくり

意見や質問、懸念事項を、上司や同僚に安心して伝えられる環境心理的安全性)を整えることが、円滑なコミュニケーションの前提です。

  • 経営者の役割:報連相(報告・連絡・相談)を受けた際、悪い情報であっても、まず報告した勇気を認め、感情的にならずに「聴く」姿勢を徹底します。
  • 具体策:部署横断の非公式な交流(ランチミーティング、サークル活動など)を奨励し、公式組織(業務上の階層的な組織)だけでなく、社員同士の自然なつながりである非公式組織の力を高めます。非公式組織は円滑なコミュニケーションを促進し、貢献意欲を補完する重要な役割を果たします。

施策2:伝達の「回数」と「双方向性」を確保する

情報伝達は、「一度伝えたから終わり」ではありません。重要な情報ほど、様々なチャンネルで何度も繰り返し伝達し、その都度、社員からのフィードバックを求める「双方向性」を意識します。

  • 具体例:経営会議で決まった方針は、メールや社内掲示板だけでなく、部門長会議で説明し、さらに各部門長が部下に自分の言葉で伝える、といった「多層的なコミュニケーション」を徹底します。
  • 中間管理職の役割:上層部の意思を正確に下に伝えるだけでなく、現場の「声」を吸い上げ、上層部に正確にフィードバックする「翻訳者」としての役割が極めて重要です。

中堅中小企業で最も陥りがちなのが「言わなくてもわかるだろう」という「阿吽の呼吸」への過信です。特に組織が拡大・世代交代するにつれて、この「阿吽の呼吸」は通用しなくなります。意図的に、過剰なくらいに情報を開示し、対話の機会を持つことが、組織を円滑に動かす「潤滑油」となります。

心理的安全性とコミュニケーション術については、以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。

Q&A

Q1. 共通目的(理念・ビジョン)は、社員の意見も聞くべきでしょうか?
A. 理念の「土台」は経営者が決断すべきですが、「浸透プロセス」には社員を巻き込むべきです。経営理念やビジョンは、会社の存在意義や目指す方向性を示すものであり、最終的責任と決断は経営者にあります。全員の意見を聞いて「最大公約数」的な曖昧なものになっては、ブレない羅針盤としての役割を果たせません。
しかし、その理念・ビジョンを「どう実現していくか」という行動指針や具体的な目標設定のフェーズでは、現場の社員の意見を積極的に取り入れるべきです。社員が「自分たちも作った」と感じることで、「共通目的」に対する「協働の意欲」が格段に高まります。たとえば、全社員を対象としたワークショップを開き、理念を自分たちの言葉で解釈してもらうなどの方法が有効です。

Q2. 貢献意欲(モチベーション)が低い社員にはどう対応すべきですか?
A. まずは「コミュニケーション」を取り、個人の目的と会社の目的の「接点」を見つけましょう。モチベーションが低い社員は、単に「やる気がない」のではなく、「会社に貢献する意味を見出せていない」か、「頑張っても正当に評価されないという不信感」を持っている可能性が高いです。
まず、個人面談(コミュニケーション)を通じて、その社員が仕事を通じて何を達成したいのか(個人の目的)を丁寧に聴き出してください。その上で、会社の目標と個人の目的(例:スキルアップ、安定した生活、新しい挑戦)がどこで重なるのか(接点)を探し、その接点に合わせた役割や目標を与えてみましょう。
貢献意欲は、外部から与えられるものではなく、内側から湧き出すものです。その社員が自発的に力を発揮できる「心理的な空間」を設けることが、管理職の最も重要な役割です。

Q3. コミュニケーションを改善するために、どんなツールを導入すべきですか?
A. ツール導入の前に、「何を」「誰と」「どう」伝えたいかを明確にしてください。SlackやChatworkなどの新しいコミュニケーションツールを導入しても、それはあくまで「手段」です。重要なのは、「対話の質」と「情報の正確な伝達」です。
まずは、以下の「アナログな」基本を徹底しましょう。

  1. 会議の目的とアジェンダの明確化:だらだらとした会議をなくし、決定事項とToDoを明確にする。
  2. 報連相のルール統一:緊急度に応じた連絡手段や、報告のタイミングを明文化する。
  3. 1対1の対話の定着:上司と部下で定期的な1on1ミーティングの場を設け、業務だけでなく、キャリアや悩みを話せる時間を作る。

これらの基本ができてから、情報共有のスピードを上げるためにITツールを導入してください。ツールは、心理的安全性が確保された「場」があってこそ、その効果を発揮します。

まとめ

組織の三要素(共通目的、協働の意欲、コミュニケーション)は、成功する会社に不可欠な基本原則です。しかし、組織の力を一過性のものにせず、持続的に成長させていくためには、バーナードが組織存続の条件として挙げた、以下の二つの「均衡」を維持し続ける必要があります。

  1. 内部均衡(能率):組織内のメンバーが、組織への貢献(労働)と、組織からのリターン(給与、やりがい、承認など)のバランスに満足している状態。
  2. 外部均衡(有効性):組織が定めた共通目的が、市場や社会のニーズに合致しており、目標達成によって組織が存続・成長できる状態。

中堅中小企業の経営者・役員・管理職であるあなたは、この二つの均衡を常に意識し、組織を運営していく必要があります。

  • 内部均衡を保つためには、協働の意欲を高める公正な評価と、コミュニケーションによる心理的なサポートが不可欠です。
  • 外部均衡を保つためには、市場の変化に合わせて共通目的(ビジョン)を見直し、常に社会に必要とされる価値を提供し続けることが必要です。

私のコンサルタント経験から、企業が成長の壁にぶつかる時、その根本原因は必ずこの組織の三要素、あるいは二つの均衡のいずれかの欠落にあります。

このコラムを読み終えた今こそ、あなたの会社の「共通目的」「協働の意欲」「コミュニケーション」のレベルをチェックし、どこから手を打つべきか、具体的な行動計画を立てる絶好の機会です。基本原則を徹底することこそが、成長を続ける「強い組織」を作るための、最もシンプルで、最も効果的な道筋なのです。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

経営者が抱える経営課題に関する
分からないこと、困っていること、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談・ご質問・ご意見・事業提携・取材なども承ります。
初回のご相談は1時間無料です。
LINE・メールフォームはお好みの方でどうぞ(24時間受付中)

この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。