唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
経営コンサルタントとして数多くの企業様の「壁」と向き合ってまいりましたが、その中で最も多く、そして最も深刻な悩みの一つが、今回のテーマである「プレイングマネージャー」に関するものです。
「自分が動かないと現場が回らない」
「部下に任せると品質が落ちる」
「朝から晩まで働き詰めなのに、業績が伸び悩んでいる」
もし、あなたが今このように感じているなら、それはあなたの能力が不足しているからではありません。むしろ、あなたが「優秀なプレイヤー」であったがゆえに陥っている「構造的な罠」なのです。
本コラムでは、私のコンサルティング経験と実績に基づき、なぜプレイングマネージャーがこれほどまでに「きつい・辛い」のか、その本質的な理由を解き明かし、そこから脱却してチーム全体の成果を最大化するための「5つの実践的なコツ」を解説します。 精神論ではなく、明日から使える具体的なアクションプランとしてお届けします。ぜひ、最後までお付き合いください。
なお、プレイングマネージャーについては音声でも配信していますので、ご興味がある方は以下のリンクよりお聴きください。




なぜ優秀な人ほど「プレイングマネージャーの罠」にハマるのか?


プレイングマネージャーとは、その名の通り「現場の実務(プレイヤー業務)」と「組織の管理(マネジメント業務)」の二足のわらじを履くリーダーのことです。特に経営資源の限られた中堅中小企業においては、専任のマネージャーを置く余裕がなく、エース級の社員や社長自身がプレイングマネージャーとならざるを得ないケースがほとんどです。
しかし、ここで多くのリーダーが大きな壁にぶつかります。プレイヤーとして一流だった人ほど、マネージャーになった途端に「きつい」「辛い」と疲弊し、組織の成長を止めるボトルネックになってしまうのです。
それはなぜなのでしょうか?
その理由は、プレイヤーとマネージャーでは、求められる「勝利の方程式」が180度異なるからです。
- プレイヤーのルール: 自分の時間とスキルを使って、足し算で成果を出す(1馬力)。
- マネージャーのルール: 他者の時間とスキルを使って、掛け算で成果を出す(他馬力)。
この「ゲームのルールの変化」に気づかず、プレイヤー時代の延長線上で頑張ろうとすると、必ず限界が訪れます。これからご紹介するのは、その限界を突破し、あなた自身もチームも幸せになるための5つの転換点です。
理由とコツ①:「アイデンティティ」の罠と、「増幅者」への転換
【理由】最大のミッションを「自分が成果を出すこと」だと勘違いしている
新任マネージャーや、責任感の強い経営者が陥る最大の罠がこれです。「背中で語る」という美学のもと、誰よりも早く出社し、誰よりも多くの案件をこなし、その姿を部下に見せようとします。
しかし、厳しい言い方をすれば、マネージャーになった瞬間、あなたの最大の仕事は「自分で稼ぐこと」ではありません。あなたの最大の仕事は、「組織が稼げる状態をつくること」です。
あなたが現場で100の成果を出しても、部下5人がそれぞれ20の力しか出せなければ、チーム合計は200です。しかし、あなたが現場を30に抑え、部下の育成に注力して全員が50の力を出せるようになれば、チーム合計は280になります。どちらが会社にとって「優秀なマネージャー」かは明白でしょう。
【乗り越えるコツ】マルチプライヤーへ
リーダーシップ研究において、リーダーには2つのタイプがいると言われています。
- ディミニッシャー(消耗させる人): 自分が賢すぎて、部下の能力を使わず枯渇させるリーダー。
- マルチプライヤー(増幅させる人): 知性を使い、部下の能力を引き出し増幅させるリーダー。
乗り越えるためのコツは、毎朝鏡の前で「今日の私の仕事は、部下の能力を『増幅(マルチプライライ)』させることだと言い聞かせること」です。
具体的には、自身のプレイヤー業務比率を意識的に30%未満に抑える目標を立ててください。
Googleなどが行ったマネジメント調査でも、優れたマネージャーほど現場実務の割合を下げ、チームへの関与時間を増やしているという傾向が見られます。 「自分がやったほうが早い」という誘惑に勝つことが、最初のステップです。
理由とコツ②:「部下の未熟さ」という思考停止と「60点主義」の導入
【理由】「部下ができないから自分がやる」は最強の言い訳
「うちの部下はまだ経験不足で、任せられないんです!」
コンサルティングの現場で、私は何度この言葉を聞いたかわかりません。確かに、中堅中小企業の現場では即戦力が不足していることも事実でしょう。
しかし、これは厳しい現実ですが、「部下が未熟であること」は、あなたがマネジメントから逃げる理由にはなりません。むしろ、あなたがマネジメントに注力すべき最大の理由そのものです。
「部下が未熟だから自分がやる」を繰り返していると、部下は永遠に育たず、「学習性無力感(どうせ上司がやるから自分は考えなくていい)」を抱きます。組織の自走力を奪っているのは、実は「良かれと思って手を出しているあなた自身」かもしれないのです。
【乗り越えるコツ】完璧主義を捨て「60点主義」で任せる
権限委譲が進まない最大の壁は、「品質への不安」です。自分がやれば100点が出せるのに、部下だと40点かもしれない。このギャップが怖いのです。
ここで導入すべきコツが「60点主義」です。
- 部下に仕事を依頼する際、「私のクオリティの6割できていれば合格とする」と基準を下げる。
- 足りない40点は、部下がアウトプットを持ってきた後に、フィードバック(添削・助言)で埋める。
最初から100点を求めず、「60点でOK」と割り切ることで、任せる心理的ハードルが下がります。そして、フィードバックの過程こそが、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)という最強の教育機会になります。 「仕事を巻き取る」のではなく、「仕事を任せて、最後に磨き上げる」役割にシフトしてください。
理由とコツ③:脳の仕組み「能力の罠」と、「遅延報酬」への耐性
【理由】過去の成功体験が足かせになる
なぜ、わかっていても現場仕事をしてしまうのか?これには「能力の罠」と呼ばれる心理メカニズムが関係しています。
人間は、ストレスがかかると「最も慣れ親しんだ、成功確率の高い行動」に無意識に戻ろうとします。優秀なプレイヤーだったあなたにとって、それは「自分で現場仕事を片付けること」です。
- メールを返す
- トラブルを解決する
- 資料を作る
これらのタスクは、完了すればすぐに「やった感(達成感)」が得られ、脳内でドーパミンが出ます。これを即時報酬と呼びます。
一方、「部下の育成」や「組織図の再設計」は、成果が出るのが半年後や1年後です。これを遅延報酬と呼びます。
脳は即時報酬が大好きです。そのため、無意識のうちに「将来のための重要な仕事(マネジメント)」よりも「今すぐ達成感が得られる仕事(プレイヤー業務)」を優先してしまうのです。
【乗り越えるコツ】「緊急ではないが重要な仕事」を天引きする
この脳の仕組みに抗うためのコツは、意思の力に頼らないことです。「時間の天引き」を行いましょう。
具体的には、一週間のスケジュールのうち、月曜日の午前中など、頭が最も冴えている時間を「マネジメント業務(戦略策定、1on1の準備など)」としてカレンダーでブロックしてしまいます。
この時間は、電話に出ない、メールも見ない、現場作業もしない。「社長としての仕事」「部長としての仕事」以外はしない聖域とします。 タスクの隙間にマネジメントをするのではなく、マネジメントの時間を確保した隙間にタスクを入れる。この「逆転の発想」が、能力の罠から抜け出す唯一の方法です。






理由とコツ④:「忙しさ」への逃避と、「インパクト」思考
【理由】「タスク」をこなすことで「仕事をした気」になっている
プレイングマネージャーの多くは、常に時間に追われています。しかし、冷静に振り返ってみてください。その忙しさは、本当に利益に直結しているのでしょうか?
「忙しい」という状態は、実は心の安定剤になります。「これだけ働いているんだから、誰も文句は言わないだろう」という免罪符になり得るからです。
しかし、経営者や管理職の評価は「どれだけ汗をかいたか」ではなく「どれだけ利益(価値)を生み出したか」でしか決まりません。些末なタスクを高速で処理することは、生産性が高いとは言いません。「やる必要のないことを効率よくやることほど、無駄なことはない」(ピーター・ドラッカー)のです。
【乗り越えるコツ】業務を「インパクト×不可逆性」で仕分ける
今抱えている業務を、以下の2軸で分類してください。
- インパクト: 業績への影響度合い
- 不可逆性(取り返しのつかなさ): 失敗した時にリカバリーが効くか


マネージャーが絶対に手放してはいけないのは、「インパクトが大」かつ「不可逆性が高い」業務(上図の④)だけです。例えば、採用面接、銀行融資の交渉、大口顧客とのトラブル初期対応、人事評価等です。
逆に、「インパクトは大きいが、リカバリーが効く仕事(上図の③)」は、多少のリスクがあっても部下に任せるべき領域です。失敗してもあなたがカバーできるなら、それは絶好の教育機会だからです。 自分の仕事を「インパクト」で厳しく選別し、それ以外を捨てる(または任せる)勇気を持つことがコツです。
理由とコツ⑤:孤独な戦いと、「仕組み」による解決
【理由】すべてを「属人的」に解決しようとしている
最後は、仕組みの問題です。中小企業では、業務プロセスが標準化されておらず、「あの人じゃないと分からない」という属人化が横行しがちです。
プレイングマネージャーが辛いのは、自分の中にしか正解がないため、部下に教える際に毎回ゼロから口頭で説明しなければならないからです。これでは時間がいくらあっても足りません。
【乗り越えるコツ】「IT活用」と「型化」で分身を作る
あなたの時間を空けるための最強のコツは、「あなたの分身(仕組み)」を作ることです。
- マニュアル・動画化
同じことを2回以上説明したなら、それはマニュアル化のサインです。今はスマホで動画を撮って共有するだけでも立派なマニュアルになります。「これを見ておいて」と言えるツールを増やしましょう。 - ITツールの導入
日程調整、経費精算、簡単な問い合わせ対応。これらをSaaSやAIツールに任せることは、コストではなく投資です。月額数千円で、あなたの時給数万円分の時間を買えるなら安いものです。 - 判断基準の言語化
「いい感じにやっておいて」ではなく、「Aの場合はB、Cの場合はD」という判断ロジック(型)を言語化して渡します。 「私がいないと回らない」という言葉は、経営者にとっては誇りではなく、「リスク」であると認識してください。あなたがいなくても回る仕組みを作ることこそが、真のプレイングマネージャーのゴールです。
Q&A
Q1. とはいえ、本当に人が足りません。採用するお金もなく、私が現場に出るしかないのですが…
A. 「緊急対応」と「常態化」を区別しましょう。スタートアップや繁忙期など、一時的に全員で現場に出る時期は確かにあります。しかし、それが「365日」続いているなら、それは人手不足ではなく「ビジネスモデル」か「業務設計」の欠陥です。
まずは、「今月は現場に入るが、その間にマニュアルを作って、来月からはアルバイトの方でも回せるようにする」といった「出口戦略」を持ったプレイングを心がけてください。出口のないプレイングは、ただの消耗戦です。
Q2. 現場仕事をしないと、部下から「楽をしている」と思われませんか?
A. 「仕事の定義」を言葉で伝えれば大丈夫です。部下がそう思うのは、あなたが「何をしているか」が見えていないからです。マネジメント業務(戦略策定や組織づくり)は、デスクで座って考えている時間が多く、一見サボっているように見えがちです。
「今のチームには、将来のために○○という戦略が必要だ。私はその計画を作ることに時間を使う。その分、現場はみんなに頼みたい」と、自分の役割と期待値を明確に言葉で伝える(コミットメントする)ことで、部下の納得感は変わります。信頼関係は、背中ではなく「対話」で作られます。
Q3. プレイヤーとしてのスキルが落ちると、自分の市場価値が下がる気がして怖いです。
A. 安心してください。今の市場では「マネジメントができる人」の方が希少価値が高いです。特定の業務スキル(プログラミングや営業トークなど)は、AIの進化や若手の台頭によって、いずれ陳腐化する可能性があります。 一方で、「人を動かし、組織として成果を出すスキル(マネジメント能力)」は、AIが最も苦手とし、どの業界・どの時代でも重宝されるポータブルスキル(持ち運び可能な能力)です。プレイヤーとしての腕を磨くよりも、マネジメントの実績を作ることの方が、長い目で見ればあなたの市場価値を確実に高めます。
さいごに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
プレイングマネージャーという役割は、確かに過酷です。しかし、それは同時に、「個人の限界」を超えて「チームの可能性」に出会える、最もやりがいのあるポジションでもあります。
あなたが今感じている「きつい・辛い」という感情は、あなたがプレイヤーとしての殻を破り、真のリーダーへと脱皮しようとしている「成長痛」に他なりません。
今日ご紹介した5つのコツ、すべてを一度にやる必要はありません。まずは一つ、例えば「来週の月曜日の午前中をブロックする」ことから始めてみませんか? その小さな一歩が、あなたの時間を、そしてあなたの会社の未来を劇的に変えるトリガーになることを、私は確信しています。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。


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