唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅・中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

最近、経営者の方からよく伺うのが、以下のようなお悩みです。

「原材料や人件費が上がっているのに、取引価格は変えられない…」
「価格の相談をされても、社内で誰がどう返答するかが決まっていない…」
「発注・検収・支払の運用が部署ごとに違い、説明できる状態になっていない…」

こうした現場のモヤモヤと直結するのが、いわゆる下請法の改正です。

2026年1月1日(令和8年1月1日)から、下請法は通称「取適法」へ移行し、規制内容の追加・対象範囲の拡大が行われます。公正取引委員会(公正取引委員会)も、改正法の施行日と主な改正点をリーフレット等で明示しています(公正取引委員会リーフレット) 。また、法令の正式名称(e-Gov法令検索の表示)も確認できます (e-Gov)。
※私は法律家(弁護士)ではありません。本稿は、公正取引委員会やe-Gov法令検索などの一次情報をもとに、経営コンサルタントとして「会社の運用をどう整えると事故が減るか」という観点で整理したものです。個別の取引が適用対象か、個別対応が違法か等の判断は、必ず弁護士等の専門家へご相談ください。

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まず知っておくべき現実:「知らなかった」では済まない運用と公表リスク

この手の法令で怖いのは、罰金よりも別のダメージが大きいことです。

取引の実態(現場のやり方)をチェックされる法律です

公正取引委員会は「令和6年度の下請法運用状況」を公表しており、勧告21件・指導8,230件と明示しています(公正取引委員会Webページ)。つまり、机上のルールではなく、現場の取引慣行がそのまま見られるということです。

取適法対応は「法務だけ」の話ではありません

支援先でよくある失敗パターンは、「契約書のひな形を直した(法務)→でも現場は従来運用のまま→証拠(メールや記録)が残っていない」という流れです。今回の改正は、後述するように「価格の決め方(プロセス)」にも踏み込んできます。つまり、契約書だけ直しても、運用が変わらなければ事故が起き、ここが一番のポイントとなります。

改正の全体像:経営者が最初に押さえるべき5点

公正取引委員会のリーフレットに基づき、改正ポイントを経営者向けに言い換えると、次の5点に集約できます(公正取引委員会リーフレット)。

  1. 対象企業が増える(資本金だけでなく、従業員数でも判定する)
  2. 対象取引が増える(「特定運送委託」が追加される)
  3. 新しい禁止行為が増える(価格協議を無視して一方的に決めるのは禁止)
  4. 支払手段が厳しくなる(手形払等が禁止。満額現金化できるかが問われる)
  5. 発注条件の伝え方(書面)も変わる(メール等の電磁的方法が使いやすくなる)

「名前が変わる」以上に、「対象が広がること」と「運用が問われること」がその本質であることを意識してください。

最初にやること:自社が対象になる取引を棚卸する

対象判定が「資本金+従業員数」になる

改正で、従来の資本金基準に加えて、従業員基準(300人/100人)が追加されることが、公正取引委員会リーフレットに明記されています(公正取引委員会リーフレット)。

ここで現場が混乱しやすいのは、次のようなケースです。

  • 資本金が小さいから対象外だと思っていたが、従業員規模で対象になり得る
  • グループ会社や子会社で、判定がバラバラになる
  • 取引先ごとに“対象かどうか”が曖昧で、担当者が都度判断してしまう

みなさん業務で忙しいので、都度判断をするとだいたい破綻します。

経営者が押さえるべき実務ポイント:「判定を現場任せにしない」

判定のポイントは、それを現場任せにしたいことです。具体的には、対象判定を次の形にします。専門用語は不要で、やることは非常にシンプルです。

  • 取引の一覧表を作る(主要取引先・取引内容・年間金額)
  • その一覧に「対象になりそうか」を仮で入れる(まずざっくりでよい)
  • 最後に、法務・経理・購買など関係部署で「会社としての答え」を確定する

なお、従業員数基準については「いつの時点の人数か?」が気になると思いますが、公正取引委員会の資料では、基本的に製造委託等をした時点の「常時使用する従業員の数」で判断する旨の整理が示されています(意見募集関連資料)。詳細は専門家による確認が必要ですが、少なくとも「よく分からないから対象外にしておこう」というスタンスが危険であることは間違いありません。

対象取引の拡大:運送と“型”の話は誤解が出やすい

「特定運送委託」が追加

改正では、対象取引に「特定運送委託」が追加されます。公正取引委員会のリーフレット上では、「製造等の目的物の引渡しに必要な運送の委託」が追加されると整理されています(公正取引委員会リーフレット)。

ここは社内説明で誤解が出がちな部分です。「運送は全部取適法の対象になるんだ」と言い切ってしまうと、逆に過剰対応・誤対応になります。ポイントは、“製造等の目的物の引渡しに必要な運送”という整理で押さえることです。

製造委託の対象に「金型以外の型等」が追加

リーフレットでは、製造委託の対象に金型以外の型等が追加されることも明記されています(公正取引委員会リーフレット)。

製造業の現場では「金型は分かるが、それ以外は?」となりやすいので、関係部署(生産技術、品質、購買など)に一度は周知しておくべき論点となります。

改正の核心:価格は「いくら」より「どう決めたか」が問われる

今回、経営者として最も意識すべきはここです。新設される禁止行為として、「協議に応じない一方的な代金決定」が追加されることが、公正取引委員会リーフレットで示されています(公正取引委員会リーフレット)。

“無視”や“先延ばし”もアウトになり得る

公正取引委員会の確認ポイント資料(代金編)では、明示的に拒む場合だけでなく、例えば協議の求めを無視する、繰り返し先延ばしにするなどで協議を困難にさせる場合も違反になり得ると記載されています。

ここで、現場にありがちな「落とし穴」を挙げます。

  • 価格の話は揉めるので、返事を後回しにしてしまう
  • 現場(技術・品質)確認が終わらないことを理由に、回答が止まる
  • 購買担当が「前例がないので…」で判断を先送りする

結論から言うと、返事がない状態が一番危険です。値上げを飲むかどうか以前に、法律が「協議し、必要な説明をしたか」が問われる方向に動いているからです。

価格協議の最低ルール

価格協議を担当者の腕に頼ることがないよう、最低限のルールを決めましょう。経営者が決めるべきは、概ね次の5つです。

  1. 窓口を決める(取引先が誰に相談すればよいかを明確にする)
  2. 返事の期限を決める(例:受領連絡は5営業日以内、一次回答は30日以内)
  3. 返事の型を決める(合意でも不合意でも、理由と根拠を説明する)
  4. 記録を残す場所を決める(メール、議事メモ、根拠資料を同じ場所へ)
  5. 最終判断ラインを決める(一定額以上は社長/役員決裁など)

これだけでも、先延ばしや属人化が減り、結果としてリスクが下がります。

さらに現場の協議を進めやすくするコツとして、私は「価格」だけで話さないことをおすすめします。例えば、

  • 仕様(材料・品質基準)
  • ロット(まとめると下がる部分がある)
  • 納期(急ぎはコストが上がる)
  • 検査条件(追加コストの原因になりやすい)

こうした条件も含めて“取引の設計”として見直すと、落としどころが作りやすくなります。これは法律論ではなく、現場で成果が出る実務論です。

支払いの地雷:手形払等の禁止と「60日以内」の考え方

「手形はNG」だけでなく「満額を現金で受け取れるか」が論点

公正取引委員会の確認ポイント資料(代金編)では、手形による支払いは違反(支払遅延)と明示されています。さらに電子記録債権やファクタリング等でも、支払期日(最長60日)までに代金満額相当の現金を得ることが困難なものは違反(支払遅延)になり得ると整理されています。

経営者としてのポイントは、ここを「経理に丸投げしない」ことです。支払手段の見直しは、資金繰りや調達戦略に直結します。

支払期日は「受領日から60日以内」

公正取引委員会の確認ポイント資料(代金編)では、「支払期日は最長で、受領日から起算して60日以内」という整理が示されています。

実務で事故が起きるのは「受領日(受け取った日)の定義」が部署ごとにズレるケースです。検収日を受領日だと思っている、工場と本社で基準が違うなどのズレが発生すると、経理は正しく払っているつもりでも説明が難しくなります。

遅延利息(年14.6%)も明確に定められている

遅延利息の率(年14.6%)は、公正取引委員会規則(e-Gov)で定められています。ここは「払えば終わり」ではなく、そもそも遅延が起きない運用(検収の滞留、請求書不備、社内承認の遅れ)を潰す方が実務的です。

施行までにやること:経営者向け「実務対応チェックリスト」

最後に、実際に進める順番で整理していきます。やるべきことは「会社の型」を作ることです。

①まず最優先(ここが曖昧だと全部止まります)

  • 対象取引の棚卸し(取引先・取引内容・年間金額を一覧化)
  • 対象判定の社内ルール化(資本金+従業員基準の前提で整理)
  • 支払手段の棚卸し(手形・電子記録債権などの利用有無を確認)

②次に優先(“事故が起きやすい場所”を先に固める)

  • 価格協議の社内ルール作り(窓口・期限・返事の型・記録の残し方)
  • □受領日の定義を統一(60日ルールの起点がブレないようにする)
  • □発注条件を残す運用に統一(メールで出すなら、条件の版管理と保存ルールを決める)

③最後に仕上げ(教育と点検で“続く形”にする)

  • □購買・現場管理職への短時間教育(新しい禁止行為とNG例を繰り返す)
  • □月1回だけ点検(価格協議が止まっていないか、支払が詰まっていないか)
  • 公正取引委員会の運用情報をウォッチ(勧告・指導の傾向を確認)

まとめ:取適法対応は「法律の暗記」ではなく「説明できる会社」になること

2026年1月1日から、下請法は改正され、通称「取適法」として施行されますが、改正の本質は、対象拡大や支払手段の見直しに加え、価格協議のプロセスが問われる点にあります。 だからこそ、経営者としての最短ルートは、「契約書を直す」だけで終わらせず、価格協議の社内ルール発注・検収・支払の記録が残る運用を整えることです。

それは単なるリスク回避ではなく、取引先からも金融機関からも「説明できる会社」になることにつながります。
※繰り返しになりますが、私は法律家(弁護士)ではありません。本稿は一次情報に基づく実務整理です。個別案件の法的判断は、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。