唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅・中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
「DXに向けての自社の問題は明確になった。課題の優先順位も付けた。しかし、そこから具体的にどう動けばいいのかが分からない…」
DXを進める企業様から、このようなご相談をいただくことがあります。
せっかく業務フロー図を作成して業務を見える化し、解決すべき課題を絞り込んだとしても、そこで作業が止まってしまっては組織は何も変わりません。むしろ、期待感だけが高まった分、実行が伴わなかった時の現場の落胆は、変革への意欲を削ぐ結果になりかねません。
私が目撃してきた「DXの失敗」の理由の1つには、課題設定の直後に「どのシステムを導入するか」という解決策へ安易に飛びついてしまうことに起因します。しかし、真の変革に必要なのは、解決策を考える前に、問題の「原因」を特定し、業務そのものを再構成する知恵です。
本記事では、課題設定後に行うべき「原因分析」から「解決策の立案」、そして「実行・評価」に至るまでの具体的なステップを詳しく解説します。問題の「症状」を叩くのではなく、「体質」から改善するための実践ガイドとしてご活用ください。
なお、課題設定前の業務可視化の方法については以下の記事で解説しています。





課題解決の成否を分ける「4つのステップ」
課題を設定した後の道のりは、単発の改善活動ではなく、継続的なサイクルとして捉える必要があります 。具体的には、以下の4つのステップを確実に踏むことが、失敗しないポイントです 。
- Step 1:課題設定
現状の業務に潜む「ムリ・ムダ・ムラ」といった問題や非効率な点から、解決すべき課題を明確に定めます。 - Step 2:原因分析
設定した課題(解決すると決めた問題)が「なぜ起きているのか?」について、その根本的な原因(真因)を突き止めます。 - Step 3:解決策立案
特定した根本的な原因(真因)を解消するために、具体的に何をするか、実行可能な解決策を考え出します。 - Step 4:実行・評価
計画した解決策を実際に動かし、その効果を客観的に評価することで、次の改善活動へとつなげていきます。


多くの企業が、Step 2の原因分析を疎かにして解決策(Step 3)に直接走ってしまうため、一時的に症状が和らいでも、時間が経つとまた同じ問題が再発するという「モグラ叩き」の状態に陥ってしまうのです。
問題の解決策は、問題そのものではなくその原因に対して講じるものです。その点を忘れないようにしてください。
【Step 2】根本原因分析:「なぜ?」を5回繰り返す
問題の表面的な事象を叩くのではなく、その背後に隠れている「真の原因(真因)」を特定しなければ、改善の効果は長続きしません。そのために最も有効な手法が「なぜ?」を5回繰り返す「なぜなぜ分析」です。
例えば、「毎月の定例報告書の作成に丸一日かかっている」という問題を考えてみましょう。この問題に対するなぜなぜ分析は以下のようになります。


このケースでは、問題の根本原因である真因は「報告書を作ることが目的化し、何のために必要なデータなのか共有されていないから」であることがわかりました。この真因に対する解決策は、最新の集計システムを導入することでないことは明らかです。その前に、「報告書の目的を再定義し、不要な項目を削る」というマネジメント側の改善をすることが先決です。
このように真の原因を特定せずに安易にITツールを導入する対策を打つことは、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるようなものなのです。
【Step 3】解決策立案:ECRS(イクルス)で「真因」を撃退する
「なぜなぜ分析」によって問題の真の原因(真因)が見えてきたら、いよいよ具体的な解決策を考えます。ここで強力な武器となるのが「ECRS(イクルス)」というフレームワークです 。
大切なのは、Step 2で導き出した「なぜ?」の答え(真因)に合わせて、ECRSのどの視点を使うかを決めることです 。
真因から導く解決策の選び方
例えば、Step 2の分析結果に応じて、次のような解決策を選択します。
- 真因が「そもそも必要ない」場合(例:報告書を作る目的が共有されていない ) →「Eliminate(排除)」を選択し、形骸化した日報や不要な承認印を廃止します 。
- 真因が「重複や分散」にある場合(例:部署ごとにバラバラに作業している ) → 「Combine(結合)」を選択し、複数の申請書を統合したり、業務を一部門に集約したりします 。
- 真因が「非効率な手順」にある場合(例:手作業での転記作業が発生している ) → 「Simplify(簡素化)」を選択し、マニュアルの図解化やRPA導入による自動化を図ります 。
ECRSの4つの視点と検討の優先順位
解決策を練る際は、以下の順番で検討することが、最大の成果を得るための鉄則です。


なぜ「Eliminate(排除)」が最優先なのか?
多くの経営者は、「どうすればもっと速くできるのか?(簡素化)」という最後のステップから入りがちです 。しかし、Step 2で「業務の目的が不明確」という真因に辿り着いたのであれば、まず検討すべきは「その業務そのものをやめること」です。無駄な枝を切り落としてから、残った「本当に必要な業務」をどう効率化するかを検討する。この順序を守るだけで、DXの投資対効果は劇的に向上します。







【Step 4】実行・評価:「やりっぱなし」で終わらせない
解決策が決まれば、いよいよ実行です。しかし、中堅・中小企業において最も多い挫折が「実行した後のほったらかし」です。これを防ぐには、PDCAサイクルを組織のルーティンとして組み込む必要があります。
成果を定着させるための3つのポイント
- Do(実行):小さく、速く、試す 「誰が」「いつまでに」「何を」やるかを明確にしたアクションプランを作成します。いきなり全社展開するのではなく、特定の部署や期間で「トライアル」から始めることで、リスクを抑えながら改善の精度を高めることができます。
- Check(評価):効果を客観的に測る 「なんとなく良くなった」という主観を排除し、改善前(Before)と改善後(After)を比較します 。事前に決めた指標(作業時間、コスト、エラー発生率など)を用いて、数値で効果を測定することが不可欠です。
- Action(定着):次のサイクルへつなげる 効果があった方法は、マニュアル化やルール化を行い、組織の標準として定着させます 。もし新たな課題が見つかれば、再びStep 1(課題設定)に戻り、さらなる改善サイクルを回し続けます。


改善は、一度きりのイベントではなく「終わりなきプロセス」です。この「変わり続ける仕組み」こそが、真のDXの姿なのです。
Q&A
Q1. 現場から「これまでのやり方を変えたくない」と反対されます。どう説得すべきでしょうか?
A.経営者がトップダウンで押し付けるのではなく、Step 1の可視化の段階から現場を巻き込むことが成功のカギです 。ITスキル以上に、「何のためにこのツールを導入し、どのように自分たちの仕事が楽になるのか」という合意形成が重要になります 。現場が「課題を解決するために自分たちが選んだ」という当事者意識を持てる環境を整えてください 。
Q2. 原因分析の「なぜ?5回」をやってみましたが、いつも「人手不足」に行き着いてしまいます。
A.「人手不足」は多くの企業に共通する「外部環境」であり、それ自体を真因とすると、対策が「人を採用する」しかなくなります。原因分析の際は、自分たちがコントロールできる「仕組み」や「手順」に目を向けてください。「なぜ、今の人員では回らない仕組みになっているのか?」と問い直すことで、ECRSを活用した具体的な改善策が見えてくるはずです。
Q3. ITツールの選定はどのタイミングで行うのがベストですか?
A.Step 3(解決策立案)の中で、ECRSを検討した結果「やはりこれはシステムに任せるべきだ」となったタイミングがベストです 。製品ありきで進めると、不要な機能にお金を払ったり、現場に馴染まないツールを導入してしまうミスマッチのリスクが高まります 。常に「現状業務の見え化(診断)」を先行させ、その処方箋としてツールを選んでください 。
最後に:経営者の「意志」が組織の明日を変える
業務の可視化、課題の設定、そして今回の原因分析と対策。これら一連のプロセスを貫くのは、経営者の「組織をより良くしたい」という強い意志です 。
「問題」は現実の中にしか存在しません 。しかし、その問題を直視し、真因を突き止め、改善のサイクルを回し始めることができれば、御社は必ず「変化に強い組織」へと生まれ変わることができます。
10年後の日本は、今よりもさらに深刻な人手不足に直面しているでしょう。その時、テクノロジーを使いこなし、無駄のない筋肉質な業務プロセスを持つ企業だけが、高い付加価値を生み出し続けることができます。
まずは、今回特定した「最優先課題」に対して、現場のメンバーと車座になり、「なぜ?」を一つ問いかけることから始めてみませんか。その一言が、御社のDXを「本物」に変える第一歩となります。次は、今回立案した解決策を確実に実行するための「アクションプラン」の作成と、現場への説明会を来週のスケジュールに入れてみませんか?
当事務所のオリジナル資料「DXで失敗しないための「業務の見える化」と「課題整理」実践マニュアル」を無料で公開しています。以下よりダウンロードの上、ご活用ください。




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