唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
「社員が自律的に動かない」
「計画がいつも絵に描いた餅になる」
「忙しいだけで利益が残らない」
経営コンサルタントとして、多くの中堅・中小企業の経営者様からこうしたご相談を受けてきました。そして、その解決策として「PDCAを回しましょう」と提案すると、決まってこのような反応が返ってきます。
「PDCA? そんな基本は知っているよ」
「変化の激しいこの時代に、悠長に計画なんて立てていられないよ」
確かにおっしゃる通りです。巷ではOODA(ウーダ)ループやアジャイルといった新しい概念が持て囃され、PDCAを「時代遅れの遺物」とする論調も少なくありません。
しかし、断言します。PDCAは決して死んでいません。ただ、多くの現場で「誤った回し方」をされ、窒息しているだけなのです。もしPDCAが本当に時代遅れなら、なぜトヨタ自動車やソフトバンクといった世界的な企業が、今なおこの思想を経営のド真ん中に据えているのでしょうか? 彼らはPDCAを単なる「管理ツール」としてではなく、組織を進化させる「思考の基盤」として使いこなしています。
本コラムでは、表面的なフレームワークの解説は致しません。経営コンサルタントとしての現場経験と、行動経済学・認知科学の知見を交え、御社のPDCAを「形骸化した報告会」から「最強の利益創出エンジン」へと変貌させるためのノウハウを公開します。




効果的なPDCAの基盤となる原則:なぜあなたの会社のPDCAは止まるのか?
PDCAを回すためのテクニック論に入る前に、「思考の基盤」をアップデートする必要があります。サイクルが止まる原因の9割は、手法ではなく、この「前提」のズレにあります。
すべての原点:「目的」の欠如が思考停止を招く
休日の旅行計画を立てる時、私たちは無意識に完璧なPDCAを回しています。
「家族でゆっくり温泉に入りたい(Plan)」ために宿を探し、「実際に宿を訪れる(Do)」、そして「料理は良かったけど、部屋が寒かったね(Check)」「次は別の宿にしよう(Action)」と改善します。
私たちはなぜ、仕事になるとこれができないのでしょうか?
答えはシンプルです。「何のためにやるのか?」が腹落ちしていないからです。
上司に言われたから、マニュアルにあるから。これではPDCAではなく、単なる「作業」です。PDCAサイクルを自律的に回す鍵は、「次工程はお客様」という意識です。自分の仕事が誰に渡り、どのように価値を生むのか。この「目的」が見えない限り、PDCAは絶対に回りません。
経営者であるあなたの最初の仕事は、社員に「PDCAを回せ」と号令をかけることではなく、「この業務の先には誰がいて、どんな笑顔が待っているか?」を語り続けることなのです。
目指すべき姿:「円運動」ではなく「スパイラルアップ」
多くの現場で見られるのが、同じ失敗を繰り返し、同じ場所をグルグル回っているだけの「ハムスター型PDCA」です。これは疲弊を生むだけです。
目指すべきは「スパイラルアップ(らせん的向上)」です。1周回るごとに、前回よりも一段高いレベルに到達していること。「昨日の自分たちより、今日は1ミリでも進歩しているか?」この感覚こそが、組織に学習習慣を植え付けます。
PDCAの2つの側面:「弱点克服」と「強み伸長」
日本人の真面目な気質ゆえか、PDCAの「A(改善)」が「ダメ出し」になりがちです。
「なぜ目標未達なんだ?」
「ここがダメだった…」
これでは、社員にとってPDCAは単なる「吊るし上げの場」となり、心理的な防衛本能(認知的不協和)が働いて、正確な報告が上がらなくなってしまいます。
成果を飛躍させるには、「うまくいっている点をさらに強化する」視点が不可欠です。「なぜ今回はうまくいったのか?」を分析し、それを組織の標準にする。マイナスをゼロにするだけでなく、プラスをさらに大きくするアプローチが、組織に活気をもたらします。
フェーズ1:計画(Plan)- 「仮説」なき計画はただの妄想である
「売上を上げよう!」
「頑張って訪問しよう!」
これらは計画ではありません。単なる「願望」です。Planフェーズで最も重要なのは、「これをやれば、こうなるはずだ」という因果関係を含んだ「仮説」を立てることです。
目標の具体化:KGIとKPIの設計図
まず、ゴールを数値化します。ここまでは多くの企業が行っていますが、重要なのは「KGI(結果)」と「KPI(先行指標)」の接続です。
| 指標 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| KGI(Key Goal Indicator) | 最終的なゴール | 売上1億円 |
| KPI(Key Performance Indicator) | ゴールへの過程(プロセス) | 新規商談数 月20件 |
「売上未達だ、気合いを入れろ!」と叱責するのは、体重計に乗って「痩せろ!」と叫んでいるのと同じです。コントロールすべきは体重という「結果」ではなく、カロリー摂取量と運動量等の「過程(プロセス)」です。
最終的なゴール(KGI)である結果を直接コントロールすることは難しいですが、「これをやれば必ず結果が出る」という行動(プロセス)はコントロール可能です。この行動(プロセス)を測定可能にしたものがKPIです。「このKPIさえ達成すれば、必然的にKGIは達成される」というレベルまで論理的に落とし込むのが、経営者とマネジャーの責任なのです。
例えば、自動車ディーラーの営業パーソンに対して「売上を上げろ!」と言ったところで、それは結果指標なのでなかなかうまく行きません。しかし、仮に試乗回数が売上に直結するということが分かっていれば、お客様に「乗ってみればわかります。とりあえず試乗してみて下さい」と案内して、試乗回数を高めることは可能です。この場合のKPIは「試乗回数」になります。
資源は有限である:「時間管理のマトリックス」による選択と集中
あれもこれもと欲張る計画は必ず破綻します。リソース(人・モノ・金・時間)は有限だからです。ここで使うべきは、アイゼンハワー・マトリックスとしても知られる「時間管理のマトリックス」です。


経営者が注力すべきは、「緊急ではないが、重要である(②)」です。人材育成、仕組みづくり、そしてまさにこのPDCAの設計。日々のトラブル対応(第1領域)に追われているうちは、経営ではなく「作業」をしているに過ぎません。勇気を持って「やらないこと」を決める。これが戦略的な計画の第一歩です。
思考の深堀り:トヨタ式「なぜなぜ分析」
課題設定が浅いと、対策も浅くなります。
例えば、「売上が落ちたから訪問数を増やせ(Plan)」といった計画は危険です。なぜならば、売上が落ちた原因はもしかすると商品力が落ちているからかもしれないですし、はたまた競合が新商品を出したからかもしれません。
「なぜなぜ分析」で、真因(Root Cause)に到達するまで「なぜ」を繰り返してください。
- 「なぜ売れない?」→「商談で断られる」
- 「なぜ断られる?」→「価格が高いと言われる」
- 「なぜ高い?」→「競合A社より高いから」
- 「なぜA社は安い?」→「製造プロセスが自動化されているから」
- 「なぜうちの会社は製造プロセスを自動化できない?」→「古い設備への固執があるから」
上記は一例ですが、ここまで掘り下げて初めて、「訪問数を増やす」ではなく「設備投資計画を見直す」という有効なPlanが生まれるのです。
フェーズ2:実行(Do)- 実行とは「データ収集の実験」である
Doフェーズにおける最大の敵は「完璧主義」と「失敗への恐怖」です。
経営者はのように伝えてください。「実行とは、計画という仮説が正しいかどうかを確かめる実験である」と。
計画遵守と「事実」の記録
実験である以上、条件を変えてはいけません。まずは計画通りにやってみる。
そして何より重要なのが「記録」です。「頑張りました」という感想はいりません。「10件訪問し、3件で決裁者に会え、1件は見積もりに進んだ」というファクト(事実)だけが、次の改善の材料になります。
行動の分解:DoからTo-Doへ
「新規開拓をする」というDoは重すぎます。人間の脳は、抽象的なタスクを前にすると「面倒だ」と感じて先延ばしにする性質があります(現状維持バイアス)。これを「To-Do(タスク)」レベルまで砕きます。
- × 新規開拓をする
- ○ 今日の10時までにリストアップした5社に電話をかけ、アポ日程を聞く
ここまで分解すれば、社員は迷わず動けます。これをKDI(Key Do Indicator:重要行動指標)として管理することで、実行の確率は劇的に向上します。KDIとは、目標達成に向けた具体的な行動を数値化した指標のことです。






フェーズ3:評価(Check)- 「反省会」ではなく「検証会」を行え
ここが多くの日本企業でPDCAが止まる場所です。Checkは「誰が悪いか」を吊るし上げる場ではありません。「計画(仮説)と結果のズレ」を客観的に検証する科学的なプロセスです。
ファクトフルネスな視点:KGI・KPI・KDIの三層分析
数字を見てください。感情はいりません。
- KDI(行動)は達成したか? → Noなら、サボっていたか、忙しすぎたか。
- KPI(中間成果)は達成したか? → 行動したのにKPIが出ないなら、「やり方(質)」が間違っている
- KGI(最終成果)は達成したか? → KPIは達成したのにKGIがいかないなら、そもそも「KPIの設定」が間違っている(仮説の誤り)
このように分解すれば、誰かを怒鳴る必要はなくなり、システムの不備が見えてきます。
KPT法による建設的な振り返り
会議では「KPT」のフレームワークを使ってください。ホワイトボードを3つに区切るだけで十分です。
- Keep(良かったこと・続けること): 成功要因は何か?再現性はあるか?
- Problem(悪かったこと・課題): 障害は何だったか?(人を責めず、仕組みを責める)
- Try(次に挑戦すること): Keepを伸ばし、Problemを潰す具体的行動。
失敗原因の類型化:自分たちを責めすぎない
成果が出ない理由は4つしかありません。
- 行動不足(やっていない)
- スキル不足(やり方が下手)
- 仮説の誤り(計画そのものが間違い)
- 外部要因(競合や環境の変化)
「気合いが足りない」で片付けず、冷静に分類することで、打つべき対策が見えてきます。
フェーズ4:改善(Action)- サイクルを「次」につなげる意思決定
Actionは、次のPlanへの架け橋です。ここで適当な対策を立てると、また同じ失敗を繰り返します。
3つの選択肢:継続・修正・中止
評価に基づき、次のアクションを決めます。特に重要なのは「中止の決断」です。「せっかくここまでやったから(サンクコスト効果)」という心理的罠を避け、成果が出ない施策はスパッと止める。空いたリソースを、成果が出ている「Keep」の強化に回す。これが経営判断です。
評価と改善策の「論理的整合性」
よくある間違いがこれです。
- 原因:「時間がなくて訪問できなかった」
- 対策:「ロープレをして営業スキルを上げよう」
これでは解決しません。原因が「時間不足」なら、対策は「事務作業を減らす」「移動ルートを見直す」であるべきです。原因と対策の整合性を常にチェックするようにしてください。
発展的アプローチ:PDCAを加速・深化させる「高速回転」技術
基本ができたら、応用編です。ライバルを引き離すためのスピードと質を追求します。
ソフトバンク式「超高速日次PDCA」
月次会議でPDCAを回していませんか? それでは遅すぎます。今の時代、1ヶ月前のデータは「歴史」です。
ソフトバンクのように、「毎日目標を立て、毎日実行し、毎日振り返る」。朝5分、夕方10分で構いません。サイクルの回転数が多ければ多いほど、組織の学習スピードは上がり、進化します。
7.2. PDCA+F:外部の風を入れる
自分たちだけで回していると、どうしても甘えや思い込みが出ます。そこに「F(フィードバック)」を入れます。顧客の声、外部コンサルタントの視点、他部門からの指摘。耳の痛い意見こそが、イノベーションの種です。
7.3. ITツールによる「自動化」
SFAやCRMなどのツールを導入する最大のメリットは、「Checkの自動化」です。入力さえすればグラフが出る状態になれば、集計作業という無駄な時間が消え、その分を「どう改善するか」という思考の時間に使えます。
SFA、CRMの詳細については以下の記事をお読みください。
PDCAサイクルの適用範囲と限界:OODAループとの「垂直分業」
「これからはOODA(ウーダ)ループの時代だ」という言説に対し、私は「PDCAサイクルとOODAループの垂直分業」を提唱しています。これが、中小企業経営における最適解だと考えています。
OODAループは、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)の頭文字をとってできた言葉です。OODAループは文字通り「ループ」であるため、必要に応じて途中で前の段階に戻ってループから再開したり、状況に応じて任意の段階からループをリスタートできる点が大きな特徴です。Plan(計画)に基づいて1周するPDCAサイクルに比べ、OODAループは自由度が高く、環境変化に対応しやすいということが大きな違いといえます。
マネジャーはPDCAサイクル、現場はOODAループ
- 経営層・マネジャー(上位PDCAサイクル): 中長期の戦略、予算配分、採用計画などの「安定的な領域」は、計画重視のPDCAでガッチリ管理します。
- 現場・最前線(高速OODAループ): 日々状況が変わる顧客対応やトラブル対応は、現場の判断(Observe→Orient→Decide→Act)に任せます。
重要なのは、経営者が現場のOODAに口を出さないこと。「計画通りにやれ!」と現場を縛ると、変化に対応できなくなります。逆に、現場が好き勝手にやって戦略から逸脱するのもNGです。「戦略(PDCAサイクル)の枠内で、戦術(OODAループ)を回させる」。このバランス感覚こそが、これからのリーダーに求められる資質です。
ブランドという「軸」を守る
短期的なPDCA(数字の改善)ばかり追うと、「売れれば何でもいい」となり、ブランドイメージが崩壊することがあります。「変えるべき領域(戦術・プロセス)」と「変えてはいけない領域(理念・ブランド)」を明確に線引きしてください。
習慣化と組織文化への定着:PDCAを「空気」にする
最後に、最も難しい「継続」の話をします。人間の意志は弱いです。精神論ではなく、行動経済学的な「ナッジ(行動を促す仕組み)」を使います。
個人レベル:ハードルを極限まで下げる
「毎日しっかりPDCAを回そう」と意気込むと、三日坊主になります。
- 最小化: 「帰り際に1行だけ日記を書く」から始める。
- 単純化: スケジュールに「振り返りタイム」を入れ、アラームを鳴らす。
- 強制化: 朝礼で昨日やったことを全員一言ずつ発表する。
「やろうかな」と考える隙を与えず、歯磨きのように無意識のルーティンに落とし込みます。
組織レベル:心理的安全性の担保
「失敗しても怒られない、むしろナイスチャレンジだと褒められる」
この心理的安全性がない組織では、PDCAは絶対に定着しません。バッドニュースが隠蔽されるからです。 「今週の失敗共有会」を開催し、一番大きな失敗(挑戦の結果)をした人を拍手する。そんな文化を作れるかどうかが、経営者の器の見せ所です。
心理的安全性については、以下の記事をお読みください。
Q&A
Q1. 従業員がPDCAを面倒くさがって、日報すらまともに出してくれません。
A. 「日報を書くメリット」を従業員が感じていないからです。「監視されている」と感じているのでしょう。日報に書かれた課題に対して、経営者が即座にリソースを提供したり、アドバイスを返したりして、「書けば仕事が楽になる・助けてもらえる」という実感を抱かせることが先決です。
Q2. 計画(Plan)を立てるのに時間がかかりすぎて、実行が遅れます。
A. 「仮説」の精度にこだわりすぎです。PDCAは1回で正解を出すものではありません。60点の計画でいいので、まずはDo(実験)を行い、Checkで修正する。回転数で質を高める「高速回転」にシフトしてください。
Q3. 小規模な組織(数名)でもPDCAは必要ですか?
A. むしろ小規模だからこそ必須です。大企業と違い、中小企業は「リソースの無駄遣い」が即、死につながります。限られた人数、資金で最大の成果を出すためには、PDCAによる「一点突破」の集中と改善が生命線となります。
まとめ:成果を出し続けるためのPDCAの本質
ここまで読み進めていただき、ありがとうございます。
PDCAサイクルとは、単なる管理手法ではありません。それは、「自分たちは、明日もっと良くなれる」と信じる、希望のサイクルです。
現場に行って、社員の顔を見てください。彼らは決して怠けたいわけではありません。ただ、「どうすれば成果が出るか」という地図(Plan)と、自分が進んでいる方向が正しいかを知るコンパス(Check)を持っていないだけなのです。
その地図とコンパスを渡せるのは、経営者であるあなただけです。
「PDCAなんて古い」という雑音に惑わされないでください。本質的なPDCAを回し始めたその日から、あなたの会社は「昨日と同じ今日」を繰り返すことをやめ、螺旋階段を一気に駆け上がり始めます。
さあ、まずは今日の帰り際、社員にこう声をかけるところから始めてみませんか?
「今日は何か、新しい発見(Check)はあった?」
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。


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