唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
電話やメールに代わり、ビジネスチャットツールが企業のコミュニケーションを変革しつつあります。その利便性とスピード感は、特にリモートワークやハイブリッドワークが主流となった現代の働き方において、不可欠な存在となっています。しかし、ツールの導入や運用を誤れば、かえって混乱を招き、生産性を下げてしまうリスクもあります。
本記事では、中堅中小企業経営者のあなたがビジネスチャットツールを正しく選び、運用し、生産性向上へと結びつけるためのポイントを解説します。また、よくある疑問や課題にもQ&A形式でお答えし、導入初期の不安を解消する具体的な方法をご提案します。チャットツールを上手に活用し、コミュニケーションの効率化と意思決定のスピードアップを図ることで、貴社の競争力をさらに高める第一歩を踏み出しましょう。
ビジネスチャットツールが必要とされる背景

市場環境の変化やリモートワークの普及に伴い、意思決定のスピードと正確性が重視されるようになりました。チャットツールが注目される背景には以下のような要因があります。
- コミュニケーションの高速化
メールのように件名や宛先を毎回設定する必要がなく、リアルタイムに会話が進むためスピード感が違います。 - 情報の一元化
プロジェクトごとやチームごとにチャットルームやチャンネルを作成でき、やりとりやファイルを集中管理できます。 - リモートワークや在宅勤務への適応
場所を選ばずコミュニケーションが可能であり、多くの企業が導入を急速に進めています。 - コスト削減・オフィスの効率化
出張や電話対応などにかかる手間やコストを削減し、オフィススペースを最適化できる可能性があります。
チャットツール導入がもたらすメリットと留意点

ここでは中堅中小企業目線で、チャットツール導入のメリットと留意点を整理します。
メリット
- 意思決定スピードの向上
重要事項や緊急案件に対して、即時に担当者へ連絡・相談ができるため、意思決定が加速します。 - コミュニケーションコストの削減
相手の都合に合わせて連絡を待つ必要が少なくなり、電話やメールに費やされる時間の削減に貢献します。 - 組織的ナレッジの蓄積
チャット上でのやり取りはログとして残せるので、後から内容を参照したり、新たに入社した社員が過去のプロジェクト内容を把握するのに役立ちます。 - 柔軟な働き方の実現
リモートワークや外回りなど、働く場所や時間帯がバラバラでも円滑にやり取りができるため、柔軟な働き方を実現しやすくなります。
留意点
- 情報漏洩リスクへの対策
社外からのアクセスが増える分、情報セキュリティ管理を徹底する必要があります。ログイン時の二段階認証や権限設定の見直しは不可欠です。 - 運用ルール・マナーの確立
チャットは便利な反面、通知が頻繁に来ることで作業効率が落ちるリスクがあります。使用目的や利用時間帯、返信の優先度など運用ルールを明確に決めておくことが大切です。 - ツール導入による混乱
社員が使いこなせないまま導入すると、生産性を上げるどころかコミュニケーションが散逸し、かえって混乱のもとになります。導入前の周知徹底やトレーニングが重要です。 - 選定・導入コスト
チャットツールの大半は月額課金制ですが、ユーザー数や機能によって料金が変わります。十分なリサーチと効果検証を行ってから導入を決定しましょう。
代表的なビジネスチャットツールと特徴

市場には数多くのチャットツールが存在します。その中でも特に注目されやすい代表的なツールをいくつかご紹介します。
- Slack
グローバルで人気が高く、多くの外部連携(Google DriveやTrelloなど)に対応。UIが洗練されており、エンジニア企業からスタートアップまで幅広く活用されています。 - Microsoft Teams
Office 365との連携に強く、WordやExcel、SharePointなどを日常的に使う企業にとっては非常に便利。ビデオ会議の機能も充実しています。 - Chatwork
日本国内の中小企業で根強い人気。シンプルなUIで使いやすく、導入コストも比較的低い点が魅力です。 - LINE WORKS
個人向け「LINE」のビジネス版。社員が日頃から慣れ親しんだ操作感で導入ハードルが低く、チャットだけでなく通話やタスク管理も可能です。 - Google Chat
Google Workspace(旧 G Suite)を利用している企業にはスムーズに導入しやすいチャットツール。Gmailやカレンダーとの連携が強みです。
これら以外にも多数存在しますが、自社の業務フローや既存システムとの相性、そして従業員のITリテラシーを考慮した上で選ぶことが大切です。
ビジネスチャットツール導入のステップ
ここでは、おすすめする6つの導入ステップを紹介します。ツールの選定時だけでなく、導入後の運用も念頭に置いたステップを意識しましょう。

- ゴール設定
「情報共有のスピードアップを図りたい」「リモートワークを円滑化したい」など、チャット導入のゴールを明確にします。これによりツール選定や導入効果の測定が容易になります。 - 現状分析
現在の社内コミュニケーション方法、課題、ITリテラシーのレベルなどを客観的に把握しましょう。従業員アンケートやヒアリングが有効です。 - ツール選定・検証
代表的なツールをいくつか候補に挙げ、無料トライアルを活用して機能や操作性、サポート体制をテストします。あわせてセキュリティやコスト面の比較も行います。 - 運用ルール策定・周知徹底
使用目的・利用範囲・返信のルール・ファイルの取り扱いなど、ガイドラインを設定しましょう。ポイントは、「わかりやすく簡潔であること」です。 - 導入・教育
導入初期は説明会やチュートリアル動画などを整備し、全社的に浸透を図りましょう。主要メンバーに「チャットツールの先行ユーザー」になってもらうと、スムーズに使いこなせるようになります。 - 効果測定・改善
目標としたゴールに対して、導入後どの程度改善が見られたかを定期的に測定します。使いにくい点や不要な機能があればフィードバックを受け、運用ルールやツールそのものを見直します。
チャットツールを活用し、生産性を高めるポイント

チャットツールを有効活用して生産性を高めるためのポイントは以下の5点です。
- チャットの「過剰利用」を避ける
即時のやりとりが可能だからといって、必要以上に連絡を送り合うのは逆効果です。緊急度や重要度に応じて連絡方法を使い分けましょう。 - 情報共有を集約する
チャンネルやグループ分けを戦略的に行い、トピック別・プロジェクト別に情報を整理します。混在を防ぎ、必要なときに必要な情報を探しやすくすることが重要です。 - 運用ルールの定期的な見直し
社内の環境やチーム構成の変化に応じて、チャットツールのルールは柔軟にアップデートしましょう。期限を決めて定期的にレビューを行うことを推奨します。 - ツールに振り回されない働き方の推進
「既読スルー」の概念がメールよりシビアになるなど、心理的な圧力が増すケースもあります。休日や夜間の対応を強制しないなど、ワーク・ライフ・バランスを考慮した運用を心がけましょう。 - 全社的なリテラシー向上
ツールの使い方だけでなく、情報セキュリティ、パスワード管理、ネットリテラシーなどを定期的に教育し、安心・安全に利用できる社内文化を育てることが大切です。
Q&A
Q1: チャットツールはどれも同じように見えますが、どう選べばいいのでしょうか?
A: ツールによってUIや操作性、外部連携のしやすさ、セキュリティ水準が異なります。以下の基準をチェックすると選定しやすいでしょう。
- 操作性: 社員のITリテラシーや業務スタイルに合っているか?
- 連携性: 既存で使っているシステム(Office 365、Google Workspaceなど)との接続が容易か?
- セキュリティ: データの暗号化やアクセス権限の設定が柔軟に行えるか?
- サポート: 導入後の問い合わせ先やヘルプセンターの対応レベル?
Q2: メールとの住み分けはどうすればいいのでしょうか?
A: チャットは「即時性の高いコミュニケーション」、メールは「公式な文書や社外とのやりとり」と役割分担をするのが一般的です。具体的には、社外取引先やフォーマルな案内はメール、社内連絡や進捗共有などはチャットに移行するといった形がおすすめです。あらかじめどのような内容をどちらでやりとりするか、ガイドラインを設けましょう。
Q3: 社員が混乱しないようにするコツはありますか?
A: まずは「最小限の機能」からスタートすることがおすすめです。欲張りすぎて複雑な運用ルールを設けると、従業員が使いこなせず混乱しがちです。チャンネルの作りすぎに注意し、不要な通知をオフにするガイドを社内で共有するなど、運用ルールを徐々に拡張していくとスムーズに浸透します。
Q4: セキュリティ面が不安です。どんな対策が必要でしょうか?
A: 中小企業でも油断は禁物です。
- 二段階認証の導入: ログイン時にメールやSMSで認証コードを受け取るなど。
- アクセス制限: 社員のアクセス可能範囲やデバイスを限定。
- 情報管理ルールの策定: 機密情報の取り扱いやパスワード管理を徹底。
- 監査ログの定期チェック: 不審なログインや操作がないか、IT担当者やシステム管理者が定期的にモニタリングする。
Q5: ツールの費用対効果はどのように測ればいいのでしょうか?
A:明確なKPIを設定することが重要です。たとえば「1日のメール送信数の減少率」「プロジェクト完了スピードの向上」「会議時間の短縮」「クレーム対応の迅速化」など、チャットツール導入によって改善したい指標を設定し、導入前後で比較します。定量的な測定が難しい部分もありますが、現場へのヒアリングや顧客満足度調査などを組み合わせて、可能な限り効果を可視化するとよいでしょう。
まとめ
ビジネスチャットツールは、中小企業にとってコミュニケーションのスピードと効率を飛躍的に高める強力な手段となり得ます。しかし、導入すれば自動的に業務効率が上がるわけではありません。運用ルールの整備や組織文化への定着、リテラシー教育、そして定期的な効果測定と見直しが大きなカギを握ります。特に中堅中小企業では、トップの方針や現場の理解・納得感が成否を分けます。経営者が率先してツールの使い方を学び、管理者や社員と一体となって意義を共有できれば、メール時代のコミュニケーションと比較して大幅な時間短縮や意思決定スピードの向上を実現できるでしょう。
本コラムがお役に立ち、貴社の社内コミュニケーション改革に少しでも貢献できれば幸いです。ビジネスチャットツールを上手に活用して、より効率的でスピーディなチームワークを築いていきましょう。
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