唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
同族経営を行っている企業は、家族の絆や信頼を基盤にした強力な経営が可能ですが、その一方で同族経営特有の課題も多く存在します。経営が一族に集中することで、企業が私物化されやすくなったり、後継者問題が浮上したりすることはよくある話です。
特に、後継者選びや事業承継は多くの同族企業で大きな壁となるため、課題を放置すると、企業全体に悪影響を及ぼし、最悪の場合には廃業に至ることもあります。 この記事では、同族経営が抱える代表的な課題と、それらを克服するための具体的な解決策についてわかりやすく解説していきます。
同族経営特有の課題とは?

経営の私物化とガバナンス欠如
同族経営で最も深刻になりがちな課題が、経営の私物化です。
- 経営者一族への権限集中による意思決定の偏り
- 取締役会が形骸化し、チェック機能が働きにくい
- 不適切な投資や人事評価が見過ごされるリスク
具体的には、取引先の選定や社員の評価が個人的な関係に左右され、客観的な基準や合議制が不十分になるケースが多々あります。これにより、以下の問題が生じやすくなります。
- 従業員のモチベーション低下
- 優秀な人材の流出
- 経営判断の質の低下
- 取引先や金融機関からの信用リスク
こうした課題を解決するには、経営者自身が現状を把握し、外部の視点を取り入れることが不可欠です。
当事務所では、経営者自身が客観的な視点を持ち、経営判断の透明性を確保しながら、組織の健全な成長を支援する体制を構築することが可能です。同族経営におけるガバナンス強化を支援し、企業が持続的に成長できる仕組みづくりをサポートしています。
後継者問題と事業承継の難しさ
同族企業において、後継者の育成と事業承継はしばしば最大のハードルです。
- 先代の過度な干渉:すでに後継者が決まっていても、新経営者の取り組みが先代によって阻害される
- 後継者不在:子どもに事業を継ぐ意思がない、または複数の候補間で利害対立がある
- 育成の先送り:現経営者が「まだ早い」と考えて準備不足になり、いざ承継時期が来たときに体制が整っていない
帝国データバンクの調査(2023年)によると、中小企業の約53.9%が後継者不在を課題として挙げています。計画的な権限移譲や育成プログラムの整備を怠ると、企業全体に悪影響が及ぶことは必至です。

出典:株式会社帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2023年)」
社員間の不平等とモチベーション低下
血縁による昇進や特別待遇が行われがちなため、同族社員と非同族社員の間で不平等感が生じるケースも見られます。
- 能力や実績ではなく血縁関係が評価基準になる
- 同族優遇によるモチベーション低下
- 優秀な人材が流出し、企業の成長が停滞
組織内に分断が生じると、従業員全体の士気が著しく損なわれる可能性があります。これらを放置すると、企業の長期的な成長が大きく阻害される恐れがあります。
課題解決に向けた具体策

コーポレートガバナンスの強化が第一歩
同族経営の私物化を防ぎ、経営の健全性を保つには、適切なガバナンス体制の構築が不可欠です。具体的な施策は以下の通りです。
- 取締役会の実効性向上
- 社外取締役を最低1名以上登用し、経営の透明性を確保
- 定期的な取締役会を開催し、重要事項を合議制で決定
- 規程・ルールの整備
- 職務権限規程を明確化
- 公正な人事評価制度の導入
- 利益相反取引をチェックする仕組みづくり
■事例:ある製造業の経営会議への外部参加
コンサルタントの私が月次経営会議に参画することで、経営判断の透明性が向上し、社員や取引先からの信頼が高まったケースがあります。経営者も自社の私物化を防ぎ、客観的な視点を得やすくなりました。
こうした体制の整備には、経営者自身の意識改革と具体的なアクションプランが必要です。当事務所では、経営の透明性向上や組織改革を支援し、同族経営が抱えるリスクを最小限に抑えるための実践的なアドバイスを提供しています。
外部人材の活用で閉鎖性を打破
同族企業が陥りやすい「閉鎖性」を改善するためには、組織に新しい風を取り込むことが重要です。
- 経営幹部への外部人材登用:専門性の高い分野(財務・法務・ITなど)で、中途採用を積極的に行う
- コンサルタントやアドバイザーの活用:社内からは言いにくい問題点を客観的に指摘・改善できる
- 部門横断プロジェクトや全社員会議:同族・非同族問わず、社員が提案や意見交換を行いやすい仕組みを導入
■事例:部門横断の「改善提案会議」の実施
ある企業では、月1回の改善提案会議を実施した結果、現場から年間100件以上の提案が上がり、生産性が2年間で20%向上したケースがあります。非同族社員でも実力を発揮できる環境を作ることが大切です。
後継者育成と円滑な事業承継
後継者問題を解決し、事業承継を成功させるためには、以下のステップが重要です。
- 早期からの計画的育成
- 5~10年を目安に、複数部門のローテーションを経験させる
- 段階的な権限委譲で実践的な経営ノウハウを習得
- 経営理念・価値観の共有
- 創業家の理念や企業文化を次世代に伝え、社内や取引先との関係性を築く
- 現経営者の適切な“身の引きどころ”
- 会長職や相談役になった後、細部まで口出しをし続けると、新経営者の権限が曖昧になる
- 計画的な権限移譲で、新たなリーダーシップを確立
■事例:製造業の後継者ローテーション制度
営業・製造・管理部門を5年かけて経験させるプログラムを導入した企業では、後継者が企業全体を俯瞰できる視点を身につけ、スムーズなトップ交代が実現しました。
Q&A
Q1: 同族経営で最も気をつけるべき点は何ですか?
A: 経営の私物化を防ぎ、適切なガバナンス体制を構築することです。
社外取締役の登用や外部コンサルタントの活用により客観的な視点を確保した上で、経営者に対してそれをしっかりと伝えることで気づきを与える体制を整備することが重要です。
Q2: 後継者育成はいつから始めるべきですか?
A: できるだけ早期に後継者を選定し、育成を開始することが望ましいです。事情承継における後継者育成には、一般的に5年から10年程度の期間が必要とされます。
Q3: 非同族社員のモチベーション維持のためには何が必要ですか?
A: 以下の施策が効果的です。
- 明確で公正な人事評価制度の整備
- 非同族社員の幹部登用
- 社外取締役の導入によるガバナンス強化
Q4: 同族経営における事業承継の成功のポイントは?
A: 主に以下の3点が重要です。
- 早期からの計画的な後継者育成
- 経営理念・価値観の共有
- 「右腕」となる経営幹部の育成
まとめ:同族経営の強みを活かし、持続的成長を目指す
同族経営には、家族の強い結束力や長期的なビジョンを持てるという大きなメリットがあります。しかし、その一方で、ガバナンスの欠如や後継者問題、非同族社員との摩擦といった課題を放置すると、企業の成長が停滞し、信頼を失うリスクが高まります。
成功する同族経営のためには、以下の3つのポイントが重要です。
- コーポレートガバナンスの強化
- 社外取締役の活用や意思決定プロセスの明確化により、経営の透明性を確保。
- 計画的な後継者育成と権限移譲
- 早期から後継者候補を選び、経営ノウハウを実践的に学ぶ環境を整備。
- 公平な組織文化の確立
- 同族社員・非同族社員の区別なく、公正な評価基準を策定し、組織の一体感を強化。
企業は家族だけのものではなく、従業員や取引先、社会全体から必要とされる存在です。伝統を守りつつ、変革を恐れずに進むことが、持続的な成長につながります。
唐澤経営コンサルティング事務所では、経営の健全化と持続可能な成長のために、最適な戦略構築をサポートいたします。
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