唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
「なぜ同じ会社の中なのに、部門間で協力がうまくいかないのだろう?」
そんな悩みを抱える経営者の方も多いのではないでしょうか。
部門間の連携が取れていない組織は、業務の効率が落ち、顧客へのサービス提供にも悪影響を及ぼします。一方で、部門間連携がしっかりと強化されると、組織全体のパフォーマンスが向上し、競争力を高める大きな武器となります。
この記事では、部門間の壁を壊し、スムーズな連携を実現するための5つの実践的な手法をわかりやすく解説します。本記事を読み終えた頃には、あなたの会社の「連携力」を大きく高めるためのヒントが見つかるはずです。
部門間連携の重要性

なぜ部門間連携が必要なのか?
部門間連携は、企業が持続的に成長し、競争力を高めるために欠かせない要素です。
たとえば、営業部が顧客ニーズを正確に把握しても、その情報が製造部に適切に共有されなければ、顧客の期待に応える製品を開発・提供することは困難です。このような連携不足は、どの企業でも発生し得る課題であり、ビジネスの成長を阻害する大きな要因となります。
一方で、部門間で円滑な連携が実現すれば、情報共有がスムーズになり、意思決定の迅速化や柔軟な対応が可能になります。その結果、顧客満足度の向上、業務効率の改善、さらには収益性の向上といった成果を期待することができるのです。
部門間連携の重要性を認識し、それを促進する取り組みを行うことは、企業の持続可能な成功に向けた大きな一歩となります。
部門間連携がもたらすメリット
部門間の連携が強化されることで、以下のような具体的なメリットが得られます。
- 効率的な問題解決:部門を超えた視点で問題を捉えることができ、根本的な解決がしやすくなります。
- 顧客対応力の向上:全社的に一貫したサービスを提供できるため、顧客からの信頼が向上します。
- 従業員満足度の向上:部門間の協力体制が整うことで、業務負担が均等化される基礎が築かれ、働きやすい環境が生まれます。
部門間連携が弱い組織の課題とは
部門間連携が弱い組織では、以下のような問題が顕著に現れます。
- 情報の断絶:重要な情報が一部の部門に閉じ込められ、全社としての最適な意思決定が難しくなる。
- 責任の押し付け合い:問題が発生した際に、部門間で責任を転嫁する文化が生まれる。
- 生産性の低下:業務の重複や無駄が発生し、リソースの有効活用が難しくなる。 これらの問題に直面しないためにも、部門間連携の強化は企業にとって避けて通れないテーマとなります。
部門間連携を強化する5つの手法

手法①:明確な目標設定と共有
部門間の連携を強化するためには、全社共通の目標を明確に設定し、それを全社員が理解しやすい形で共有することが欠かせません。
目標が漠然としている場合、各部門がそれぞれ異なる方向に進んでしまい、全体としての効果が薄れることがあります。
たとえば、売上の向上を目指す場合でも、「来年度に売上を10%増加させる」といった具体的な目標を設定し、その理由や背景を説明することが重要です。
さらに、この目標を部門ごとに細分化し、「営業部は新規顧客を20件獲得する」「製造部は納期短縮を達成する」といった具体的な目標に落とし込むことで、全体の動きが一つにまとまります。
また、目標の進捗を定期的に確認する仕組みも必要です。
例えば、月に一度の進捗会議を設け、各部門が現状を報告し合う場を作るとよいでしょう。このような共有が、連携をより強化する基盤になります。
手法②:部門横断型プロジェクトの活用
部門間連携を実現するために効果的な手法の一つが、部門横断型プロジェクトの導入です。この方法は、特定の課題や目標を達成するために、異なる部門からメンバーを選抜し、チームを編成するものです。これにより、各部門が持つ専門知識を活かしながら、全社的な課題解決を目指せます。
たとえば、新製品の開発を進める際、営業部から顧客のニーズに精通したメンバーを、製造部からは技術に詳しいメンバーを選出し、さらにマーケティング部から市場分析のスペシャリストを加えると、各分野の知見を融合させた成果が期待できます。
プロジェクト成功のためには、次のポイントを押さえることが大切です。
- リーダーの明確化:プロジェクト全体を管理し、意思決定を迅速に行えるリーダーを設置します。リーダーにはコミュニケーション能力や調整力が求められます。
- 役割分担の明確化:各メンバーが何を担当し、どのような成果を期待されているかを初期段階で明示する必要があります。
- 進捗の見える化:タスクの進捗状況を全員が把握できる状態を作ります。
さらに、プロジェクトが終了した際には、成果を全社に共有し、成功事例として活用することが有益です。このプロセスにより、組織全体で学びを深め、次回のプロジェクトに活かすことができます。
手法③:コミュニケーションプラットフォームの導入
部門間の壁を壊すためには、スムーズな情報共有を可能にする仕組みを整備することが必要です。従来のメールや口頭での連絡だけでは、情報の伝達スピードや共有範囲に限界があります。そこで役立つのが、コミュニケーションプラットフォームの導入です。
たとえば、SlackやMicrosoft Teamsといったツールは、リアルタイムでの情報共有やタスクの整理を支援します。
このようなツールの活用により、複数の部門が一元化された情報にアクセスできるため、連絡の手間やタイムラグが大幅に削減されます。また、ファイル共有やグループチャットの機能を活用することで、業務の透明性を向上させることが可能です。
導入時には、以下のポイントに注意してください。
- 利用目的の明確化
全社員が「なぜこのツールを使うのか」を理解できるように、導入の目的やメリットを明確に伝える必要があります。 - 操作研修の実施
特にITに慣れていない社員に対しては、基本的な操作方法を説明する研修を行い、スムーズな移行をサポートします。 - 情報の整理ルールの設定
ツール内のチャンネル(グループ)やフォルダの構成を整理し、誰もが直感的に必要な情報にアクセスできる仕組みを整えましょう。
たとえば、ある企業では、部門ごとのチャットチャンネルに加えて、全社共通の「アイデア共有」チャンネルを設けることで、異なる部門から新たな発想が生まれました。このような仕組みを活用すれば、部門間の連携が大幅に向上します。
手法④:人事評価制度の見直し
部門間連携を妨げる大きな要因の一つが、人事評価制度です。
多くの企業では、部門や個人単位の成果を評価することが一般的ですが、そうすると部門ごと・個人ごとの競争が生じやすくなるため、組織間連携の必要性が軽視されることがあります。
連携を促進するためには、評価制度を以下のように見直すことが有効です。
- 部門間協力の評価を加える
各部門が協力して成果を生み出した場合、その「連携貢献度」を明確に評価する仕組みを設けましょう。たとえば、営業部と製造部が協力して新製品を迅速に市場投入した場合、両部門に貢献度を基準にした評価を与える形です。具体的には、営業部が収集した顧客フィードバックを、製造部が迅速に商品設計に反映したケースでは、営業部は「フィードバックの正確性、提供タイミング、製造部への説明の明瞭さ」等を、製造部は「受け取った情報を基にした対応スピード、品質改善の具体的な結果」等をの評価ポイントとします。 - 全社目標との整合性を重視
個別の部門目標だけでなく、全社的な目標達成にどれだけ寄与したかを評価基準に含めます。例えば、営業部が新規顧客の獲得数を増やす目標として設定する場合は、その顧客のニーズに対応するために、製造部が製品カスタマイズに対応した実績件数を評価基準に含めるとする等です。これにより、全社員が「自分の仕事が会社全体にどのように影響しているか」を意識するようになります。 - プロセスも評価対象に含める
実績だけでなく、他部門との協力姿勢や情報共有の積極性といったプロセスも評価基準に加えます。たとえば、営業部が製造部と協力して新商品の仕様を決定する場合は、「他部門からの意見をどれだけ積極的に取り入れたか」「他部門と協力して発生した課題をどのように解決したか」等のプロセス項目を評価対象とします。これにより、結果に直結しない取り組みも評価され、部門間の壁が低くなります。
人事評価制度を見直すことで、部門ごとの部分最適ではなく、全社的な連携を重視した行動が自然と促進されます。いずれにいても、期初の目標設定時点で、部門間連携を考慮した基準をしっかりと織り込めるかどうかがカギとなります。
手法⑤:チームビルディングの実施
部門間の壁を壊すためには、単なる業務上の連携だけでなく、社員同士の信頼関係を築くことが欠かせません。そのために効果的なのが、定期的なチームビルディング活動です。この活動は、異なる部門の社員が一緒に課題を解決したり、共通の目標に向かって協力する機会を作ることで、自然と連携意識を高める役割を果たします。
具体的な取り組みとしては、以下のようなものが考えられます。
- 異部門合同のワークショップ
問題解決型のワークショップを開催し、部門の垣根を超えて討議しながら協力する場を設けます。例えば、「新規事業アイデアを考える」といったテーマでディスカッションを行えば、各部門の視点を共有するきっかけになります。 - レクリエーションやオフサイトミーティング
業務から少し離れた環境で、リラックスした状態での交流を促すイベントを企画します。スポーツイベントやボランティア活動、または自然の中でのチーム活動がその一例です。 - 社内メンター制度の導入
異なる部門の社員同士をメンターとメンティーとしてペアにすることで、部門間の知識共有や親近感を高める仕組みを導入するのも有効です。
重要なのは、こうした活動を「単発で終わらせないこと」です。定期的に継続して実施し、部門間の信頼関係を強固にしていくことが求められます。
私の体験談

私が過去にコンサルティングを行ったある製造業の企業では、部門間の連携が弱いことが原因で、多くの問題が発生していました。
特に顕著だったのは、顧客との直接接点を持っている強みを活かせておらず、顧客ニーズを新製品開発に活かせていない点でした。
この状況を改善するために、私は以下の施策を提案しました。
- 部門横断型のプロジェクトチームを編成
営業部と製造部のメンバーを中心に、マーケティング部も加えたプロジェクトチームを設立しました。目標は「次世代主力商品の成功を確実にする」こと。チーム全員で月1回のミーティングを行い、進捗状況や課題を共有しました。 - リアルタイムでの情報共有体制を導入
コミュニケーションツールのSlackを導入し、各部門での顧客のフィードバック情報や市場動向のデータ、そしてプロジェクトタスクの進捗状況リアルタイムで共有できるようにしました。さらに、どの部門の社員でも気軽に質問や意見を投稿できるオープンな環境を整えました。 - 共通目標を設定
プロジェクトの成功を全員の目標に組み込み、それを人事評価制度の目標に織り込むことで、部門をまたいだ協力が評価される仕組みを整備しました。これにより、各部門が徐々にですが協力的に行動するようになりました。
その結果、開発された新製品は、市場ニーズを正確に捉えたものとなり、販売初年度で売上が12%増加するという成果を上げることができました。
また、この取り組みを通じて、社員の意識も「自分の部門だけでなく、会社全体の目標を達成することが重要だ」というものに変わりました。
この経験を通じて私が感じたのは、部門間の壁を壊すことは単なる業務効率化にとどまらず、企業の持つ潜在能力を引き出し、成長の可能性を大きく広げることに繋がるということです。
小さな一歩からでも良いので、まずは具体的なアクションを始めてみてください。す。
Q&A
Q1: 部門間の連携を始めるために、まず何から着手すれば良いでしょうか?
A: 最初に着手すべきは、全社共通の目標を明確にすることです。この目標が共有されていないと、どれだけ連携を図ろうとしても部門ごとに違うアクションを起こしてしまいます。目標の設定後は、それを部門ごとの具体的なアクションプランに落とし込む作業を行いましょう。例えば、「売上10%向上」を目指す場合、営業部は新規顧客開拓、製造部は納期短縮、マーケティング部はブランド価値の向上といった形で役割を割り振ります。そして、それぞれの進捗を全社で定期的に共有する場を設けてください。
Q2: 部門間で責任の押し付け合いが発生する場合、どう対応すれば良いですか?
A: 責任の押し付け合いを防ぐには、人事評価制度に共通の目標を導入するのが有効です。例えば、「プロジェクト全体の成功」を基準にした評価基準を設け、各部門の貢献度を明確に測る仕組みを整備します。これにより、個別最適ではなく、全体最適を目指す文化が育まれます。また、責任の所在を明確にするために、プロジェクト開始時にタスクと担当者を明確化し、進捗管理ツールで可視化することも重要です。これにより、どの時点で問題が発生したかを特定しやすくなります。
Q3: 部門間の壁が根深い企業では、どのように連携を進めるべきですか?
A: 根深い壁を壊すには、小さな成功体験を積み重ねることが効果的です。たとえば、比較的小規模な部門横断プロジェクトを試験的に実施し、成果をあげることで、「連携するとこんなに良い結果が出る」という実感を共有します。その際、経営者自らがこの取り組みを推進する姿勢を見せることも重要です。トップダウンでのメッセージが社員に与える影響は大きく、部門間の連携が「会社全体の優先課題である」という意識を浸透させることができます。
Q4: コミュニケーションツールの導入で失敗しないコツはありますか?
A: 成功のカギは、「簡単で直感的に使えるツールを選ぶこと」と「明確なルールを設けること」です。ツール選定時には、現場の社員に意見を求め、使いやすさを重視してください。また、導入後はルールを設定しましょう。たとえば、「DMは個人情報に関するものだけに限定する」「了解しました、ありがとうございます等のリアクションは基本的にスタンプで行う」など、ツールの利用方法を明確化すると効果的に活用できます。
まとめ
部門間の連携を強化することは、企業の成長を促進し、競争力を高めるための重要な施策です。
本記事で解説したポイントを振り返ると、次のようなステップが効果的です。
- 全社目標の明確化と共有:部門が同じ方向を向いて行動できるよう、目標を具体的に設定し、全社員が理解できる形で共有することが基本です。
- 部門横断型プロジェクトの活用:異なる視点を持つメンバーが協力することで、全社的な課題をより効果的に解決できる体制を構築します。
- コミュニケーションプラットフォームの導入:リアルタイムで情報を共有し、部門間の情報の断絶を防ぐ仕組みを整えます。
- 人事評価制度の見直し:部門間の協力や全社目標への貢献を評価基準に組み込むことで、自然な連携を促進します。
- チームビルディングの継続的な実施:社員同士の信頼関係を築き、部門間の壁を取り払うための活動を定期的に行うことが不可欠です。
部門間の連携を強化する取り組みは、一朝一夕で結果が出るものではありません。
しかし、小さな改善を積み重ねることで、確実に大きな成果へと繋がります。最初のステップとして、この記事で紹介した手法の中から、一つでも実行してみてはいかがでしょうか。
企業の未来を切り開くのは、経営者である「あなた」です。
行動を起こすことで、組織が抱える課題を解決し、次の成長ステージへ進むきっかけをつかむことができるでしょう。
何かお困りのことがあれば、ぜひご相談ください。私たちは常に、あなたの挑戦を全力でサポートします。
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