唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

日本国内において、高齢化や働き方改革が進む中で、さまざまな企業において従業員の多様化が一段と進みつつあります。特に中堅中小企業においては、人手不足の影響や定年の延長、再雇用制度の活用などによって、経営者や管理職が自分より年上の部下をマネジメントするケースが珍しくなくなりました。

ところが、実際に「年上の部下」に対して指示やアドバイスを出したものの、なかなか言うことを聞いてくれない、協力的になってくれない、といった悩みをお持ちの経営者や管理職の方は多いのではないでしょうか?

「年齢が上の人に対して指示を出すのが難しい」「年上の部下から反感を買ってしまう」「良い関係を築きたいのにうまくいかない」——このような葛藤から、指導を躊躇してしまったり、組織内の風通しが悪くなったりするリスクがあるのです。

厚生労働省が公表している「令和5年版 労働経済の分析」によれば、働く人々の平均年齢は年々上昇傾向にあり、企業においても年代の幅が広い人材が混在するようになってきています。

特に中堅中小企業では、人材確保のために定年を引き上げたり再雇用制度を整備したりする動きが加速し、結果的に複数の世代が入り混じって働く場面が増えました。このような状況下で「管理職よりも年上の従業員」という構図は、もはや特別なケースではなくなっているのです。

実は私自身、26歳でリーダーを任されたプロジェクトでは、当時の私とは比較にならないほど経験豊富な40代~60代コンサルタントメンバー数名を率いた経験があり、当時はとても苦労した記憶があります。本コラムでは、筆者自身のそのような経験と経営コンサルタントとして20年のキャリアで培ってきた知見をもとに、「年上の部下が言うことを聞かない」という問題をいかにして解消し、部下のモチベーションと組織の成果の向上を実現するか、その具体的な方法を分かりやすく解説します。中堅中小企業にとって実践しやすく、効果の高いポイントに絞り込んでいますので、ぜひ最後までお読みいただき、日常のマネジメントに役立てていただければ幸いです。

なぜ「年上の部下」が言うことを聞いてくれないのか

プライド・自尊心の問題

年上の部下は、自分より若い上司から指示を受けることに対して、プライドが刺激されたり、「これまでの経験を軽んじられているのではないか?」と感じたりする場合があります。また、年上の部下には長年の経験や成功体験がある分、若い上司の手腕や判断に懐疑的になることも少なくありません。これらが表面化すると、上司が出す指示やアドバイスを素直に受け入れにくくなるのです。

コミュニケーション不足

特に中堅中小企業では、目の前の業務に追われて管理職と部下のコミュニケーションが不足しがちです。年齢が上の部下ほど、自分から積極的に後輩にあたる上司へ相談・報告しにくい心理が働くこともあります。結果として、上司が何を考えているのかわからず信頼感が芽生えない、あるいは部下が持つ知識やノウハウが上司に共有されず、お互いがどこかよそよそしい関係になってしまうケースがあります。

役割・評価の不明確さ

部下が年上であっても、組織内においては役割分担や評価基準が曖昧だと、部下からすると「自分はこんなにキャリアも経験もあるのに、なぜ若い上司に使われるのか」という思いが生じやすくなります。あるいは、評価制度や昇進制度が年齢や勤続年数と深く結びついている場合、実力主義を導入したい経営者側とのミスマッチが生じることも多いです。

「年上の部下」を上手にマネジメントする3つの基本方針

年齢に関わらず、一人ひとりの従業員が気持ちよく働き、会社全体が成長していくためには、「年上の部下」の存在をネガティブに捉えるのではなく、むしろ組織の強みに変えていく姿勢が重要です。

以下では、そのために必要な3つの基本方針を紹介します。

相手の経験・スキルを尊重する

年齢が上の部下は、豊富な経験や専門知識を持っている場合が多いです。それらを上司として正当に評価し、業務に生かせる場を提供することが最初のステップです。「自分の経験を活かせる」「自分が組織に貢献できる」と実感してもらえれば、自然とモチベーションが高まり、上司とのコミュニケーションも円滑化します。

信頼関係を重視したコミュニケーションを行う

年齢差のある部下と良い関係を築くには、まず上司自身が先に心を開き、相手を理解しようと努めることが大切です。

一方的に命令口調で指示を出すのではなく、相手の意見を引き出し、相手の考えを尊重する形で「対話」する姿勢を持ちましょう。日常的に「ありがとう」「助かったよ」といった感謝の言葉を伝えたり、ちょっとした雑談を交えたりすることで、相手の警戒心や抵抗感が薄れます。

役割と期待する行動を明確に示す

部下が年上であっても「何をどこまで行ってほしいのか?」「どのような成果を期待しているのか?」を明確に伝えることは非常に重要です。

あやふやな指示や目的が曖昧なミッションでは、年上の部下ほど自分の経験に基づく解釈で動いてしまい、結果としてすれ違いが生じやすくなります。指示や目標設定を行うときは、相手に納得感を持ってもらえるよう「理由」や「期待される効果」を併せて伝えるようにしましょう。

具体的なマネジメント手法とポイント

以上の基本方針を踏まえつつ、さらに実践に役立つ具体的なマネジメント手法をいくつか紹介します。ここではあくまで中堅中小企業での導入が容易であること、すぐに活用できることを念頭に置いています。

早期面談の実施

新しく部署を任されたり、新規プロジェクトのメンバーに年上の部下が配置されたりした際には、まずは早い段階で個別面談を行いましょう。この面談では以下のようなポイントを確認すると効果的です。

  • これまでのキャリアや強み
  • 本人がやりたいこと・得意なこと
  • 会社・部署としての方針や目標
  • 今後の役割分担と責任範囲

 「あなたの経験をぜひ活かしてほしい」といった姿勢を明確に示すことで、相手の安心感とモチベーションを高めます。また、面談の中でコミュニケーションの取り方や、仕事の進め方に関する相互の希望も確認しておくと、後々のトラブルを防ぐ上で効果的です。

“指導”よりも“コーチング”を意識する

年上の部下の場合、上司が一方的に「こうしなさい」「ああしなさい」と指示・命令する形では、相手のモチベーションが低下しやすいです。

そこでおすすめなのが、コーチング的なアプローチです。コーチングとは、相手に問いかけを行い、相手自身の思考や行動の選択肢を広げながら目標達成をサポートする手法のことです。たとえば、

  • 「今回の課題を解決するために、どのような方法が考えられますか?」
  • 「あなたのこれまでの経験から、似たケースで成功したパターンはどんなものでしたか?」
  • 「今後はどう変えていけば、より良い成果が出ると考えますか?」

といった質問を通じて、相手の経験や知識を引き出しながら、自然と目標や手段を明確にしていくのです。こうした方法は、相手の自尊心を尊重しつつ、主体的に仕事に取り組んでもらうことにつながります。

相互フィードバックの文化をつくる

上司から部下へのフィードバックだけでなく、「部下から上司へ」も含めて、お互いにフィードバックし合う文化をつくることは非常に効果的です。

特に年上の部下は、経験を積んでいる分、気づきの視点が豊富です。新しい試みに対して有益な意見をもらえる可能性があります。経営者や管理職は、こうした部下からのフィードバックを積極的に受け止め、「真摯に考えている」姿勢を示すことで、より良い関係性を築くことができます。

小さな成功体験を積み重ねる

組織において新しい目標や業務を任せる際、いきなり大きなプロジェクトを丸投げすると、年上の部下の不安感や抵抗感を高める可能性があります。そこで、「段階的に達成感を得られる仕組み」を作ることが大事です。

短期間で完了できるミッションや、明確な数値目標が設定されている小規模のタスクからスタートさせると、部下側は成功体験を積みやすく、自身のスキルとモチベーションを維持しやすくなります。

評価制度と昇給・昇進の仕組みを見直す

年齢を重ねた部下が感じる不満の一つに、「評価が正当にされない」「若い人が上司だから自分の評価は上がらないのでは」という不安があります。

中堅中小企業の場合、従業員規模に応じて評価制度の変更が難しい場合もありますが、目標管理や人事考課の基準を見直すことで、「結果や行動を正当に評価している」姿勢を明確に打ち出すことが可能です。これは年上の部下に限らず、組織全体のやる気や納得感を高めることにつながります。

「年上の部下」が聞く耳を持つための心構え

これまで紹介した具体策を実践するうえで、経営者・管理職として心得ておきたいことがあります。それは「自分より年齢の高い部下を、一方的な“管理対象”ではなく“信頼できるビジネスパートナー”として扱う」という姿勢です。

  • 過度に遠慮しない:年齢の高さを意識しすぎるあまり、必要な指示や注意を控えると、かえって相手が「期待されていない」と感じてしまう場合があります。
  • 適切な距離感を保つ:仲良くなりすぎて、逆に言うべきことが言えなくなるのも問題です。あくまで役割上の上下関係は存在する、という点を相手にも自分にも認識させる必要があります。
  • 日々の言動で敬意を示す:小さなことで構いません。挨拶や感謝の言葉をきちんと伝える、相手の貢献や成果をチーム内で評価するなど、具体的な行動を重ねることで敬意が伝わり、相手も素直に話を聞こうとするようになります。

このように、年上の部下を部下としてだけではなく「長所を活かしてもらうパートナー」として認め、その価値を承認していくマネジメント姿勢が不可欠です。

Q&A

Q1.年上の部下に厳しい指摘をすると、関係が悪化しそうで怖いのですが?
A. 厳しい指摘をしなければならないときほど、「相手の人格を否定しない」「具体的な事実に基づいて話す」ことを徹底しましょう。また、指摘の前後で必ず「相手の強み」や「助かった点」を伝えるようにすると、心理的なハードルを下げることができます。厳しい指摘の場面こそ、相手を尊重しつつ、改善点を明確に示すことで、長期的には関係をより良くしていく可能性があります。

Q2.部下が年上だと、「どこまで立ち入っていいのか」わからなくなります。アドバイスの加減の目安はありますか?
A. 部下の仕事を理解するために、まずは定期的なヒアリングの機会を設定しましょう。相手の課題感や悩みを把握していれば、アドバイスが必要なポイントと不必要なポイントの線引きが見えやすくなります。また、相手自身が主体的に考えられる領域はなるべく尊重し、上司として介入すべき領域を整理しておくと、過干渉にもなりにくいです。

Q3.長年働いているベテラン社員が、新しい取り組みやシステム導入に否定的です。どう対応すればいいでしょう?
A. 変化に対して否定的になる背景には、「自分のこれまでのやり方や知識が否定されるのでは」という不安があることが多いです。まずは相手の懸念をしっかり聞いたうえで、導入目的や新システムのメリットを具体的に説明し、協力を求めましょう。その際、「あなたの経験が必要だ」と具体的に伝えると、相手は「自分の立場を脅かすものではない」と理解しやすくなります。

Q4.若手社員と年上社員との対立が絶えません。管理職としてどんな介入をすればいいのでしょうか?
A. 対立の原因がどこにあるかをヒアリングや会議などを通じて明確化することが先決です。単純な「世代間ギャップ」なのか、人間関係なのか、仕事の進め方・方針の違いなのか。それを特定したうえで、それぞれの立場を理解しやすくするための場を設けます。できれば「話し合いのルール」を定め、感情的な言い争いにならない形で意見交換を行い、それでも解決が難しい場合には経営者や第三者(別の部署の管理職など)を含めた調整を行うことが大切です。

まとめ:迷った時こそ自分と組織を客観視する

本コラムでは、「年上の部下」が言うことを聞かない、あるいは意欲を示さないといった課題に対して、具体的な解消策やマネジメントのポイントを紹介しました。重要なのは、年齢の上での上下関係と、組織の中での上下関係を混同せず、部下の経験やスキルを正当に評価しながら信頼関係を築くことです。

  1. プライド・自尊心の問題
  2. コミュニケーション不足
  3. 役割・評価の不明確さ

 これらを踏まえた上で、

  • 相手の経験を尊重する
  • 対話を重視したコミュニケーション
  • 役割と期待を明確化する

といった基本方針に則り、コーチング的アプローチを活用しながら、相互フィードバックの文化を育てていくことが効果的です。また、小さな成功体験を積み重ねる環境づくりや、評価制度の見直しによって、年上の部下が持つ豊富な知見やスキルを最大限に活かすことができます。

さらに、面談の実施や早期のヒアリングを行うことでお互いの役割や期待を調整し、変化や新しい取り組みに否定的な姿勢を示す場合にも、相手の立場を尊重しながら納得感を高めることが可能です。こうした取り組みを地道に積み重ねることで、組織全体の生産性や雰囲気が大きく向上することは、筆者自身の経験、そしてコンサルタントとしての経験の両方で確認してきた事実でもあります。

「年上の部下が言うことを聞かない」という問題は、もしかすると経営者や管理職の皆さんにとってはストレスが大きいかもしれません。しかし、それは裏を返せば「豊富な経験を持つ人材をどうマネジメントすれば、組織の強みになるか」を考えるチャンスでもあります。本コラムの内容が少しでもヒントになり、皆さんの企業がより円滑で生産性の高いマネジメントを実現できるよう願っております。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。