唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)が大事なのは分かっているけれど、具体的に何から始めたらいいの?」
多くの経営者の方々が抱えるこの疑問にお応えします。
実は、中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2023年)」によると、すでに取り組んでいると回答した企業は14.6%、つまり日本の中小企業の役85%がDXに取り組めていないという現状があります。
しかし、焦る必要はありません。本記事では、明日からすぐに始められる具体的なDXの進め方を解説します。人手不足や競争力向上、事業継続性といった中小企業が直面する課題を、デジタルの力で乗り越えていきましょう。
なぜ今、DXが必要なのか

中小企業は日本の全企業数の99.7%を占め、従業員の69.7%が働く重要な存在です。
しかし、大企業に比べてDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは大きく遅れています。
特に注目すべきは、以下の3点です。
1. 人手不足対策としての必要性
中小企業では人材不足が深刻な課題となっており、特にバックオフィス業務における効率化が急務です。例えば、経理や勤怠管理などの業務をデジタル化することで、手作業によるミスを減らし、作業時間を大幅に削減できます。これにより、限られた人材をより付加価値の高い業務に集中させることができるようになります。
具体的には、クラウド会計ソフトや勤怠管理システムを導入することで、経理担当者の残業時間が削減されるだけでなく、人事部門での手続きも自動化されます。これにより、経営者や従業員は日常業務から解放され、戦略的な意思決定や新規事業開発などにリソースを割くことが可能になります。
2. 競争力強化の観点
デジタル化による業務効率化は、中小企業が大手企業と競争するために不可欠です。特に、データ分析やAI技術を活用することで、市場の変化に迅速に対応し、新しいビジネスモデルを構築することが可能になります。
例えば、ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理システム)を導入することで、基幹業務全般や顧客情報管理が効率化されます。
これにより、リアルタイムでの意思決定が可能となり、顧客ニーズに迅速に応えることができるため、大手企業にも負けない競争力を確保できます。
さらに、DXによって新たなサービスや製品開発も促進されます。
データ活用によって顧客行動を分析し、新しいビジネスチャンスを見出すことができるため、市場での優位性を確立することが期待されます。
3. 事業継続性の確保
コロナ禍以降、多くの企業が事業継続力の強化におけるデジタル化の重要性を実感しています。
実際、約66%の企業がパンデミックを通じてデジタルツール導入による事業継続力向上の必要性を感じたと回答しています。

例えば、リモートワーク環境やオンライン会議ツールの導入は、従来対面でしか行えなかった商談や打ち合わせをオンラインで実施可能とし、移動時間やコストも削減できます。
また、クラウドサービスによるデータバックアップは災害時にも迅速な復旧を可能とし、事業継続性を高めます。
このように、中小企業でもDXを推進することで、人材不足への対応から競争力強化、さらには事業継続性まで、多岐にわたるメリットがあります。
政府もIT導入補助金など様々な支援策を提供しており、中小企業でもDXへの取り組みは十分可能です
クラウドについて詳細を知りたい方は、以下の記事をお読みください。
DXはどこから始めるべきか

第一段階:バックオフィス業務のデジタル化
まず最初に取り組むべきは、日々の経理業務や勤怠管理など、バックオフィス業務のデジタル化です。これにより、手作業によるミスや時間の浪費を削減し、業務効率を大幅に向上させることができます。
■経理業務のデジタル化
- クラウド会計ソフト導入:請求書や領収書の処理を自動化し、手作業ミスや時間を削減
- 経費精算のオンライン化:従業員がクラウド上で申請し、承認までを一括処理
- リアルタイム共有:税理士もデータにアクセスできるため、決算や税務申告が効率化
■勤怠管理のデジタル化
- 残業時間の可視化:従業員ごとの労働時間をリアルタイムで把握
- リモートでも正確な打刻:在宅勤務や外出先でも打刻可能
- 人件費の最適化:労働時間がデータ化されるため、不必要な残業を削減
第二段階:社内コミュニケーションのデジタル化
次に取り組むべきは社内コミュニケーションのデジタル化です。紙ベースや対面での情報共有は時間がかかりすぎることがあります。ビジネスチャットツールやクラウドサービスを導入することで、情報共有と意思決定プロセスを迅速化できます。
■ビジネスチャットツールの導入
- リアルタイムで情報共有:メールよりスピーディで効率的
- 在宅勤務や外出先でも円滑なやり取り:リモートワークの生産性維持
- 過去履歴の検索が容易:情報漏れや重複作業の削減
■グループウェアの活用
- クラウドで社内文書を一元管理:ファイルの場所がわからない問題を解消
- 同時編集機能:複数人での共同作業がスムーズ
- モバイル対応:外出先やスマホでも即アクセス可能
第三段階:顧客対応のデジタル化
最後は顧客対応のデジタル化です。CRM(顧客関係管理)システムなどを活用し、お客様との関係性を強化しましょう。
■CRMシステム導入
- 問い合わせや商談履歴の一元管理:担当者不在でもスムーズに対応可能
- 購買傾向分析:データを活用したクロージング率の向上
- 顧客データの共有:社内で顧客情報を共有し、最適なアプローチを実現
■オンライン会議システムの戦略的活用
- 移動時間ゼロの商談:遠方の顧客とも効率的にやり取り
- 画面共有機能:提案資料の視覚的理解を促進
- 録画・AIによる自動議事録:商談内容を正確に保存し、後日分析・活用
DX推進における課題と解決策

中小企業がDXを推進する際、いくつかの大きな課題に直面します。
特に以下の3つが代表的な課題として挙げられますが、それぞれに対して具体的な解決策も存在します。
課題1: 人材不足
中小企業のDX推進において最も多く挙げられる課題は、「対応するIT人材が不足している」という点です。
中小企業基盤整備機構の調査によると、DXに取り組むにあたっての課題の上位は「ITに関わる人材が足りない」が28.1%、次いで「DX 推進に関わる人材が足りない」が 27.2%となっています。
特に地方では、IT人材を採用すること自体が難しく、既存の従業員で対応するケースも多いと思われます。

出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査(2023年)」
■解決策
- 外部専門家の活用:ITコンサルタントや外部ベンダーを一時的に活用し、社内で対応できない業務を補完することが有効です。特に「一人情シス」(一人でIT全般を担当する社員)や「兼業情シス」(他部門と兼務している社員)が多い中小企業では、このような外部リソースの活用が非常に重要となります。
- 段階的な社内人材育成:社内でIT人材を育成するためには、政府や自治体が提供する研修プログラムや助成金制度を活用することが有効です。例えば、「人材開発支援助成金」などを使って従業員向けのIT研修を実施し、段階的にスキルアップを図ることができます。
課題2:費用
DX推進には初期投資が必要ですが、中小企業ではこのコスト負担が大きな障壁となることがあります。
しかし、政府や自治体は様々な支援策を提供しており、これらを活用すれば初期投資の負担を軽減できます。
■解決策
- IT導入補助金:この補助金は、中小企業向けに提供されるもので、ソフトウェアやクラウドサービスの導入費用を2分の1から最大4分の3まで補助します。特にインボイス枠(インボイス対応類型)では、インボイス制度に対応した会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、PC・ハードウェア等の導入による労働生産性の向上をサポートするもので、平均採択率も90%以上と高いです。バックオフィス業務のデジタル化を目的に、パッケージソフトやクラウドサービスの導入を考えている中小企業におすすめです。
- ものづくり補助金:製造業などでは、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」を活用することで、生産プロセス改善や革新的サービス開発に必要な設備投資費用を補助します。以上の目的に合致した、中~大規模システムの開発を行いたいと考えている中小企業にはおすすめの補助金です。ただし、補助額も最大数千万円の規模になることから、採択を勝ち取るためには、しっかりとした申請書(事業計画書)を作成する必要があります。
3. 時間的制約
中小企業は日常業務で忙しく、新しい取り組み(DX推進)に割ける時間が限られています。
すべてを一度に変えることは現実的ではないため、段階的かつ計画的なアプローチが求められます。
■解決策
- 優先順位付けと段階的アプローチ:まずは、自社の現状業務プロセス全体を可視化し、最も効果が期待できる部分から着手します。例えば、経理業務や勤怠管理などバックオフィス業務からデジタル化を始め、小さな成功体験を積み重ねていくことが重要です。
- スモールスタート:最初から大規模なシステム導入ではなく、小さな部署やプロジェクト単位でデジタルツールを試験導入し、その成果を確認しながら徐々に範囲を広げていく方法がおすすめです
Q&A
Q1. 社員のITリテラシーが低いけど、どうすればよいですか?
A:若手社員を「デジタル推進リーダー」に任命し、社内相談会や外部サポートデスクと契約するなど、段階的なサポート体制を整えましょう。マニュアルや研修を分かりやすくすることが成功のポイントです。
Q2. 投資対効果は本当にあるのでしょうか?
A:初期投資は必要ですが、残業削減や業務効率化によって意外と早く回収できるケースが多いです。IT導入補助金などの支援策を活用すれば、コスト負担も大幅に下げられます。
Q3. セキュリティ面が心配です…。
A:クラウドサービスは多くの場合、独自構築よりもセキュリティレベルが高いです。データ暗号化や定期バックアップの整備により、情報漏洩リスクも格段に下がります。
Q4. どのツールを選べばいいのか分かりません。どうすればいいですか?
A:以下の3つの観点を重視すると良いです:
- 使いやすさ(UIが直感的・日本語対応)
- サポート体制(電話サポートやオンライン研修の有無)
- 拡張性(将来的な機能追加や他システムとの連携)
Q5. 社内でDXに反対する声があるのですが、どうすればいいですか?
A:小規模プロジェクトや特定チームでのスモールスタートが有効です。成功事例を作り、数値で効果を示すと社内の抵抗感は和らぎます。また、段階的な導入と合意形成が肝要です。
まとめ
DXとは単なるデジタル化ではなく、経営課題を解決し、事業を発展させるための手段です。
- バックオフィス業務のデジタル化から着手し、
- 社内コミュニケーションの効率化を進め、
- 顧客対応をデジタル基盤で強化する
というステップを踏むことで、段階的にDXを実現できます。また、IT導入補助金やものづくり補助金といった公的支援を活用すれば、初期投資のハードルを下げることも可能です。
まずは、できるところから一歩ずつ取り組んでみてください。その一歩が、確実なDX推進への道になります。
DXの具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中堅中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。
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