
唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
本記事では、現代の経営者が直面する重要な課題――「リモートワークで生産性は低下するのか?」 について掘り下げます。
A社(製造業の現場重視派)とB社(IT業のリモート肯定派)の架空の経営者2名によるディスカッションを通じて、それぞれの立場や視点を比較しながら、あなたが自社に最適な働き方を見つけるヒントとなれば幸いです。
それでは、さっそく見ていきましょう!
ディスカッション
前提となる会社の特性
A社(リモートワーク否定派、中小製造業)
・主力事業は精密部品の製造・組み立て。製造ラインは社内工場にあり、作業者同士の密なコミュニケーションや現物の確認が頻繁に必要。
・日々、現場で発生するトラブルや改善点をその場で共有し、すぐに対処することで品質や納期を確保している。
・既存顧客との信頼関係は、対面での即応力・柔軟性が評価されており、それが企業の強みとなっている。
・社員は10名程度、ほぼ全員が工場やオフィスへ日常的に出社し、製品の仕上がりを目視や触感で確認。
B社(リモートワーク肯定派、中小ITサービス企業):
・主力事業は中小企業向けのWebサービス開発およびITコンサルティング。
・業務の大半がオンライン上で完結可能であり、プロジェクト進行はチャットツールやプロジェクト管理ツールで統合管理。
・高度な専門性を持つエンジニアが少数精鋭で在籍し、彼らは柔軟な働き方を求める傾向がある。
・社員数は約15名、国内外に在住するエンジニアがリモートで参加し、顧客との打ち合わせもビデオ会議が主流。
リモートワークで生産性は低下するのか?


それではさっそくA社社長、B社社長にディスカッションいただこうと思います。本日はよろしくお願いします。
テーマは「リモートワークで生産性は低下するのか?」です。












私はリモートワーク否定派です。弊社では、製造ラインの問題対応や職人同士の細やかなすり合わせが日常業務の核心です。モノづくりにおいては、“現場”に居てナンボという意識が強く、直接対面しているからこそ感じ取れる『空気感』や、試作品の質感、目に見えないノウハウの伝承が重要です。リモートでやり取りしていては、そうした微妙なニュアンスの共有が難しくなり、生産性は間違いなく下がると考えています。












私はリモートワーク肯定派です。弊社では開発業務が中心で、成果物はすべてデジタルデータです。リモートワーク体制下でも、SlackやTeams、GitHub、プロジェクト管理ツールを通してリアルタイムで進捗やタスクを共有できます。むしろ、対面にとらわれないことでスペシャリスト人材を全国・海外から確保できるため、優れた人材が集まり、結果的に生産性が向上している実感があります。












確かに、IT系や知識労働ではリモートで完結しやすいでしょう。ですが、製造業の場合、機械の不調や資材の状態確認等は現場対応が不可欠。さらに、技術の伝え方も画面越しでは限界がありますよ。手先の使い方、金属部品の微妙なバリ取り具合、そういった感覚的な部分は動画ではなかなか伝わらない。現場で職人が手を動かしながら教えてこそ、若手が技術を習得し、生産性が維持・向上するんです。












その点はおっしゃる通りで、物理的な作業が伴う製造業ではリモート作業が難しい部分があることは理解できます。しかし、今後はスマートグラスやAR技術などを使い、現場にいない専門家が遠隔で指導する方法も確立されつつあります。こうしたテクノロジーを活用すれば、リモートであってもある程度の支援や指導が可能になり、生産性を下げない手段が出てくるのではないでしょうか。












たしかに、先進技術の活用次第ではリモートによる生産性維持も見込めるかもしれません。ただ、現時点ではまだテクノロジーのコストや現場スタッフのITリテラシー、そして顧客が求める即時性への対応など課題が多いと感じます。もしリモート導入によりコミュニケーションロスが生じ、顧客に納期遅れや品質低下を感じさせてしまえば、それは大きな損失です。












一方で、うちのようなIT企業の場合、コミュニケーションロスを防ぐためにチャットツールやビデオ会議が極めて発達しています。リモートワークはむしろ社内外の会議コストを削減し、意思決定までのスピードを上げています。出社のための移動時間や固定オフィスコストの削減によって、社員が生産的な仕事に集中しやすくなりました。エンジニアたちは静かな環境でコーディングができ、実際にコードレビューやドキュメンテーションもオンラインの方が整理しやすいんです。












業種による向き不向きは確かにありますね。うちは対面が前提のビジネスモデルで、長年それで結果を出してきたため、リモート環境へ移行するインセンティブが少ない。一方で、B社さんのようなデジタル環境で完結するビジネスでは、リモートに移行すること自体が生産性向上を促す面がある。その意味で『リモートワークで生産性は低下するか』という問いは、一律に語れないという結論に近づくのかもしれません。












まさにそうです。リモートワークは『万能薬』ではなく、業態や文化、扱う商品やサービス内容によって適不適がある。製造業のように現場感が重要なところは、まだまだ対面が強みを発揮するでしょうし、弊社のように知識労働が中心であればリモートワークは有力な選択肢となり得ます。












最終的には『生産性』をどのように定義するかにもよります。速さ、品質、コスト、顧客満足度、技術伝承、人材確保…さまざまな要素が複合的に絡み合います。我々製造業には現場主義で得られる強みがあり、御社のようなIT業界にはリモートで得られる強みがある。『リモートワークで生産性は低下するのか』という問いに対しては、各社の状況によって答えが変わる、というのが妥当な落とし所かもしれません。












全く同感です。業務内容や組織文化、活用するテクノロジーによってリモートワークがもたらすインパクトは異なります。大事なのは、自社にとって最適な働き方を選び続ける柔軟性と判断力でしょうね。
LINEヤフーのフルリモート廃止について
2024年12月16日の報道によると、LINEヤフーはこれまで可能であった「フルリモート」を廃止し、2025年4月からは全社員に対して、原則として月1回以上の出社日を設定する方針に転換したという。
コロナ禍で拡大した在宅勤務だが、この動きは大手IT企業でさえも「オフィス回帰」の流れがあることを示唆している。






LINEヤフーがフルリモートを排するという記事が出ました。比較的リモートワークと相性のよさそうな同社が、リモートワーク廃止に踏み切った事実から、ディスカッションをお願いします。












あのようなIT分野でリモートとの相性が良さそうな企業ですら、最低限の出社を求めるようになった。これはやはり、対面で得られる情報や組織の一体感、あるいは企業文化の共有が重要だということを再認識した結果だと感じます。












確かに、LINEヤフーはテクノロジー面やコミュニケーションツール、プロジェクト管理のインフラが充実しているはずです。その上でフルリモートを廃止するという決断は、リモート体制によって何かしらの『難しさ』や『限界』が見えてきたからでしょうね。例えば、フルリモートでは社内の帰属意識が薄れがちで、個々の社員が自社のビジョンやカルチャーを肌で感じにくくなる可能性があります。












うちのような製造業は、その『企業文化』や『現場の空気』を肌で感じることが当たり前でしたが、IT企業のようなデジタルベースの職場でも、やはり“オフィスで顔を合わせる”という行為には意味があるのでしょうね。LINEヤフーは、月1回程度の出社で済むとはいえ、全社員を一堂に—or 少なくとも同じ空間に—集めることで、組織文化や価値観の共有を図ろうとしているのではないでしょうか。












その点は理解できます。フルリモート期にはコスト削減や、グローバルな人材確保などメリットが大きかったはずですが、一方で、『自分たちは何のために集まっている組織なのか』『どのような目標を共有しているのか』といったマインドセットを維持・醸成するのに、リモートだけでは限界があると気づいたのかもしれません。また、完全リモートだと、オンボーディングや若手社員の成長、信頼関係構築が難しいという課題も浮き彫りになった可能性があります。












そうですね。また、大手IT企業ほど組織が大きく、部門や職種ごとの風土やニーズも多様化します。フルリモート下では、部署間連携や情報共有が思うように進まないケースが出てくるかもしれない。特に新事業の立ち上げや、新技術の共有・創発には、対面ならではの即興的なディスカッションや雑談から生まれるアイディアも重要なのではないでしょうか。












弊社はまだ小規模で、オンラインコミュニケーションで十分な情報伝達が可能ですし、メンバー同士の関係性維持も比較的容易です。しかし、組織規模が拡大すると、オンラインだけでは拾いきれないノンバーバルなシグナルや、偶然の出会いが生む創造性が損なわれる懸念があるのでしょう。LINEヤフーほどの大企業だと、その影響は大きく出るはずです。












大手がフルリモートを撤廃する流れは、多少なりとも業界全体に影響を及ぼすかもしれませんね。『リモートが最高』という一元的な考え方が見直され、ある程度の対面コミュニケーションを活用することで、企業としての結束や成長スピード、創造性を高めようという動きが再評価されていると言えるのでしょう。












我々中小IT企業としては、フルリモートを継続しながらも、組織拡大や社員のモチベーション維持のためには、何らかの対面要素をどこかで取り入れるべきかもしれませんね。たとえば、四半期ごとのリアルな全体ミーティングや、開発合宿、アイデアソンのような場を設定して、リモートとオフィスワークのハイブリッドモデルでバランスを取る必要があるのかもしれません。












そうですね。業種や企業規模、成長フェーズによって最適解は変わるでしょう。リモートが全て悪いわけではなく、フルリモートにしないからといって『リモートは生産性を下げる』と一概に言えるわけでもありません。結局のところ、LINEヤフーのような大手IT企業がフルリモートを廃止した背景には、生産性をより高め、組織文化や創造性を育むための微調整が必要だったという判断があるように思えます。












リモートワークで生産性が低下するか』は結局、企業がどう働き方を設計し、どのようなコミュニケーション手段やオフィスの活用方法を組み合わせるかにかかっています。LINEヤフーの事例は、リモートのみでは補完できない要素があることを示しており、それを理解しながら自社に最適な働き方を模索することが、これからの経営者には求められていくのでしょうね。






LINEヤフーというIT大手がフルリモートを廃止し、最低限の出社を求める方針への転換は、リモートと対面のハイブリッドな働き方の再評価を促していると思います。業種や企業規模によってリモートワークの影響は異なり、一括りに生産性向上・低下とは言い切れないですが、組織文化の醸成や創造性確保など、リモートでは得にくい要素を補完するために、オフィス回帰の動きが見られます。中小企業経営者にとっても、この動きを参考に、自社に適したバランスを模索することが重要となりそうですね。
アドバイス






最後に、本記事の読者に向けてアドバイスをお願いいたします。












製造現場や現物を扱う業種では、現場での対面コミュニケーションや作業者同士の細かな知識・ノウハウ共有が生産性を支えています。リモートワークは必ずしも生産性を向上させる魔法の杖ではありません。皆さんの会社が、製品品質や顧客対応、技術伝承によって価値を生むのであれば、むしろ現場に社員を集めることが強みとなる場合があります。
とはいえ、テクノロジーの進歩によってリモートでの支援や情報共有が今後より容易になる可能性はあります。現時点で無理にフルリモートへ移行する必要はありませんが、部分的なオンライン化や、IT活用による効率改善も検討する柔軟性は持っておいてください。現場主義と先端テクノロジーを両立させることで、自社に最適な働き方が見えてくるはずです。












ITサービスや知識労働型の業態であれば、リモートワークは優秀な人材を広く確保し、生産性を高める強力な手段となりえます。ただし、近年の動向を見ると、リモートワーク一辺倒では、社内文化や創造性、社員同士の信頼関係が希薄化する懸念も浮上しています。LINEヤフーの例が示す通り、完全なフルリモートから、最低限の出社日を設定する動きが出ているのは、企業文化醸成やチームビルディングのための『顔を合わせる場』が必要だと再認識しているためです。
したがって、リモートを基盤にしながらも、定期的な対面ミーティングやアイデアソン、開発合宿などを組み込むなど、ハイブリッドな働き方を模索することをお勧めします。自社の規模、組織フェーズ、人材構成を踏まえて、オンラインとオフラインの最適なバランスを考えることで、長期的な生産性とイノベーションを実現できるでしょう。






A社社長、B社社長、今日はありがとうございました!
まとめ
新型コロナウイルスの影響で一気に広がったリモートワーク。
しかし、ここへ来て大手IT企業でさえ「フルリモート」の見直しに動いています。
LINEヤフーが2025年4月からフルリモートを廃止し、最低でも月1回以上の出社を求める方針は、多くの中小企業経営者にも示唆を与えるでしょう。
果たしてリモートワークは生産性を下げるのか?それとも上げるのか?
その答えは「業態や組織特性次第」です。
製造業など、現場での作業や対面の微妙なニュアンス共有が肝心な業種では、リモートワークは必ずしも得策ではありません。職人技術の継承、即時的なトラブル対応、顧客への柔軟なリアクションなど、現場だからこそ発揮される強みがあるためです。
こうした業態では、必ずしもオフィス離れが生産性向上に直結しないことを認識する必要があります。
一方、ITサービスやデジタル領域の業種では、リモートワークは大きな可能性を秘めています。
地理的制約から解放され、優秀な人材を世界中から確保できる上、時間や移動コストを削減できます。集中しやすい環境で生産性が上がるケースも少なくありません。
とはいえ、リモート一辺倒にすると組織文化の共有や新しいアイデア創出が難しくなりがちです。
そこで、大手IT企業が示したように、最低限の出社日を設定したり、定期的なリアルな場をつくる「ハイブリッドな働き方」が注目されています。
要は、リモートワークの導入は「魔法の杖」ではないということです。
成果を最大化するためには、自社の業態、事業内容、組織規模、成長フェーズ、人材構成を総合的に見極めなければなりません。
製造業であれば、基本は現場主義を維持しつつ、部分的なIT活用を検討する。
IT関連企業であればリモートを基本に据えつつ、組織文化やチーム力維持のためにリアルな交流の場を織り込む。
そうした「使い分け」や「微調整」が、これからの中小企業経営者には求められています。
結局、「リモートで生産性は下がるのか」といった議論は一概に結論づけられないのです。
大切なのは、自社に最適な働き方を模索する柔軟性と判断力です。
リモートワークやオフィス勤務を固定的な二択ではなく、あくまで自社の価値創出を最大化するためのツールや条件として捉え、より良いバランスを追求していくことが、これからの経営のカギになると言えるでしょう。
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