唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
今回は、多くの経営者の方々からご相談をいただく「業務改善」について、実践的な進め方をご紹介します。
近年、多くの中小企業で「人手不足」や「業務の非効率」が大きな課題となっています。
日々の業務が忙しく、「改善したいけれど、どこから手をつければいいかわからない」とお悩みの経営者の方も多いのではないでしょうか?
業務改善は、企業の成長と持続可能性を確保するための重要な取り組みです。
本記事では、現場で実践できる具体的な手順と、成果を出すための5つの黄金ルールを詳しく解説していきます。
「業務のムダをなくしたい」「もっと効率よく仕事を進めたい」とお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。
なぜ今、中小企業で業務改善が重要なのか?

中小企業の経営者のみなさまにとって、業務改善は避けて通れない重要な経営課題となっています。
総務省が発表している最新の調査(人口推計(2023年))によると、生産年齢人口は全体の59.5%まで減少し、1990年代のピークから年々低下を続けています。この人口動態の変化は、特に中小企業の経営に大きな影響を及ぼしています。
日本商工会議所が全国の中小企業を対象に実施した「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」では、中小企業の深刻な状況が浮き彫りになってきます。
本調査によると、実に68.0%の中小企業が人手不足に直面しており、2015年の調査開始以来、最も深刻な状況となっています。

出典:日本商工会議所「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」
業種別にみると、特に介護・看護業では86.0%、建設業では82.3%、宿泊・飲食業では79.4%と、業種によっては8割以上の企業が人手不足に悩まされている状況です。

出典:日本商工会議所「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」
さらに深刻なのは、人手不足企業の57.2%が事業運営に支障が出ており「深刻」と回答し、6.9%の企業が廃業の可能性も含めて「非常に深刻」と回答していることです。
特に従業員5人以下の小規模企業では、事業継続への不安を抱える企業が2割を超えており、まさに存続の危機に直面しています

出典:日本商工会議所「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」
大企業であれば、豊富な資金力を活かして最新のITシステムを導入したり、給与や福利厚生の充実により人材を確保したりすることで対応できます。しかし、中小企業がそのような選択肢を取ることは困難です。
そして現在、人手が「不足している」と回答した企業の内、実に77.2%の企業が現在の従業員でなんとかやりくりをしている状態です。その結果、納期遅れや品質低下、事業拡大機会の喪失など、企業の競争力そのものが脅かされています。

出典:日本商工会議所「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」
このような状況下で、中小企業に求められているのは、限られた人材で最大限の効果を上げる業務改善です。これは単なる効率化ではなく、企業の存続と成長のための必須の経営課題となっているのです。
では、具体的にどのように業務改善を進めていけばよいのでしょうか?
以下で、実践的な方法についてお伝えしていきます。
業務改善成功の5つの黄金ルール

ルール1:現状把握から始める – 業務改善の具体的な進め方
業務改善の第一歩は、現状の正確な把握です。
私がコンサルティングに入ると、「うちの会社は特殊な業務のやり方をしているし、課題が多すぎて何から手をつければいいかわからない」という声をよく耳にしますが、まずは以下の手順で整理をし、事実を1つ1つしっかりと確認していきましょう。
STEP1:部門別の業務棚卸し
各部門の責任者と担当者に対して、現状の業務内容を整理してもらいます。
具体的に整理する主な内容は、以下の通りです。
- 毎日の定型業務(例:受注処理、請求書発行など)
- 月次・年次の非定型業務(例:月次決算、棚卸作業など)
- それぞれの業務に要する時間
- 使用しているシステムやツール
これらを一覧表にまとめます。
この段階で「こんなに業務があったのか」という気づきが得られることも多いものです。
STEP2:部門内での業務フロー作成
次に、部門内での業務の流れを図式化します。
例えば営業部門であれば、
- 見込み客への営業活動
- 見積書作成
- 受注処理
- 納品管理
といった形で、時系列で整理していきます。
この段階で「実は担当者によってやり方がバラバラ」「必要以上に確認作業が多い」といった課題が見えてくることがあります。
STEP3:部門間の連携状況の確認
各部門の業務フローを突き合わせ、部門をまたぐ業務の流れを確認します。
例えば、以下のような観点でチェックします。
- 営業からの受注情報が経理に正しく伝わっているか
- 生産計画と営業の納期約束に齟齬はないか
- 情報の受け渡し方法は効率的か
STEP4:課題箇所の特定と合同ミーティング
ここまでの確認で見つかった問題について、関係部門を集めて協議します。
例えば、以下のような具体的な問題について、改善の方向性を検討します。
「営業が入力した情報を経理が再入力している」
「部門間での情報共有が属人的」
「同じような確認作業を複数の部門で行っている」
このように段階を踏んで現状把握を行うことで、以下の効果が期待できます。
- 部門ごとの問題点が明確になる
- 部門間の連携における問題点が見える
- 具体的な改善ポイントが特定できる
特に中小企業の場合、少ない人員で業務を回していることが多いため、「とにかく忙しい」「人が足りない」という状況の中で業務改善を進める必要があります。
だからこそ、このように段階的に整理することで、効果的な改善につなげることができるのです。
ルール2:具体的な数値目標を設定する
現状把握ができたら、次は具体的な数値目標を設定します。
「なんとなく効率化したい」では、成果を測ることができません。
以下のように、具体的な数値目標を設定しましょう。
例えば、残業時間の削減目標を設定するとしましょう。
現状の月平均残業時間が30時間/人の場合は、以下の通り段階的な目標を設定するようにします。
・3ヶ月後:25時間/人(▲17%)
・6ヶ月後:20時間/人(▲33%)
・1年後:15時間/人(▲50%)
業務処理時間の短縮であれば、以下の通り具体的な業務ごとに目標を設定します・
・受注処理:1件あたり15分→10分
・請求書発行:1件あたり10分→5分
・日次売上集計:30分→15分
特に時間のかかっている業務から優先的に取り組むことで、効果を実感しやすくなります。
そのほかにも、以下のようにミスの削減なども数値化できます。
・伝票の入力ミス:月平均5件→1件以下
・顧客からのクレーム:月平均3件→0件
・納期遅延:月平均2件→0件
目標設定を効果的に行うためには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず最も重要なのが、現状値の正確な把握です。
最低でも1ヶ月程度は、業務の実績を詳細に記録する必要があります。
例えば残業時間であれば、単純な合計時間だけでなく、どの部門で、どのような業務で残業が発生しているのかを把握します。
また、繁忙期と閑散期では業務量が大きく異なることも多いため、年間を通じた業務量の波も考慮に入れる必要があります。
次に、目標は段階的に設定することが重要です。いきなり大きな目標を掲げても、達成できない可能性が高くなります。
例えば、残業時間の削減であれば、まずは3ヶ月後に17%削減、6ヶ月後に33%削減、1年後に50%削減というように、段階的な目標を設定します。
このように、達成可能な目標から始めることで、小さな成功体験を積み重ね、社員のモチベーションを維持することができます。
また、目標は必ず具体的な数値で表現することが大切です。
「残業を減らす」「業務を効率化する」といった曖昧な表現では、達成度を測ることができません。
「月間残業時間を30時間から15時間に削減する」「受注処理時間を1件あたり15分から10分に短縮する」というように、具体的な数値で表現することで、全員が同じゴールを共有できます。
さらに、各目標には必ず責任者を設定します。
「誰が」「いつまでに」「何を」達成するのかを明確にし、定期的な進捗確認の機会を設けます。
状況に応じて目標値の見直しが必要になることもありますが、それも責任者が判断して、適切なタイミングで修正を行います。
このように具体的な数値目標を設定することで、改善の進捗が明確になり、社員全員で目標を共有でき、成果を実感しやすくなります。
ただし、現場の状況を無視した過度な目標設定は、かえってモチベーションを下げることにもなりかねません。まずは確実に達成できる目標から始めて、徐々にレベルアップしていくアプローチをお勧めします。
ルール3:段階的な改善を心がける
業務改善を成功させるためには、一度に大きな改革を目指すのではなく、段階的に進めていくことが重要です。
特に中小企業では、限りある人員と時間という制約がある中で、日々の業務を回しながら改善を進める必要があるため、無理のないペースで着実に進めることがポイントとなります。
■第1段階:業務の標準化とマニュアル
まずは、現在の業務のやり方を「見える化」します。
例えば、以下を文書化します。
- 受注から納品までの基本的な業務の流れ
- 見積書・請求書などの作成ルール
- 日次・月次での定型業務の手順
この段階では、「なぜそのようなやり方をしているのか」「本当に必要な手順なのか」といった視点で、現状の業務プロセスを見直すことも重要です。
■第2段階:不要業務・重複業務の見直し
標準化できた業務の中から、実は不要だったり重複していたりする作業を特定します。
よくある例としては、以下のようなケースがあります。
- 複数部門での同じような確認作業
- 使われていない帳票やレポートの作成
- 過剰な承認プロセス
ルール4:デジタルツールを効果的に活用する
ここでようやく、デジタルツールの導入を検討します。
比較的ハードルが低くて効果が出やすいツールとその期待効果は、以下の通りです。
■会計ソフト
・請求書・領収書の電子化
・経費精算の自動化
・決算業務の効率化
■コミュニケーションツール
・社内連絡のペーパーレス化
・リモートワーク対応
・情報共有の迅速化
■ファイル共有/オンラインストレージ
・文書管理の一元化
・データのバックアップ
・場所を問わない情報アクセス
最近はクラウド会計ソフトを導入する中小企業は増えています。
クラウド会計ソフトの詳細について知りたい方は、以下をお読みください。
ルール5: 社員の意識改革を促す
業務改善は、単なる業務効率化にとどまらず、社員一人ひとりの意識改革にもつながります。
業務が効率化されることで、社員が自分の仕事を見直し、より良い働き方を模索するようになります。このプロセスは企業全体の成長に不可欠であり、長期的な成果を生み出します
ここでは、株式会社小豆島国際ホテル(従業員125名、資本金1億円)の事例を用いて、具体的にどのようにして社員の意識改革が促されたかをご紹介します。
同社は業務改善によって年間1,800時間もの業務時間削減に成功し、それが社員の意識や行動に大きな変化をもたらしました。この事例を参考に、経営者や管理者がどのようにして社員の意識改革を進めるべきか考えていきましょう。
1. 自発的な改善提案を引き出すための環境づくり
まず、業務時間削減によって生まれた余裕が、社員自身が自分の仕事を振り返る時間を作り出しました。
小豆島国際ホテルでは、「もっと効率的な方法はないか」「この部分は改善できるかもしれない」といった自発的な改善提案が増加しました。
これは、経営者や管理者が現場からの提案を積極的に受け入れ、改善サイクルを回す仕組みを整えたことによるものだと推測されます。
経営者や管理者としては、このような自発的な提案を引き出すために、定期的なミーティングやフィードバックの場を設けることが重要です。
社員が「自分たちでも会社を良くできる」という実感を持てる環境づくりが、意識改革の第一歩となります。
2. 顧客満足度向上への意識付け
次に、小豆島国際ホテルでは業務時間削減によって生まれた余裕が顧客対応にも良い影響を与えました。
フロントスタッフが接客により多くの時間を割けるようになり、その結果として顧客満足度が向上しました。
リピーターの増加や口コミ評価の向上といった好循環も生まれました。
このような成功体験は、経営者や管理者から「顧客満足度向上」を具体的な目標として掲げ、そのためにどうすれば良いか社員と一緒に考えることから始まります。
特に顧客と直接接するスタッフには、「効率化によって生まれた時間をどう活用すれば顧客対応が良くなるか」を考えさせることも効果的です。
3. 成果還元によるモチベーション向上
さらに、小豆島国際ホテルでは、生産性向上によって得られた利益を社員に還元することで、新たなモチベーションも生まれました。
利益の一部をボーナスとして還元したり、新しい福利厚生制度を導入したりすることで、「業務改善によって得られる成果は、自分たちにも還元される」という認識が社員全体に広まりました。
このような取り組みは、新卒採用にも好影響を与えています。
企業の評判が高まり、多くの優秀な人材が応募するようになりました。その結果、新しい人材確保にも成功し、人手不足解消にもつながっています。
株式会社小豆島国際ホテルの事例からわかるように、業務改善は単なる効率化だけでなく、社員一人ひとりの意識改革にも大きな影響を与えます。
しかし、それには経営者や管理者から積極的な働きかけが必要です。
自発的な改善提案を引き出す環境づくりや顧客満足度への意識付け、そして成果還元によるモチベーション向上など、多角的なアプローチで社員全体の意識改革を進めていきましょう。
このような取り組みが進むことで、企業全体として「自分たちで変えていく」という文化が根付き、中長期的な成長へとつながります。それこそが、中小企業の持続可能な成長への鍵となるでしょう。
Q&A
Q1. 業務改善を始めたいのですが、どこから手をつければ良いか分かりません。最初に取り組むべきことは何ですか?
A. 業務改善の第一歩は、現状の業務を「見える化」することです。
まずは各部門で行っている業務をリストアップし、どの業務にどれだけ時間がかかっているかを把握しましょう。例えば、営業部門では受注処理や見積書作成、経理部門では請求書発行や経費精算など、日常的な業務を洗い出してみてください。
この「現状業務の棚卸し」を行うことで、どこに無駄があるのか、どこを改善すべきかが見えてきます。
Q2. 数値目標を設定する際、どうやって具体的な目標値を決めればいいのでしょうか?
A. 数値目標は、現状のデータに基づいて設定することが大切です。
例えば、月間残業時間が30時間の場合、「3ヶ月後に25時間、6ヶ月後に20時間」というように段階的な削減目標を立てると良いでしょう。
また、「受注処理時間を1件あたり15分から10分に短縮する」「コストを年間100万円削減する」といった具体的な数値を設定することで、進捗が測定しやすくなります。
最初は無理のない範囲で目標を設定し、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。
Q3. デジタルツールを導入したいのですが、高額なシステムを導入する余裕がありません。どうすれば良いでしょうか?
A. デジタルツールは必ずしも高額なものばかりではありません。
まずは無料または低コストで利用できるツールから始めることをお勧めします。例えば、会計ソフトやクラウド型のファイル共有サービス、多機能なコミュニケーションツールなどがあります。
これらのツールは導入コストが低くても効果的で、多くの中小企業で活用されています。
また、一度に全て導入する必要はなく、まずは一部の業務から試験的に導入し、その効果を確認してから範囲を広げる方法も有効です。
IT導入補助金等の補助金を活用することで、投資負担を軽減するのも1つ有効な打ち手となります。
Q4. 業務改善を進める中で社員の抵抗にあうことがあります。どうすれば社員全員が前向きに取り組んでくれるでしょうか?
A. 社員が業務改善に抵抗感を持つ理由には、「変化への不安」や「自分たちの業務負担の増加」等が考えられます。
そのため、まずは現場との対話が重要です。現場で働く社員たちの意見や課題感をしっかりと聞き、一緒に解決策を考える姿勢が大切です。また、小さな成功体験を共有し、その成果がどれだけ会社全体や個々人にとってプラスになるかを実感してもらうことも効果的です。
「自分たちでも会社を変えられる」という自信と達成感が生まれると、自発的に改善提案が出てくるようになります。
Q5. 業務改善によって働き方改革も進むと聞きました。本当に効果がありますか?
A. はい、業務改善は働き方改革にも大きく貢献します。
例えば、無駄な業務や重複作業を削減することで残業時間が減り、社員一人ひとりがより効率的に働けるようになります。また、デジタルツールを活用することで、リモートワーク等の柔軟な働き方も実現可能となります。
本文でもお伝えした株式会社小豆島国際ホテルの事例では、業務改善によって年間1,800時間もの業務時間削減に成功し、その結果として従業員の提案力が向上し、顧客満足度も上昇しました。
このように、業務改善は単なる効率化だけでなく、社員の働き方そのものにも良い影響を与えます。
Q6. 改善プロジェクトはどれくらいの期間で成果が出るものなのでしょうか?
A. 改善プロジェクトの成果は、その規模や取り組み内容によって異なります。
小さな改善(例えば特定業務の効率化)であれば。数週間から数ヶ月で成果が見え始めます。一方で、大規模なプロセス改革やシステム導入などの場合には半年から1年程度かかることもあります。
ただし、大切なのは「段階的」に進めることです。一度に全てを変えようとすると混乱や抵抗感が生まれますので、小さな部分から着実に進めていくことで、少しずつ成果が積み重ねられていきます。
このような形で、中小企業経営者が抱えそうな疑問に対して丁寧に答えることで、読者との信頼関係を築きながら、有益な情報提供につながります。
また、それぞれの回答には具体例や実際の事例なども盛り込むことで、より実践的でわかりやすい内容になります。
まとめ
業務改善は短期間で劇的な変化をもたらすものではありません。
しかし、今回ご紹介した5つのルールを意識し、地道に取り組んでいけば、確実に成果が現れます。焦らず、着実に進めることが成功への鍵です。
私自身、20年以上のコンサルティング経験を通じて、多くの経営者の方々と共に業務改善に取り組んできました。
その中で強く感じるのは、「小さな成功体験の積み重ね」が最終的に大きな変革を生むということです。
最初から完璧を目指すのではなく、まずはできることから一歩ずつ始めてみてください。
もし途中で壁にぶつかったり、どこから手をつければ良いか迷ったりしたときは、ぜひ専門家に相談することをおすすめします。
唐澤経営コンサルティング事務所は、その道のりを共に歩むパートナーとして、全力でサポートいたします。
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