唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
経営者として日々、多くの意思決定を迫られる中で、「問題の本質が見えない」「解決策をどう優先すべきか分からない」といった状況に直面することは少なくないでしょう。
これらの課題に行き詰まるのは、問題を適切に特定し、解決するための「力」がまだ十分に発揮できていないからかもしれません。
しかし、朗報です。
問題解決力は「後天的に鍛えられるスキル」です。
問題解決力を身につけることで、複雑な経営問題にも冷静に向き合い、的確な解決策を導き出すことができるようになります。
この記事では、問題解決力を高めるための具体的なアプローチを、実践的かつ分かりやすくお伝えします。
「どこから手をつければいいか分からない」という悩みを抱える経営者の方に、行動へのきっかけと希望をお届けできることを願っています。
問題解決力の本質を知る

問題とは何か?
問題とは、「現状」と「理想の状態(ありたい姿)」の間にあるギャップのことです。
このギャップを正しく認識することで、適切な解決策を導き出すことができます。

たとえば、月間売上の予算が1,000万円だった場合を考えてみましょう。
もし、実際の売上が900万円に留まった場合、問題はこのギャップである100万円です。
この100万円の不足は、予算と現実の間にある明確なギャップであり、これを埋めることが問題解決の目的となります。
このギャップを埋めるためには、「顧客単価が予想より低かったのか」「新規顧客の獲得が計画通り進まなかったのか」など、原因を特定し、その後の課題を設定する必要があります。
問題を正しく認識し、具体的な課題に落とし込むことが解決への第一歩です。
問題を正しく理解するためには、以下の3つのステップが必要です。
- 現状の正確な把握:データや事実を基に、現在の状況を冷静に分析します。感覚的な判断ではなく、具体的な数字や証拠に基づいて「何が起きているのか」を明確にします。
- 理想の姿の定義:単なる漠然とした目標ではなく、具体的な目指すべきゴールを設定します。「売上を伸ばす」ではなく、「売上を10%向上させる」など、測定可能な理想像を明確にすることが重要です。
- 問題の特定:現状と理想を比較し、その間に存在するギャップを問題として認識します。このステップでは、「売上低迷」や「顧客満足度の低下」といった症状だけでなく、具体的な原因を掘り下げる準備が必要です。
問題が生まれる背景
問題が発生する背景には、外部環境と内部環境の要因が存在します。
これらの要因を明確に理解することで、問題の本質に近づくことができます。
■外部環境要因
- 市場の変化:顧客ニーズの変化や競合他社の戦略により、以前の自社の成功パターンが通用しなくなることがあります。
- 規制や政策の影響:政府規制や業界標準の変更が自社にとって新たな問題を生むこともあります。
■内部環境要因
- 経営資源の不足:中小企業特有の要素として、人材や資金が限られていることに値する考慮が必要です。
- 組織内の連携不足:部門間のコミュニケーションが不十分な場合、問題が複雑化する傾向があります。
問題を放置するリスク
問題を放置すると、短期的な経営の停滞だけでなく、企業全体に深刻な影響を及ぼします。
以下のリスクを認識することが重要です。
- 収益性の低下:問題が解決されないまま放置されると、顧客が離れ、売上が減少します。この影響は連鎖的に財務状況や成長戦略に波及します。
- 従業員のモチベーション低下:解決の見込みがない状況は、従業員のやる気を削ぎます。これが離職率の上昇や組織全体のパフォーマンス低下を引き起こします。
- 事業の持続可能性への悪影響:問題が積み重なることで、最悪の場合、事業継続が困難になるリスクもあります。
問題解決力を強化する具体的アプローチ

問題解決には基本となる3ステップがあります。
このプロセスでは、まず「①問題がどこにあるのかを正しく特定(Where)」し、次に「②その問題の原因を徹底的に深掘りする(Why)」ことが必要です。そして最後に、「③打ち手の検討(How)」を行って具体的なアクションに落とし込む段階へと進みます。

この3つのステップをしっかりと実行することで、どのような課題にも冷静かつ効果的に対処できるようになります。
以降では、それぞれのステップを詳しく解説します。
問題の特定(Where)
問題を特定する際のポイントは、「問題の全体を正しく捉える」「問題を適切に絞り込む」「特定理由を明確にする」の3点です。
以降でそれぞれを詳細に解説します。
問題の全体を正しく捉える
問題を正確に解決するには、まず全体像を把握する必要があります。
部分的な情報だけに頼ると、対処すべき課題を見誤る可能性があります。
- データを基に現状を可視化する:売上が下がっている場合、全体の売上データや顧客層ごとの分析を行います。「特定の顧客層」「特定の地域」「特定の期間」に限定された現象なのかを把握することで、問題の全貌が見えてきます。
- 関係者の意見を統合する:現場の従業員、管理職、顧客といった複数の視点を取り入れ、現象に対する多角的な理解を深めます。これにより、特定の視点に偏らない正確な全体像を構築できます。
問題を適切に絞り込む
全体像を把握した後は、問題の範囲を適切に絞り込みます。
ここでは、4W(When、Where、Who、What)を用いることで、具体的かつ焦点を絞った形で問題を明確化します。
- When(いつ):問題が発生した時期やタイミングを特定します。たとえば、「売上の減少がいつから始まったのか」「特定の時期に関連する要因は何か」を明らかにします。季節性やトレンドの変化が影響している場合もあるため、タイミングを把握することは極めて重要となります。
- Where(どこで):問題が発生した場所や領域を特定します。例えば、「特定の地域や店舗で売上が下がっている」「オンライン販売だけで低迷している」など、問題の発生地点を明らかにします。
- Who(誰が):問題に関与している人やグループを特定します。これは顧客、従業員、管理職など、関係者を特定するプロセスです。「特定の営業チームが目標を達成できていない」などの具体的な焦点を明らかにします。
- What(何が):何に関して問題が発生しているのかを特定します。例えば、「特定の商品が売れていない」「広告キャンペーンが期待通りの効果を生んでいない」など、問題の対象を明確にします。
4Wを使って問題を絞り込むことで、「どこに経営資源を集中化すべきか」を迅速に判断できるようになります。
特定理由を明確にする
問題を特定するだけではなく、それを「なぜ特定したのか」を組織全体で共有できる形で理由付けを行います。
このプロセスを通じて、全員が問題の認識を共有し、以降の解決策の立案がスムーズに進みます。
- 事実に基づいた根拠を示す:「売上減少が主要顧客層に原因がある」という特定を行った場合、過去6カ月のデータで顧客リピート率が20%低下しているといった具体的な数値を提示します。
- 他の選択肢と比較する:なぜこの問題が最優先されるべきなのかを説明します。たとえば、「新規顧客獲得よりも既存顧客の維持が重要なのは、既存顧客が売上の80%を占めているから」という明確な比較が必要です。
- 期待される影響を明示する:問題の解決が全社的にどのような影響をもたらすのかを具体化します。たとえば、「主要顧客層のリピート率を10%向上させることで、年間売上が20%増加する」といった効果を示します。
「問題の特定」を正確に行うことができれば、その後の「原因の深堀(Why)」や「打ち手の考察(How)」のステップが格段にスムーズに進みます。
この段階で焦点を間違えないことが、成功する解決策の第一歩です。
次章では、「原因の深堀(Why)」について、さらに詳細に解説します。
原因の深堀(Why)
問題を特定した後に行うべきは、「なぜその問題が発生しているのか」を深く掘り下げることです。
このステップを曖昧にしてしまうと、表面的な解決にとどまってしまい、同じ問題が再び発生する可能性があります。
原因を深掘りする際には、「『なぜ』を繰り返し問いかける」「因果関係意を構造化する」「データと現場感覚を統合する」の3つのポイントを押さえることが重要です。
「なぜ」を繰り返し問いかける
原因の深掘りには、「なぜ」を繰り返すシンプルな手法が有効です。
問題の背後にある本当の原因を見つけるために、表面的な説明を鵜呑みにせず、根本的な要因にたどり着くまで問い続けます。
例として、売上が減少している場合を考えてみましょう。
・なぜ売上が減少しているのか? → 顧客が減っているから。
・なぜ顧客が減っているのか? → 競合他社が新しい製品を投入したから。
・なぜ競合製品に顧客が流れているのか? → 自社製品が顧客の最新ニーズを満たしていないから。
・なぜ最新ニーズを満たせていないのか? → 市場動向を把握する仕組みが不十分だから。
このように「なぜ」を繰り返すことで、表面的な要因から根本原因へと深掘りすることができます。
因果関係を構造化する
問題には複数の要因が絡み合っていることが多いため、それぞれの要因がどのように関係しているかを整理します。
このプロセスにより、最も影響力の大きい原因を特定できます。
- 因果関係図の活用: 因果関係図を用いることで、問題に影響を与える要因を視覚的に整理し、その構造を明確化します。
例えば、「売上減少」という問題に対して、主な要因として「営業プロセスの非効率」や「商品ラインアップの競争力不足」が挙げられる場合、それらを関連付けて因果関係を可視化することで、どの要因が優先して対応すべきかを判断できます。
この図を活用することで、経営課題の根本原因を体系的に理解し、戦略的な意思決定を支援します。
以下は因果関係図のイメージです。

- 原因間の優先順位を明確化:すべての原因が同じ重みを持つわけではありません。どの原因が問題に最も大きな影響を与えているかを評価し、リソースを集中させるべきポイントを明確にします。
データと現場感覚を統合する
データ分析だけに頼るのではなく、現場で働く従業員や顧客の声といった「現場感覚」を統合することで、より深い洞察を得ることができます。
- データで裏付ける:定量的なデータを基に、仮説を検証します。たとえば、「顧客の購買頻度が下がった」という仮説に対して、実際の購買履歴データを分析することで事実を確認します。
- 現場の知見を取り入れる:データには現れない要素やニュアンスを現場から収集します。たとえば、営業スタッフやカスタマーサポートから「顧客が価格よりも機能を重視している」といった現場感覚をヒアリングすることで、より正確な原因を把握できます。
原因を十分に掘り下げることは、解決策の精度を左右する重要なプロセスです。
表面的な原因だけに基づいた打ち手は、効果が短期的に終わる可能性があります。逆に、根本的な原因を正確に特定すれば、解決策はより持続的で効果的なものとなります。
打ち手の検討(How)
問題を特定し、その原因を深掘りした後に行うべきは、「どう対処すればよいか」を考えることです。
この段階では、解決策を具体的かつ実行可能な形で設計し、実行計画を立案します。
「打ち手の考察」を成功させるためには、以下の3つの要素を意識することが重要です。
解決策を導き出す方法
解決策を考える際には、まずブレインストーミング(ブレスト)を活用することをおすすめします。
チーム全体で自由にアイデアを出し合うことで、多様な視点や斬新なアプローチを得ることができます。
ブレインストーミングを行う上でのポイントは、以下の3点です。
- 自由な発想を重視する:ブレストの初期段階では、制約を一旦忘れて、現実的かどうかを問わずにアイデアを出します。これにより、後に具体化できる柔軟な発想が生まれます。
- 多様な視点を取り入れる:営業、製造、マーケティングなど異なる部門のメンバーを参加させることで、問題の解決策を多角的に考えられます。たとえば、顧客の課題に対して製造部門がコスト効率の高い改善案を出すなど、予期しないアイデアが生まれることがあります。
- テーマを絞り込む:ブレストでは「新規顧客を増やすにはどうすればいいか」など、具体的なテーマを設定することで、議論が焦点を定めたものとなり、生産性が向上します。
解決策の優先順位を設定する
経営資源に限りのある中小企業では、すべての問題解決に一度に取り組むのは非現実的です。
そのため、最も影響の大きい解決策から実行に移すことが重要です。
- 影響度と実行可能性で評価する:解決策を「影響度(その問題が解決された場合のインパクト)」と「実行可能性(リソースや時間の制約の中で実行できるか)」の2軸で評価します。たとえば、新製品の開発は高い影響を与えるものの長期的であれば、短期的には顧客対応の改善を優先する判断も有効です。
- 短期と長期のバランスを考える:「短期的に成果を出せる施策」と「長期的に成長を支える施策」を明確に区別します。たとえば、短期的にはキャンペーンで売上を回復させ、長期的には製品ポートフォリオを見直すといった形で取り組みます。
解決策をSMARTに設計する
解決策を設計する際には、曖昧な目標ではなく、具体性と測定可能性を意識する必要があります。
以下のSMARTの原則に基づいて目標を明確にしましょう。
- Specific(具体的):解決策を明確に定義する。
例:「次の3か月間で顧客アンケートのスコアを15%向上させる」 - Measurable(測定可能):成功を測る指標を設定する。
例:KPIとして「リピート率10%増加」や「平均購入単価の向上」を設定する。 - Achievable(達成可能):経営資源の範囲内で実行できるか確認する。
例:必要な人材や予算を現実的に確保する。 - Relevant(関連性がある):全体のビジョンや戦略と整合性を確認する。
例:短期的な利益追求が長期的なブランド価値を損なわないかを検討する。 - Time-bound(期限が明確):実行と成果のタイムラインを設定する。
例:「6か月以内に主要顧客層の購買頻度を20%向上させる」。
実行と進捗管理を徹底する
解決策が実行されなければ意味がありません。また、実行中の進捗を管理し、必要に応じて軌道修正を行うことが成功のカギとなります。
- 実行責任を明確にする:各タスクの責任者を指定し、進捗状況を定期的にチェックします。責任の所在が曖昧な場合、計画が実行されないリスクがあります。
- 小さな成功体験を積み重ねる:解決策を細かく分割し、小さな成功体験を積み重ねることで、チーム全体の士気を高め、次のステップへのモメンタムを生み出します。
- 進捗と成果を定期的に見直す:計画が期待通り進んでいない場合、迅速に調整をします。たとえば、「新しい広告キャンペーンが期待した成果を上げていない」場合は、ターゲットや内容を再検討する必要があります。
問題解決の最後のステップである「打ち手の考察」は、問題の特定や原因の深掘りと同じくらい重要です。
この段階でのミスは、せっかくの分析と計画を台無しにする可能性があります。
明確で実行可能な解決策を設計し、それを確実に実行することで、ギャップを埋めることが可能になります。
Q&A
Q1. 問題の特定がどうしてもうまくいきません。どこから手をつけるべきでしょうか?
A: 問題の特定が難しい場合は、まず「事実ベースで現状を可視化する」ことから始めましょう。
データを収集し、売上や顧客動向などの基本的な指標を確認することで、何が正常で何が異常なのかを判断しやすくなります。
その際、仮説をもってデータ収集することがポイントです。
仮説思考の詳細については、以下の記事をご覧ください。
次に、4W(When、Where、Who、What)を使って、問題の発生タイミングや場所、関係者、対象を明確にすることをおすすめします。
曖昧さを排除し、具体的な焦点を絞り込むことが特定成功のカギです。
Q2. 問題の原因が複雑すぎて絞り込めません。どうすれば良いですか?
A: 因果関係が複雑な場合は、以下のステップで整理しましょう。
・「なぜ」を繰り返して掘り下げる: 真の原因にたどり着くまで、少なくとも5回「なぜ」を問いかけます。
・因果関係図を作成する: 問題に影響を与える要因を「顧客減少」「競合の台頭」「商品力の低下」といった具体的なカテゴリに分け、それらの関係を図で整理します。
・データと現場感覚を統合する: データを基に仮説を検証し、従業員や顧客の声から得た知見を組み合わせることで、全体像を把握します。
因果関係図を活用することで、原因同士の相互作用を視覚的に捉えやすくなり、解決すべき優先度が明確になります。
Q3. 実行計画を立てても、なかなか進捗しません。何が問題でしょうか?
A: 計画が進まない原因は、以下の3点に集約されることが多いです。
・責任の明確化が不足している:タスクごとの責任者を具体的に指定し、進捗状況を定期的に確認する仕組みを構築してください。
・目標が曖昧である:SMARTの原則に基づいて、目標を具体的かつ測定可能なものにすることで、チーム全体が動きやすくなります。
・小さなステップに分割していない:大きな目標を達成するためには、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。タスクを細分化し、達成感を得やすくしましょう。
これらを実践すれば、計画の実行速度が向上します。
まとめ
経営課題を解決するためには、「問題の特定(Where)」「原因の深掘(Why)」「打ち手の考察(How)」という3ステップを徹底的に実行することが重要です。
それぞれのステップで意識すべきポイントを改めて以下に整理します。
- 問題の特定:問題の全体像を把握し、4W(When、Where、Who、What)を活用して具体的に絞り込む。特定理由を明確化し、組織全体で共有することで、次のステップに進む基盤を作る。
- 原因の深掘:「なぜ」を繰り返し問い、根本原因を特定する。フィッシュボーン図などのツールを活用し、複数の要因が絡み合う問題を整理する。データと現場感覚を統合することで、精度を高める。
- 打ち手の検討:解決策を優先順位付けし、SMARTの原則で具体化する。責任の明確化、進捗管理、小さな成功体験の積み重ねを通じて、実行の確実性を高める。
このアプローチを実践することで、あなたの会社の問題解決はより体系的かつ持続可能なものとなります。
問題解決力は、単なるスキルではなく、経営者が組織全体を成長させるための重要な資産です。この記事を参考に、実際の問題解決に取り組んでいただければ幸いです。
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