唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
ビジネスの現場は「時間との闘い」です。とりわけ中堅中小企業においては、人員・資金が潤沢ではない分、持ち前の機動力を活かして素早く成果を出していく必要があります。そうした場面で威力を発揮するのが「仮説思考」です。しかし「仮説」という言葉を聞くと、学問的・理論的で難しそうな印象を持つ方も少なくありません。ところが実は、仮説思考は決して難解なものではなく、むしろ実務にこそ役立つ「考える力」の基本といえます。
私はこれまで、中堅中小企業の経営改善やデジタル化、新規事業立ち上げなど、さまざまな案件を支援してきました。それらの案件を通じて多くのケースで感じるのは、「そもそも問題は何なのか?」「どうすれば成果が出せるのか?」といった問いに対して、予め「自分なりの答え」を作っておく大切さです。それが仮説思考です。
本記事では、経営において非常に重要な思考法である「仮説思考」についてお伝えします。仮説思考は、特に中堅中小企業の経営者であるあなたにとって、日々の意思決定や問題解決に大きな助けとなるものですので、ぜひ最後までお読みください。
仮説思考とは?

まず仮説とは、課題や問題の原因、あるいは解決策に関する「現時点の仮の結論(答え)」のことです。そして仮説思考とは、「仮説に基づいて実行・検証・修正を繰り返す思考法」のことです。具体的には、現状の情報やデータをもとに、自分なりに仮説(現時点の仮の結論(答え))を立てて、その仮説を検証しながら進めていく思考法になります。例えば、「売上が伸び悩んでいるのは、既存顧客へのフォローが不足しているからではないか?」「問い合わせから受注までの時間が長すぎるのではないか?」など、確かめるべき何らかの「仮の結論(答え)」を設定します。
なぜ仮説思考が重要なのか?
現代のビジネス環境は目まぐるしく変化しています。このような時代には、市場の変化に対して迅速に対応する経営が求められるため、規模が小さく機動力のある中小企業にとっては有利な経営環境であると私は考えています。しかし、中小企業がその機動力を生かすためには、迅速かつ的確な意思決定が必要となります。迅速かつ的確な意思決定を行うためには、すべての情報を集めてから判断する網羅思考ではなく、最初に仮説を立て、その仮説を検証・修正するために素早く行動に移すことが重要です。
仮説思考には以下のようなメリットがあります。
- スピード感のある意思決定
中堅中小企業では、大企業のように余裕を持った長期検討が難しい場合が少なくありません。そんなときこそ、仮説を立てて検証を進めることで、限られたリソースのなかでも最短ルートで解決策を見つけやすくなります。 - 現場レベルでの主体的な行動
現場スタッフにとっても、「こうすれば成果が出るはず」という仮説があると、取り組み方がより明確になります。仮説という1つの方向性があることで、自主的に行動しやすくなり、結果としてチーム全体の生産性が高まります。 - 失敗した場合も学びにつなげやすい
仮説が外れたらどうなるのでしょうか?実は、失敗した仮説ほど学びが大きくなります。なぜなら、「どこが誤っていたのか」「どう見直すべきか」という検証プロセスによって、さらに精度の高い仮説へと進化させることができるからです。こうしたPDCAサイクル(Plan・Do・Check・Acion)を回すうえでも、仮説思考は欠かせない姿勢と言えるでしょう。
仮説思考の進め方

では、具体的にどのように仮説思考を進めればよいのでしょうか?ここでは基本的な4つのステップをご紹介します。

1. 現状把握(何が問題なのか?)
まず、問題を明確にしましょう。例えば、最近自社の売上が減少していると感じたとします。そこで、過去3か月の売上データを確認してみると、前年同月比で10%減少していることがわかりました。また、特定の商品カテゴリーで特に売上の落ち込みが激しいこともわかりました。ここで重要なのは、「何が問題なのか」を具体的に洗い出すことです。本ケースの場合、「売上全体が落ちている」「特定の商品カテゴリーで顕著」という2つのポイントが浮かび上がります。
2. 仮説の設定
次に、この売上減少の原因について仮説を設定します。先ほどもお伝えしましたが、仮説はあくまで「こうではないか?」という仮の答えです。例えば、以下のような仮説が考えられます。
- 仮説1:競合他社が新しい商品を出し、その影響で自社の商品が選ばれなくなっているのではないか?
- 仮説2:顧客ニーズが変化しており、自社の商品が時代遅れになっているのではないか?
- 仮説3:広告や営業活動が不足しており、新規顧客へのアプローチができていないのではないか?
このように、問題に対して複数の仮説を立てることで、売上減少の原因を多面的に探ることができます。
3. 検証
次に、それぞれの仮説を検証します。例えば、仮説1については、まず競合他社の商品が市場でどれだけのシェアを獲得しているかを確認します。その上で、その商品ラインナップや価格設定を分析し、自社商品との違いを確認します。もし競合他社の商品がシェアを伸ばし、かつ自社と明確な違いがある場合、この仮説は有力となります。また、仮説2については、既存顧客へのアンケートやインタビューを実施し、「最近どんな商品を求めているか?」といった質問でニーズの変化を探ります。既存顧客の声が必ずしも解になるわけではありませんが、もし「もっと環境に優しい製品が欲しい」といった声が多ければ、この仮説を検証する上での重要な材料となります。仮説3については、自社のマーケティング活動や営業活動の頻度・内容を見直し、それらが十分でない場合にはこの仮説も有力です。
4.ネクストアクション
検証結果によって、次に取るべきアクションを決定します。もし仮説が正しければ、それに基づいた施策を実行します。もし間違っていれば、新たな仮説を立て直し、再度検証します。
仮説を立てる際の注意点
- 前提条件を誤らない
「うちの強みは〇〇だ」「顧客は〇〇を求めているはずだ」といった、これまでの経験からくる思い込みが仮説を歪めることがあります。たとえ長年続いているビジネスであっても、時代の変化とともに市場ニーズは大きく変わります。仮説を立てる際は、「本当にこの前提は正しいのだろうか?」と定期的に疑ってみる姿勢が重要です。 - データは多角的に見る
一つのデータソース(情報源)だけに依存してしまうケースを見ることがあります。例えば、売上数字だけ見て判断したり、顧客アンケートの結果だけに頼ったり等のケースが挙げられます。すると、全体像を見落としてしまう可能性が高まります。売上は伸びているのに利益率は下がっていないか? アンケートの回答者層に偏りはないか? といった別の視点も検討しましょう。 - すぐに決めつけない
「これが原因だ!」と早合点してしまうと、ほかの重要な要因を見逃す恐れがあります。仮説を複数立て、それぞれを段階的に検証していくのが、安全かつ効果的な方法です。特に社内で意思決定を共有する際は、複数の選択肢を並行して示すことで、納得感のある合意形成が得られやすくなります。
成功するためには「精度」が重要
仮説思考においては、「精度」が非常に重要になります。つまり、どれだけ正確な仮説を立てられるかによって、その後の結果が大きく左右されるのです。精度の高い仮説を立てるためには、多角的な視点や豊富な経験が必要です。また、一度で完璧な答えが出なくても問題ありません。何度もPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を回しながら、徐々に仮説の精度を高めていくという意識が重要です。
ここで、私たちのような外部の経営コンサルタントを活用することは有効な手段の1つとなります。
経営コンサルタントは、多様な業界・企業でのコンサルティング経験や専門知識を基に、企業内部では見落としがちな視点からアプローチし、より精度の高い仮説設定や問題解決をサポートします。
Q&A
Q1: 仮説思考と従来の意思決定方法との大きな違いは何ですか?
A: 従来の意思決定方法では、十分な情報やデータを収集してから結論を導き出すというアプローチを取ります。
一方、仮説思考では、限られた情報の中で仮の結論を立て、それを検証しながら素早く修正していくという特徴があります。このアプローチにより、変化の激しいビジネス環境において、より迅速な意思決定と行動が可能となります。
Q2: 仮説の精度を高めるためのコツはありますか?
A: 仮説の精度を高めるためには、以下の3つのポイントが重要です:
- 過去の経験や実績データを積極的に活用する
- 業界動向や市場環境の変化を常にウォッチする
- 社内外の多様な意見を取り入れ、多角的な視点を持つ
Q3: 仮説思考を組織全体に浸透させるにはどうすればよいでしょうか?
A: 組織への浸透には、まず経営層が率先して仮説思考を実践することが重要です。
また、定例会議などで「この問題についてどんな仮説が考えられますか?」といった問いかけを習慣化したり、仮説検証のプロセスを可視化して共有したりすることで、組織全体の仮説思考力を高めることができます。
Q4: 仮説が間違っていた場合のリスクはどう管理すればよいですか?
A: 仮説が間違っていた場合のリスクを最小限に抑えるために、以下の対策が有効です。
- 仮説検証の初期段階では小規模な実験から始める
- 複数の仮説を並行して検証する
- 定期的なモニタリングと素早い軌道修正の仕組みを整える
Q5: 中小企業における仮説思考の具体的な活用シーンを教えてください。
A: 中小企業では、新商品開発、販路開拓、業務改善など、様々な場面で仮説思考を活用できます。例えば、新商品開発では「このターゲット層にはこのような商品ニーズがあるのではないか」という仮説を立て、小規模なテストマーケティングを行いながら検証していくといったアプローチが効果的です。
まとめ
仮説思考は、中小企業経営者にとって強力な武器となります。仮説思考によって、不確実性の高い状況でも迅速かつ効果的な意思決定が可能となり、ビジネス全体のスピードと質が向上します。
特に経営資源が限られた中小企業では、このような効率的な問題解決手法は非常に有効となるでしょう。
ぜひ日常業務でも「まずは仮説から始める」という習慣を取り入れてみてください。このことにより、経営判断がよりスムーズになり、新たな成長機会も見えてくるでしょう。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決、成長戦略の策定を強力にサポートいたします。
お問い合わせや無料相談は、以下のフォームからお願いいたします。

経営者が抱える経営課題に関する
分からないこと、困っていること、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談・ご質問・ご意見・事業提携・取材なども承ります。
初回のご相談は1時間無料です。
LINE・メールフォームはお好みの方でどうぞ(24時間受付中)