唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
会社を経営していると、日々の業務に忙殺されながら、「本当に現状のやり方でよいのだろうか?もっと効率的に動けるのではないか?」と疑問を感じることはありませんか?
経営者として、もっと利益を上げたい、業務を効率化したいと思っても、具体的な改善策が思いつかず、現状維持に甘んじてしまうことも多いかもしれません。
そんな悩みを解決するカギとなるのが、「見える化」です。
見える化とは、業務の流れや成果を視覚的に整理し、課題や改善ポイントを誰でも直感的に理解できるようにする手法です。見える化を取り入れることで、無駄や非効率を発見し、業務を根本から見直すことが可能になります。
この記事では、見える化の基本から具体的な導入ステップまで、経営者のあなたが今日から実践できる内容を詳しくお伝えします。
「当社のような小さな会社でも効果があるのか?」と思う方もいるでしょう。
しかし、見える化はむしろ中小企業にとって大きな効果を発揮します。
この記事を読めば、あなたの会社の未来を切り開くヒントが見つかるはずです。
見える化とは?

見える化の基本概念
「見える化」とは、企業活動の中で見えにくい情報や業務フローを、誰でも直感的に理解できる形に整理する手法です。これは、単にデータを表示するということではなく、課題や改善のヒントをわかりやすく共有することを目的としています。
たとえば、営業活動の状況をグラフで示すことで、どの案件が遅れているのか、重点的に取り組むべきエリアがどこかを一目で把握できます。
このように見える化は、経営者や現場が同じ情報を基に判断できる「共通の基盤」を提供します。
さらに、見える化された情報を基に、感覚や経験に頼ることなくデータに基づいた意思決定が可能になります。特に中小企業では、限られた経営資源を有効活用するために、どの業務に優先的に取り組むべきかを明確にする手助けとなるのです。
見える化が中小企業にもたらす効果
見える化は、中小企業の経営に多くのメリットをもたらします。
まず、業務の流れを整理し、どの部分が無駄や重複を生んでいるのかを明確にできます。
これにより、限られたリソースを効果的に活用し、生産性の向上を図ることが可能です。
たとえば、受注から納品までの業務プロセスを図式化することで、余計な手続きが省略され、納期が短縮された事例があります。このように、見える化は具体的な業務改善のきっかけを提供します。
次に、見える化された情報は、従業員の理解を助け、モチベーションを向上させます。
「自分の業務が会社全体の成果にどうつながるか」がわかることで、主体的に働く意識が生まれます。
これにより、チーム全体での連携もスムーズになります。
さらに、経営者が現場の実態を把握しやすくなるため、意思決定のスピードが上がり、適切なタイミングでの対策が可能になります。特に市場の変化が激しい現代において、この迅速な対応力は企業の競争力を高める重要なポイントとなります。
業務プロセスにおける見える化の必要性
中小企業が競争力を維持するためには、業務プロセスの効率化が不可欠です。そして、そのための第一歩が見える化です。なぜならば、見える化がない状態では、経営者が現場の詳細を把握できず、判断ミスが起こりやすいからです。
たとえば、受注業務を見える化することで、特定の担当者に作業が集中していることや、無駄な二重入力が行われていることが判明する場合があります。これに気づけば、作業を標準化し、システムを導入することで業務の効率化が可能になります。
また、見える化は業務プロセスに潜む「ブラックボックス」を解消します。特定の社員や部門が業務の全容を独占している状態を放置してしまうと、万が一その社員が欠けた場合に業務が停止するリスクがあります。見える化により、プロセスを全員が共有することで、業務の属人化を防ぐことができます。
見える化の必要性は、リソース配分の最適化という観点からも重要です。
中小企業では、限られた人員や資金をどの業務に重点的に割り振るべきか、的確な判断が求められます。見える化により、どの部門やプロセスが非効率で、どこにリソースを集中すべきかが明確になります。
例えば、製造工程の見える化を行った結果、特定の工程で機械の稼働率が低いことがわかったとします。この情報に基づき、追加の生産スケジュールを組むことで稼働率を高め、全体の生産性を向上させることが可能です。
こうしたリソースの再配分を迅速かつ正確に行うことが、競争の激しい市場で生き残るためのカギとなります。
業務プロセス改善における見える化の実践ステップ

見える化を効果的に活用するためには、正しい手順を踏むことが大切です。場当たり的に取り組むと、データが増えすぎて整理できなくなったり、無駄なコストがかかったりすることがあります。
ここでは、見える化を実践するための3つの基本ステップを解説します。
現状把握と初期的な可視化
見える化を始めるためには、まず現状を正確に理解する必要があります。この段階では、簡易的なフローチャートを用いて、業務の全体像をつかむ作業を行います。
ここでの目的は、あくまで「大まかな現状を把握する」ことであり、後のステップで実施する詳細な業務プロセスの可視化とは異なります。
具体的な手法としては、以下のようなものがあります。
- 簡易フローチャート作成:紙やホワイトボードを使い、業務の主要な流れを手書きで描きます。この段階では、全体をざっくりと把握することが目的です。
- 初期データの整理:既存の記録やヒアリングをもとに、時間がかかっている工程やリソース配分の偏りを大まかに把握します。
- 現場観察:現場で実際の業務の流れを観察し、ボトルネックになりそうな部分を特定します。たとえば、営業から契約締結に至るまでのプロセスを簡易フローチャートにした結果、承認作業で時間が滞留していることが分かる場合があります。この段階で仮説の課題を大まかに洗い出し、後の詳細分析につなげることが重要です。
業務プロセスの可視化
現状把握を経て、仮説の課題の大まかな方向性が見えたら、次に進むべきステップは業務プロセスの詳細な可視化です。この段階では、業務の流れを精緻に図式化し、各工程の時間、コスト、リソース配分などを具体的に分析します。具体的な手法としては、業務フロー図の作成による可視化があります。
以下が業務フロー図の作成例です。

例えば、受注から納品までの業務プロセスの可視化を行ったところ、複数の承認ステップが重複しており、手続きに無駄な時間がかかっていることが判明したとします。打ち手として、承認フローを見直して必要最小限の承認者に絞るとともに、オンラインで承認手続きを進める仕組みを導入する等です。
業務プロセスの詳細な可視化は、ボトルネックや非効率な部分を特定するだけでなく、業務の全体最適化を図る基盤となります。
データの収集と分析
業務プロセスが詳細に可視化できたら、次に行うべきは、それに関連するデータの収集と分析です。ここでは、各工程にかかる時間、発生するコスト、使用されるリソース量などを数値化し、課題を具体的に裏付けます。
効果的なデータ収集のポイントは以下の通りです。
- リアルタイムデータの活用:システムやツールを用いて、進捗やリソース利用状況を自動的に記録します。
- 現場からの情報収集:現場スタッフに協力を仰ぎ、日々の業務で発生する手戻りや障害点を定量的に記録します。
- KPI(重要業績評価指標)の設定:可視化された業務プロセスに基づき、達成すべき目標値や基準値を設定します。
たとえば、製造ラインで作業時間のデータを収集した結果、特定の工程で手待ち時間が全体の30%を占めていることが判明した場合、工程間の調整を改善ポイントとして挙げることができます。
このように、データを基に具体的な課題を定義することで、見える化の効果を最大化できます。収集したデータは、次の段階での改善策の策定に不可欠な材料となります。
私の体験談

見える化の重要性を痛感したのは、私が東証1部大手製造業の決算早期化に向けた業務改革コンサルティングを行ったときでした。
この会社は、四半期決算期末後の開示日数が期限ギリギリの45日となっていました。しかし、投資家の信頼性向上や経営情報の早期把握による意思決定の迅速化を目的に、それを30日開示に短縮する目標を設定しました。
まず、私は現場での業務プロセスを可視化することから着手しました。
会社の全体の簡易業務フローチャートを作成して業務の全体勘と決算スケジュールを把握した上で、本社・連結子会社の実務担当者に対する業務ヒアリングを行い、詳細な業務の流れ・課題を把握しました。そして、業務フローの作成を通じて業務を可視化し、詳細な業務単位で決算早期化に向けた阻害要因(ボトルネック)を特定していきました。
その後、決算早期化を実現する新業務フローを設計し、新業務の運用可否確認とリスク・対応策を業務担当者とつめていき、丁寧に合意形成を図って協力体制を築いていきました。
結果として、1年後に決算期末後35日開示、2年後には30日開示を実現することができました。
決算早期化による投資家への迅速な情報提供に加え、筋肉質な業務プロセスが構築されたことで、業務生産性が大幅に向上しました。
また、決算早期化によって経営情報もタイムリーに取得できるようになったため、意思決定の迅速化もはかることができました。
経営者、経理部長からも「正しいアプローチで改善を進めれば、当社でもこんなに短期で成果を出せるということを体験できた」というありがたい声をいただきました。
見える化の成功は、明確な目標を定めた上で業務と課題を具体的に把握し、それを解決する新業務について実務担当者と丁寧に合意形成を図りながら、協働で取り組むことだと感じました。
Q&A
Q1: 見える化を始めるにはどのようなツールが必要ですか?
A: 見える化を始める際に、必ずしも高額なツールは必要ありません。紙・付箋やホワイトボードを。使って業務の流れを視覚化した上で、スプレッドシートを活用してまとめるとよいでしょう。
Q2: 見える化に取り組む時間やリソースがありません。どうすればいいですか?
A:リソースが限られている場合は、優先順位を明確にしましょう。すべての業務を同時に可視化するのではなく、現場で頻繁に問題が発生している工程や、業績に直結するプロセスに対象を絞って取り組むのが効果的です。また、専門のコンサルタントを一時的に導入することで効率的に進める方法もあります。
Q3: 見える化を導入した後、社員が抵抗を示した場合はどう対応すればいいですか?
A: 社員の抵抗を減らすためには、「見える化」の目的を共有し、メリットを明確に伝えることが重要です。たとえば、「業務負担が減る」「自分の作業が成果につながる」など、具体的な利点を説明しましょう。小さな成功体験を積むことで、徐々に受け入れられるようになります。
まとめ
業務の見える化は、特に中小企業において、効率化や生産性向上に大きな効果をもたらします。
まずは、業務フローを簡易的に可視化することから始め、課題を大まかに把握します。
次に、その課題をデータに基づいて裏付け、業務プロセスを詳細に可視化していきます。
これにより、ボトルネックや無駄を明確にし、改善策を立てるための土台を作ります。
見える化を進めるために高額なツールは必要なく、まずは手描きのフローチャートやスプレッドシートなど、簡単に使える手法を活用することが重要です。
業務の改善においては、現場の実態を把握し、必要に応じて適切なツールを導入していくことが成功のカギとなります。
見える化を進めることで、業務の透明化、効率化、そして従業員のモチベーション向上が期待でき、結果として企業の競争力を高めることができます。 まずは一歩を踏み出し、業務改善のために見える化を活用してみてください。
業務改善の具体的な進め方や社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中堅中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。
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