唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

中小企業を経営するあなたにとって、「価格設定」は極めて重要な経営課題です。価格は単なる数字ではなく、売上や利益に直接影響するだけでなく、企業のブランド力や市場でのポジショニングをも左右する、戦略そのものと言えます。「価格を下げれば売れるのか?」それとも「値下げによる利益圧迫が将来の成長を妨げるのでは?」と悩む経営者も多いでしょう。実際、値下げ路線で一時的な集客に成功したものの、後に採算割れで苦境に立たされる企業も少なくありません。価格戦略の成否は、企業の未来を大きく左右するのです。

本ガイドでは、価格戦略に取り組む際に押さえておきたい基本的な視点や実践的な手法を、分かりやすく解説しています。中小企業ならではの強みを活かした価格戦略を構築し、売上アップと持続可能な成長を目指す一助になれば幸いです。

それでは、具体的なポイントを見ていきましょう。

価格戦略が企業を左右する理由

価格は単なる「お金の額」ではなく、企業がどんな価値を提供しているかを示す「メッセージ」でもあります。安易に価格を下げても売れるとは限りませんし、逆に価格を高めに設定していたとしても、それに見合う価値が伝われば、お客様は納得して購入してくれます。

大手企業のように、大量仕入によるコスト削減ができない中小企業が、単純に「価格の安さ」で大手企業と戦った場合、はたしてどうなるでしょうか?価格競争に巻き込まれてしまい、利益が出ないだけでなく、お客様にとっても「安かろう、悪かろう」というイメージを与えてしまうことかもしれません。

そこでカギになるのが「価格戦略」という考え方です。

価格戦略とは、以下のような視点で総合的に考え、企業が目指す方向性や強みを踏まえながら価格を設計することです。

  • 自社の商品やサービスにはどのようなコストがかかっているのか?
  • 競合他社はどのような価格帯で勝負しているのか?
  • お客様が求める価値は何か?それにどれだけの金額を払ってくれるのか?

こうした視点を整理しないまま価格を決めてしまうと、「あのときもっと高くできたのに」「値下げしたのに売上があまり伸びず、むしろ利益が減った」という後悔につながりかねません。

言い換えれば、価格は「企業そのものの方向性」を明確にする手段でもあるのです。たとえ小規模事業者であっても、しっかりとした価値を生み出し、それにふさわしい価格を堂々と提示できれば、大企業にも負けない魅力をアピールすることができるのです。

価格を決める前に知っておくべき3つの視点

価格戦略を考える際、特に意識しておきたいことが「コスト」「競合」「価値」の3つの視点です。どれかひとつに偏らず、バランスを取って考えることが重要になります。

コスト(Cost)

まずは、自社の商品やサービスを提供するためにかかるコストを正確に把握しましょう。

  • 固定費:家賃や人件費、保険料など、売上にかかわらず一定額かかる費用
  • 変動費:材料費や仕入れ費、配送費用など、売上や生産量に応じて増減する費用

コストを上回る価格設定にしなければ、赤字が続いてしまい、事業が立ち行かなくなる恐れがあります。ただ、コストだけで「最低限の利益を乗せた価格」を決めたとしても、お客様が納得してくれるとは限りません。そこで次の視点も大切になります。

競合(Competition)

同じような商品やサービスを提供している競合他社が、どのくらいの価格で勝負しているのかも視点として外せません。あまりに市場の相場とかけ離れた価格設定では、顧客から敬遠されてしまう可能性があります。ただし、「価格の安さだけで勝負するのか?」、それとも「価格はやや高めでも、それだけの価値があると思ってもらう勝負をするのか?」については、会社としての方針次第となります。

何を強みにして、競合とどう差別化するのか?」を考えたうえで価格帯を設定することで、価格競争から一歩抜け出すことが可能となります。

価値(Value)

最後は、お客様が「その商品やサービスにどの程度の価値を感じているか?」という視点です。たとえ価格が高めでも、「これだけ良いものであれば、この金額を払う価値がある」と思わせることができれば、売上や利益率を維持できます。反対に、どんなに価格を下げても「そこまで欲しいと思わない」と思われている商品は売れません。

価値を高める方法はさまざまです。品質やデザイン、アフターサポート、保証期間、スタッフの接客態度など、お客様が「これなら他社より高くても買いたい」と思うポイントを磨くことで、適正な価格を守ることができるのです。

価格をどう設定する? 代表的な方法とそのメリット・デメリット

価格を設定する方法にはいくつかの代表的な方法があります。ここでは主な3つの方法を紹介し、それぞれの利点と注意点に触れます。

方法①:コストプラス法

  • 方法:自社のコストに、自分たちが欲しい利益を上乗せして価格を決定する。
  • メリット:計算がシンプルで、一定の利益を確保しやすい。
  • デメリット:お客様のニーズや競合状況を反映しづらく、「実はもっと高くできたのに安く売っている」「思ったより売れない」というリスクがある。

方法②:競合ベースの価格設定

  • 方法:競合他社の価格を調べ、同程度・やや高め・やや安めなど、自社が狙うポジショニングを決める。
  • メリット:相場から大きく外れないため、価格面での大きな失敗を避けやすい。
  • デメリット:差別化のポイントが明確になっていない場合、「同じ品質なら安い方がよい」となり、価格競争に巻き込まれる危険がある。

方法③:価値ベースの価格設定

  • 方法:お客様が「これなら払ってもいい」と感じる価値に合わせて価格を決める。
  • メリット:価値が高いと判断されれば、高めの価格でも納得してもらいやすい。
  • デメリット:お客様の声のリサーチや市場調査が必要で、手間や時間、費用がかかる可能性がある。

多くの企業は、これら3つの方法を組み合わせながら最適な価格帯を模索します。
たとえばコストプラス法で「最低限の採算ライン」を把握したうえで、競合の動きやお客様の評価を観察しながら、最終的な価格を調整していく、という流れが一般的です。

お客様の心を動かす「価格の見せ方」の工夫

実は、「いくらで売るか?」だけでなく、「どう価格を提示するか?」も売れ行きやお客様の印象に大きく影響します。

以下は心理学やマーケティングの観点から、比較的取り入れやすい工夫を紹介します。

  1. セット販売(バンドリング)
    複数の商品やサービスをまとめて販売し、単品で買うより割安に感じさせる手法。飲食店の「ドリンクセット」「○○セット」などは典型的な例です。
  2. 価格のアンカリング
    最初に高めの商品やサービスの価格を見せておくと、その後に提示する価格が安く感じられる心理効果があります。たとえばWEBサイトやチラシで、「通常価格→割引価格」の順序で載せると、お得感が強まります。
  3. 価格帯のグレード分け
    「エコノミー」「スタンダード」「プレミアム」といったグレードを設け、選択肢を複数用意する方法です。中間のグレードが最も選ばれやすい傾向があるため、「狙いたい価格帯」をスタンダードに据える企業もあります。
  4. サブスクリプションの導入
    一度に大きな金額を払うより、毎月定額で利用できる仕組みを提供することで、お客様の心理的負担を軽減します。
    例:飲食店の月額制ドリンクパスや、小売店の定期配送便など。継続的な収益が見込めるのが魅力です。

価格を調整・見直すときの注意点とステップ

価格設定は一度決めたら終わりではなく、社会情勢やコスト構造の変化、お客様からの声などを踏まえて見直しを行う必要があります。以下のステップを意識しながら進めてください。

  1. 現場の声の収集
    値段に関するクレームや要望は、店頭スタッフや営業担当が一番よく知っています。定期的にミーティングを開くなどして、生の声を吸い上げましょう。「価格が高いと言われることが増えた」「逆に、この値段なら安いという声もある」といった情報が次のアクションのヒントになります。
  2. 競合の動きと市場の変化をモニタリング
    競合が同等の商品やサービスを値下げしてきたら、自社にどんな影響があるかを見極める必要があります。社会的には、原料費や人件費が高騰しているかもしれません。そうしたコスト要因が発生すれば、価格改定を検討するのは自然な流れです。近年の我が国は、近年稀にみる物価高であるため、比較的価格改定をしやすい経営環境ではあります。
  3. 小規模テストの実施
    値上げ・値下げや新しい価格プランの導入を、いきなり全店舗や全顧客に適用するのはリスクが伴います。まずは一部地域や特定顧客を対象に試験運用し、売上や反応を分析しましょう。データに基づいて判断すれば、失敗リスクを最小化できます。
  4. 導入時の丁寧なコミュニケーション
    値上げを行う場合は、「どんな理由で値上げをするのか?」「価格が上がった分、どんなメリットを提供できるのか?」をわかりやすく説明してください。「さらなる品質向上」「新商品の開発費」「スタッフ教育の充実」など、お客様が理解できる情報を提示すると、不満が軽減されやすくなります。

Q&A

Q1. 「値上げするとお客様が一気に離れてしまうのでは」と心配です。
A. 確かに一部のお客様は離れる可能性がありますが、すべてが離れてしまうわけではありません。むしろ「値段に見合う価値」がしっかり伝われば、多くのお客様は納得してくれます。値上げ時には、その理由と付加価値をしっかり説明することが大切です。「原材料の品質アップ」「アフターサポートの充実」「安定した供給体制の確保」など、お客様にとってメリットがあるなら、それを具体的にアピールすることで理解を得やすくなります。

Q2. 競合が値下げしてきたら、こちらもすぐ値下げに踏み切るべきでしょうか?
A. 競合の動きに必ずしも同調する必要はありません。もし自社独自の強みや差別化ポイントがあれば、価格を下げなくても勝負することはできます。たとえば、「丁寧なカウンセリングがある」「故障時の補償サービスが手厚い」など、お客様にとって付加価値が大きいのであれば、値下げ合戦に巻き込まれずに済むでしょう。

Q3. 価格を低くしないと売れない商品でも、付加価値をつけて高めに設定することはできますか?
A. もちろん可能です。たとえば低価格帯の消耗品であっても、梱包デザインにこだわったり、迅速な配送やカスタマーサポートを整えたりすることで、お客様の満足度を上げることができます。そこに独自性を見いだせれば、同じカテゴリーでも高めの価格を提示して「これなら払う価値がある」と思ってもらえるケースはあります。

Q4. 小さな商店や飲食店でもサブスクリプション型のサービスは導入しやすいでしょうか?
A. 十分導入可能です。月額制で特定のメニューが食べ放題、または1日1杯のドリンクが無料になるなど、工夫次第でお客様にとって魅力的なプランを作れます。最近では「近所のパン屋さんが毎朝焼きたてパンを届けてくれるサブスク」などの事例もあります。固定客が増えれば、安定した収益とリピーターの獲得が期待できます。

まとめ

価格戦略は、「企業の方向性を具体的に示す強力な手段」です。ただ安くするだけではなく、「どんな価値を提供したいのか?」「そのためにはどのくらいの価格が妥当なのか?」をしっかり考えることが大切です。

20年以上コンサルタントをしてきた私の経験から申し上げると、価格を適正化するだけでも「売上と利益が改善する」ケースは多々あります。

特に、以下の点を意識して取り組んでみてください。

  • コスト・競合・価値の3つの視点をバランスよく検討し、最低限必要なラインや市場の相場と、自社の強みをすり合わせる。
  • 価格の提示方法やプランの作り方を工夫し、お客様に「お得」「分かりやすい」「メリットが大きい」と感じてもらえる仕掛けを考える。
  • 見直すタイミングを逃さない。原材料の価格変動や、人件費の上昇、競合他社の動きなどに合わせ、こまめにチューニングを行う。
  • 値上げ時の丁寧な説明や、差別化ポイントのアピールを怠らない。なぜ値上げが必要かを伝えるとともに、それに見合う価値を再度創出する努力をする。

価格をめぐる判断は、最初は勇気がいることかもしれません。しかし、ここでしっかり考え抜いておくと、長期的には企業の体質が大きく変わることがあります。

価格戦略を見直す過程で、「うちの強みは何なのか?」「お客様が一番喜んでいるのはどこか?」という本質的な部分が明確になることが多いからです。

もし分からないことがあれば、ぜひご相談ください。価格設定をきっかけに事業モデル自体を再検討した結果、新しい販路開拓や商品開発につながるケースも珍しくありません。

本記事を読んで、あなたが「安易な値下げ」に走らず、自社の価値をしっかりと伝えられる価格戦略を確立して、中長期的な成長と安定した利益を目指していただければと思います。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。