唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

Z世代は自分で考えない」――そう言われたとき、あなたはどのように感じるでしょうか?テクノロジーやソーシャルメディアに没入し、スマホとSNSが当たり前の環境で育った彼ら。確かに、情報があまりにも多い時代に生きているので、一見すると「自分で考えるよりも、誰かの意見やネット上の評価に流されているだけではないか」と思うことがあるかもしれません。

しかし、この認識は本当に正しいのでしょうか?

本コラムでは、Z世代をめぐる豊富な既存研究やデータを踏まえながら、「Z世代が本当に考えないのか」を検証し、中堅中小企業がZ世代の特徴をどう活かしていけばよいのか、その具体策をわかりやすく解説します。 筆者は経営コンサルタント歴20年の経験を通じ、様々な業種・規模の企業経営者と若手社員の育成支援に携わってきました。その中で常に痛感するのは、「世代の違い」を単純に決めつけるのではなく、その背景を理解したうえで、自社組織に合った向き合い方を工夫することこそが、若手の成長と企業の発展を加速させるということです。ぜひ最後までお読みいただき、Z世代の理解と活躍をサポートするヒントを持ち帰ってください。

Z世代とは? 〜背景と特徴の再整理〜

Z世代の定義と多様性

Z世代は、1990年代半ばから2010年代初頭に生まれた世代を指すとされます。生まれた時からインターネットやスマートフォンとともに育ち、SNSを通じて膨大な情報や多様な価値観に触れてきた「デジタルネイティブ世代」である点が大きな特徴です。また、彼らは人種や民族などの面でも従来より多様性が高い環境で育ち、自然とインクルーシブな思考をもつ傾向が強いとも言われます。

さらに、リーマンショックをはじめとする経済危機を幼少期や学生期に経験しているため、経済的安定や実用的な教育を重視する「現実主義」「経済志向」の側面も併せもちます。同時に、本物のつながりや柔軟な働き方、透明性を大切にする「真正性と柔軟性」を求め、気候変動や社会正義といった社会課題に高い関心を寄せるなど、一見すると矛盾するような価値観を併せ持つ世代でもあるのです。

「Z世代は自分で考えない」という通説の背景

「Z世代は思考停止している」「指示待ちばかり」という先入観は、一体どこから来るのでしょうか?背景には、以下のような要因が考えられます。

  1. デジタル依存によるコミュニケーション不安
    SNSやチャットアプリを中心としたコミュニケーションに慣れており、対面での会話やプレゼンテーションに苦手意識を持つケースがあるようです。すると、周囲から見れば「主体的に発言しない」「自ら意見を持っていない」と映るかもしれません。
  2. 情報の洪水下での判断の難しさ
    ほぼ無限とも言える情報量がある中で、フェイクニュースや誤情報も多く存在し、正否を見極めることは容易ではありません。ゆえに上手に情報処理しきれず、混乱してしまう姿が、「自分で考えていない」ように映ることもあります。
  3. 即時的な満足感への慣れ
    スマホやSNSの普及により、あらゆる情報やサービスを即座に得られる環境です。待ち時間を嫌い、結果を急ぐ傾向があるため、粘り強い思考や長期的視野を求める仕事では「根気や探求心が足りない」と感じられるケースがあります。

しかし、これはあくまで「従来世代が使ってきた物差し」でZ世代を測った場合の偏った見方とも言えます。実際の研究データをみると、Z世代は「自分の意見を持っていない」わけでは決してありません。 以下で詳しく見ていきましょう。

Z世代の思考力・批判的思考は本当に低いのか?

Z世代の批判的思考力に関する研究

Z世代のデジタル活用能力や情報検索スキルは高いものの、情報リテラシーが十分に育っていないという面が様々な調査で指摘されています。実際、「Z世代の情報リテラシーに関する調査(株式会社RECCOO)」によると、「SNS上の情報の根拠を確認しているか」という質問に対して、44%は「情報を鵜呑みにしてしまうことがある」と回答しています。このことから、SNS上の情報を精査しないまま受け入れている層が一定数存在していることがわかります。こうした点から「深く考えない世代」というイメージが生まれてしまうのかもしれません。

一方で、批判的思考デジタルスキル(Critical Thinking Digital Skills: CTDS)を測定したイスラエルの研究では、Z世代のスコアがX世代やY世代を上回る結果が示されました。これは、Z世代が「デジタルネイティブ」として生まれた強みを活かし、分析力や判断力を上手に統合している可能性を示唆します。ただし、同研究は特定の地域(イスラエルのユダヤ人)を対象としており、文化的背景が異なる他国で同じ結果が得られるかについては注意が必要です。

「考え方が違う」=「考えていない」ではない

Z世代が自分なりの判断基準をもって行動している例としては、以下のような報告があります。

  • ソーシャルメディアとの付き合い方: 半数近くがソーシャルメディアとの関係を見直したいと考えており、その負の影響や情報の偏りに対して自覚的である(情報ソースはこちら)。
  • オンライン情報の検証: 49%が自主的に追加調査を行い、55%が専門家のコンテンツを信頼するといったデータ(情報ソースはこちら)もあり、若い世代が無批判に流されているわけではないことがうかがえる。

このように、Z世代は「従来型の階層的な組織や指示・管理」に違和感をもつと同時に、「デジタルの恩恵とリスク」を理解しようとしているとも言えます。逆に言えば、経営者・上司側が「自分たちの常識こそ正しい」という態度を取り続けると、Z世代が内面で考えていることを汲み取れず、「彼らは何も考えていない」と早合点してしまう恐れがあります。

Z世代が活躍できる組織づくりのポイント

ここからは、中堅中小企業がZ世代の「思考力」を存分に引き出していくための具体的アプローチを整理します。

ポイント①:情報リテラシー・批判的思考を育む環境づくり

Z世代が現代特有の情報環境で混乱しないよう、企業としては以下のような施策を検討する価値があります。

  1. 定期的な勉強会・ワークショップの実施
    フェイクニュースや広告表示の仕組みなど、ネット情報の真偽を見極めるリテラシー教育を社内で行う。
  2. 問題解決型の研修・OJT
    実践的な課題を与え、チームや個人で解決策を考えさせる場を多く設ける。Z世代は「現実的で実践的な学習」を好むため、取り組む意欲が高まりやすい。
  3. メタ認知スキルを高める機会
    「自分がどのように思考し、学習しているか」を客観的に振り返る訓練をする。特に経営者や管理職が自ら学びのプロセスを語ると、社員の気づきを促進しやすくなる。

ポイント②:テクノロジーは「代替」ではなく「補完」に

Z世代はテクノロジーへの依存度が高く、例えば「何か問題があればすぐに検索する」「AIに答えを求める」といった行動パターンをとりやすいと指摘されています。これを「考えない原因」と一方的に捉えるのではなく、企業としては「テクノロジーを活用しつつ、最後は人間が思考を深める」ように導く環境が重要です。

  • AIなどのツールを積極的に使ってもよいが、最終判断は人間が根拠とロジックを確認する
  • テクノロジーで効率化できた分の時間を、企画やコミュニケーション、クリエイティブな思考に充てる

こういった方針を明確にすることで、Z世代が「テクノロジーの便利さ」に溺れず、「人間ならではの価値」を考え続ける土壌を育めます。

ポイント③:ソーシャルメディアとの上手な付き合い方

Z世代の生産性や思考力にネガティブな影響をもたらす要因として、SNS依存やオンラインのエコーチェンバー現象も挙げられます。その一方で、SNSは最新情報や人脈形成の面でも大きな武器となり得ます。企業としては完全に使用を制限するのではなく、情報交換やマーケティングの手段としてSNSを有効活用する方策を検討してみる価値があります。

  • 企業の公式SNSアカウントを運営し、若手社員に運用の一部を任せる
  • 社内SNSやコミュニケーションツールを導入し、オープンに意見交換できる文化をつくる
  • SNS上での情報拡散リスク(炎上等)を理解してもらう教育を行う

こうした仕組みによって、Z世代の「デジタル・コミュニケーション力」をポジティブに活かせる可能性が広がります。

ポイント④:自立思考を引き出すリーダーシップ

Z世代は「硬直的な上下関係」や「命令型マネジメント」にストレスを感じるケースが多いため、「コーチ型リーダーシップ」「メンター型リーダーシップ」が有効です。具体的には、以下のようなアプローチが挙げられます。

  • 期待値とゴールを明確にしつつも、プロセスは任せる
  • 適度なフィードバックの頻度(短いサイクルで成果を確認・指導)
  • 失敗を学習につなげるカルチャー(上司や先輩も失敗談をオープンに共有する)

Z世代は「自分なりの価値観で社会をよりよくしたい」「自社に貢献する意義を感じたい」という気持ちを強く持つ人も多いです。その意欲を引き出し、主体的に考える余地を与えることで、従来世代にはない斬新なアイデアや行動力が得られるかもしれません。

Q&A

Q1. Z世代を一括りにして語るのは乱暴じゃないですか?
A. 正におっしゃる通りです。どの世代にも多様な個人が存在し、Z世代といっても一枚岩ではありません。本コラムの内容は、研究やデータに基づく「一般論的傾向」を整理したものです。実際の現場では、個々の社員が持つ強みや興味関心を把握し、柔軟に対応する姿勢が欠かせません。

Q2.指示をしないと動かない若手がいるのですが、こちらのサポートが足りないのでしょうか?
A. Z世代は「自主的に調べたり提案したりする」のが得意な一方、「どこまで自分で決めてよいか」が曖昧だと動きにくい面もあります。上司が求めるゴールや判断ラインを明確にしつつ、若手が安心して試行錯誤できるようにサポートを行うと、「ただ指示待ちで固まる」という状況が改善するケースが多いです。

Q3. Z世代向けにSNSやデジタルツールを積極導入したら、逆にコミュニケーションが希薄になりました…。
A. SNSやチャットツールを導入すればコミュニケーションが活性化するわけではありません。リアルな場での対話や、直接会って議論する時間とのバランスが重要です。オンライン環境は情報共有を円滑化するための「手段」にすぎないことを理解し、「どのような内容をオンラインで行い、どのよう内容は対面が望ましいか」をチームで話し合うとよいでしょう。

Q4. Z世代と一緒にいると「社会正義」や「環境問題」の話題がよく出ますが、業績に直結しない気がしています。
A. 環境配慮や社会的課題への取り組みは、今や企業のブランド・信頼を左右する要素になりつつあります。Z世代はこうしたテーマに強い関心を持ち、倫理的な消費や企業活動を重視する人が多いです。経営としては、「社会課題への姿勢」が企業価値や採用力にも影響する時代だと捉え、Z世代の声を経営戦略に取り込むことも大切です。

まとめ

Z世代は自分で考えない」という通説を改めて検証してみると、実は**「考えていない」のではなく「デジタル時代ならではの考え方・行動様式」を持っている**にすぎないことがわかります。情報検索やテクノロジーに対する高い適応力を活かしつつも、フェイクニュースなどのリテラシー課題や、即時的な満足感への傾倒など、いくつかの弱点を抱えているのは事実です。

しかし、それらは組織が適切な環境整備・教育を行うことで大きく改善できる領域でもあります。特に中堅中小企業においては、人材が「会社を支える最強の武器」となるケースが多く、Z世代の自主性やデジタルスキルは大きなアドバンテージになり得ます。

  • 情報リテラシーや批判的思考を磨く研修や勉強会
  • 実践型の問題解決学習やOJTで試行錯誤を促す
  • テクノロジーを思考の“代替”ではなく“補完”に位置づける仕組み
  • 自身の価値観を大切にするZ世代を尊重し、コーチ型リーダーシップを取り入れる

こうした取り組みを通じて、Z世代が持つポテンシャルを最大限に引き出し、組織のイノベーションや新しい視点の獲得につなげていってください。「自分で考えない世代」と決めつけるのは簡単ですが、一歩踏み込んで彼らの強みを理解し、育成・活躍の場を与えることは、結果として企業の競争力向上に直結していくはずです。若手を変えようとする前に、まず受け入れる側のマネジメントや組織文化を変える意識を持つことが何より重要だということです。Z世代がもつ新鮮な視点とデジタルスキルを上手に取り入れ、さらに深い思考力を引き出していく――この両輪ができれば、中堅中小企業にとって大きな飛躍の原動力となることでしょう。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。