唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

「給与や昇進で報いようとしているのだが、響いている様子がない…」

「面談で評価を伝えても、『はあ…』と気のない返事ばかり…」

「そもそも、自分の評価に全く興味がなさそうだ…」

中堅中小企業の経営者や管理職のみなさまから、こうしたお悩みを伺う機会があります。私自身、数多くの企業のコンサルティングに携わる中で、この「評価を気にしない部下」との向き合い方が、組織の成長を左右する重要なテーマの1つになっていると感じています。

果たして、彼らは本当に「やる気がない」のでしょうか?

決してそうではありません。彼らは、経営サイドの人間がこれまで常識としてきた動機付けのモノサシでは測れない、新しい価値観の中で生きています。見方を変え、アプローチを最適化することで、彼らは驚くほどのパフォーマンスを発揮する「金の卵」になる可能性を秘めているのです。

この記事では、「評価を気にしない部下」の深層心理を解き明かし、彼らのやる気を内側から引き出すための具体的なマネジメント術をわかりやすく解説していきます。 この記事を読み終える頃には、あなたは部下への見方が180度変わり、明日からのマネジメントに確かな自信と具体的な武器を手にしているはずです。

なぜ「評価を気にしない部下」が増えているのか?

なぜ「評価を気にしない」部下が増えているのかでしょうか?まず、その背景を理解することが第一歩です。原因が分かれば、打つべき手が見えてきます。

主な要因は以下の3つに集約されます。

要因①:終身雇用の崩壊とキャリア観の多様化

かつての日本では、一つの会社に定年まで勤め上げる「終身雇用」が当たり前でした。会社への帰属意識が高く、社内での評価や昇進が、人生の成功と直結していました。

しかし、現代ではどうでしょう?

社会的な流れとしてわが国でも転職が当たり前になる中、一つの会社に骨を埋めるという考え方は過去のものとなりつつあります。独立や副業(複業)など、働き方の選択肢も依然と比較して飛躍的に増えています。パーソル総合研究所の「副業の実態・意識に関する定量調査」(2023年)によると、正社員の副業実施率は近年ほぼ横ばいかやや減少傾向にあるものの、「今後副業をしたい」と考える副業意向率は40.8%にも達しており、副業への関心自体は依然として高い状況にあります。

つまり、彼らにとってのキャリアは「会社の中」だけで完結するものではなく、社外にも広がる「個人のもの」となっているのです。だからこそ、目の前の会社からの評価だけが彼らの行動原理にはなりにくい背景があるのです。彼らは、会社での経験を自分の市場価値を高めるための「スキルアップの機会」と捉えている側面もあります。

要因②:「承認欲求」の質の変化

「誰かに認められたい」という承認欲求は、誰もが持っているものです。しかし、その満たし方が変化しています。

かつては、上司や会社からの「評価」が承認欲求を満たす主な手段でした。しかし、SNSが普及した現代では、社外のコミュニティや、インターネット上で「いいね!」をもらうことでも、手軽に承認欲求を満たせるようになりました。

彼らは、必ずしも上司や会社という限定的なコミュニティからの承認だけを求めているわけではないのです。自分のスキルや作品をSNSで発信し、社外の多くの人々から賞賛されることに喜びを見出す人も少なくありません。

要因③:ワークライフバランスから「ワークライフインテグレーション」へ

「ワークライフバランス」という言葉が叫ばれて久しいですが、最近ではさらに進んだ「ワークライフインテグレーション(仕事と生活の統合)」という考え方が注目されています。これは、仕事とプライベートを完全に切り分けるのではなく、両方を充実させることで人生全体の幸福度を高めようという考え方です。

彼らにとっては、仕事のためにプライベートを犠牲にすることは考えられません。むしろ、充実したプライベートが、仕事のパフォーマンスを高めると考えています。 そのため、給与アップや昇進と引き換えに、過度な残業や休日出勤を求めるようなマネジメントは、全く響かないどころか、むしろエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を低下させる原因にすらなります。

あなたの部下はどのタイプ?「評価を気にしない部下」5つのタイプと見極め方

とはいえ、「部下は評価を気にしない」と一括りにしてはいけません。その背景にある思考は一人ひとり異なります。ここでは、私が現場で見てきた経験から代表的な5つのタイプに分類し、その見極め方を解説します。

タイプ1:安定志向・省エネタイプ

  • 口癖・行動: 「言われたことはやります」「それ、私の仕事ですか?」「定時で帰ります」
  • 特徴: 指示された業務はきちんとこなしますが、それ以上のことを自発的にやろうとはしません。変化を嫌い、現状維持を望む傾向が強いです。チャレンジングな仕事よりも、慣れたルーティンワークを好みます。
  • 深層心理: 「失敗して評価を下げるくらいなら、波風立てずにいたい」「余計な仕事は増やしたくない」という、リスク回避の意識が根底にあります。

タイプ2:専門性追求・職人タイプ

  • 口癖・行動: 「この技術をもっと極めたいです」「マネジメントには興味ありません」「このやり方がベストです」
  • 特徴: 自分の専門分野や得意なスキルに対する探求心が非常に強いです。社内での地位や評価よりも、自身のスキルが市場で通用するか、より高度な技術を習得できるかを重視します。
  • 深層心理: 自分の興味や知的好奇心を満たすことが最大のモチベーションです。「プロとして認められたい」という欲求が強く、人事評価の基準と自分の価値基準が合わないと感じています。

タイプ3:プライベート重視・割り切りタイプ

  • 口癖・行動: 「休みの日はしっかり休みたいので」「趣味の時間も大切にしたいんです」「残業はできません」
  • 特徴: 仕事はあくまで「生活のための手段」と明確に割り切っています。仕事にやりがいを感じていないわけではありませんが、人生における優先順位のトップはプライベート(趣味、家族、自己投資など)にあります。
  • 深層心理: 「仕事で自己実現を」という考え方が薄く、人生の充実は社外にあると考えています。そのため、プライベートを侵食するような働き方を極端に嫌います。

タイプ4:自己肯定感MAX・我が道を行くタイプ

  • 口癖・行動: 「評価は気にしないです。自分が正しいと思うことをやります」「結果は出しているので問題ないですよね?」
  • 特徴: 自分の中に確固たる価値基準や信念を持っており、他者からの評価に依存しません。自信家で、自分のやり方で仕事を進めることを好みます。能力が高いケースも多いですが、時に協調性に欠けることも。
  • 深層心理: 強い自己肯定感を持ち、自分の判断に絶対的な自信を持っています。上司からの評価を「数ある意見の一つ」程度にしか捉えていない可能性があります。

タイプ5:自信喪失・あきらめタイプ

  • 口癖・行動: 「どうせ自分なんて…」「頑張っても評価されないし…」「(面談で)特にありません」
  • 特徴: 過去の失敗体験や、正当に評価されなかった経験から、「どうせ頑張っても無駄だ」と学習性無力感に陥っています。表面的には評価を気にしていないように見えますが、内面では承認を渇望しているケースも多いです。
  • 深層心理: 「傷つきたくない」という強い防衛本能が働いています。評価を気にしないという態度は、期待して裏切られることを避けるための鎧なのです。

明日からできる!タイプ別・やる気を引き出すマネジント術

さて、ここからが本題です。各タイプに合わせた具体的なアプローチ方法をご紹介します。

「安定志向・省エネタイプ」への処方箋

このタイプには、「安心感」と「小さな成功体験」がキーワードです。

  1. 「なぜ」を丁寧に伝える
    ただ「これをやって」と指示するのではなく、「この仕事が部署の目標達成にどうつながるのか?」「お客様にどんな価値を提供できるのか?」という仕事の意義や目的を丁寧に説明します。彼らは無駄を嫌うため、その仕事の必要性を理解できると、納得して取り組みます。
  1. 変化へのハードルを下げる
    新しい仕事を任せる際は、「まずはこの部分だけ試してみない?」「もし難しかったら、いつでもサポートするから」といった声かけで、心理的な負担を軽減します。小さなステップを刻み、徐々に慣れさせていくことが重要です。
  1. プロセスを具体的に褒める
    「売上が上がってすごい」という結果だけでなく、「〇〇さんのおかげで、資料の準備がすごくスムーズに進んだよ。ありがとう」といったように、日々の行動や貢献を具体的に見つけて褒めます。これが「自分は認められている」という安心感に繋がります。

「専門性追求・職人タイプ」への処方箋

このタイプには、「尊重」と「機会提供」がカギを握ります。

  1. 社内での「先生役」を任せる
    彼らの専門知識を社内で共有する勉強会を開いてもらったり、後輩の指導役を任せたりします。「教える」という行為は、知識の再整理にも繋がり、本人の承認欲求を健全な形で満たします。
  1. 評価制度とは別の「称号」を与える
    通常の役職とは別に、「〇〇マイスター」「テクニカルリード」のような、専門性を称える称号を与えるのも有効です。これは、会社が彼らのスキルを公式に認めているという強いメッセージになります。
  1. 外部との接点機会の増加を促す
    最先端の技術セミナーへの参加を支援したり、社外の専門家との交流の場を設けたりします。彼らの知的好奇心を刺激し、「この会社にいれば成長できる」と感じさせることが、リテンション(人材の定着)にも繋がります。

「プライベート重視・割り切りタイプ」への処方箋

このタイプには、「効率性」と「柔軟性」で応えます。

  1. 「時間内に成果を出すこと」を評価する
    長時間労働を美徳とせず、「いかに効率的に働き、定時で成果を出すか」を評価する文化を醸成します。ダラダラと残業する社員より、集中して時間内に仕事を終える社員を称賛するのです。
  1. 働き方の裁量権を与える
    リモートワークやフレックスタイム制など、可能な範囲で働き方の柔軟性を高めます。「自分の生活に合わせて働き方をコントロールできる」という感覚は、彼らにとって大きな魅力です。
  1. キャリアパスを一緒に考える
    「この会社で働き続けることで、あなたの人生がどう豊かになるか」という視点で対話します。例えば、「ここで得たスキルは、将来あなたの趣味である〇〇にも活かせるかもしれないね」といったように、仕事とプライベートのポジティブな連携を示唆します。

仕事とプライベートの境界線については以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。

「自己肯定感MAX・我が道を行くタイプ」への処方箋

このタイプには、「信頼」と「明確なゴール設定」が不可欠です。

  1. 「Why(なぜ)」と「What(何を)」を共有し、「How(どうやるか)」は任せる
    会社のビジョンや目標(Why)、そして達成してほしい成果(What)を明確に伝えます。その上で、そこに至るプロセス(How)は、本人の裁量に任せます。マイクロマネジメントは彼らのやる気を著しく削ぐので絶対に避けるべきです。
  1. 1on1ミーティングで対等に対話する
    上から指示するのではなく、「あなたはこの課題についてどう思う?」「私としてはこう考えているんだけど、意見を聞かせてほしい」といったように、対等なパートナーとして対話します。彼らの意見を尊重し、良いアイデアは積極的に採用する姿勢が信頼関係を築きます。
  1. 結果責任を明確にする
    裁量を与えることと、結果責任を求めることはセットです。「この目標達成については、あなたに全権を委ねる。その代わり、結果については責任を持って報告してほしい」と明確に伝えます。高い目標であるほど、彼らの挑戦意欲を掻き立てます。

1on1については、以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。

「自信喪失・あきらめタイプ」への処方箋

このタイプには、何よりも「傾聴」と「承認」が必要です。焦りは禁物です。

  1. 安全な場で、ただ聴く
    まずは評価やアドバイスを一切せず、「最近どう?」「何か困っていることはない?」と問いかけ、ひたすら耳を傾けます。彼らが口を開くまで、沈黙を恐れずに待ちます。彼らが抱える不安や不満を吐き出させることが、心の回復の第一歩です。
  1. 絶対に達成できる「スモールステップ」を用意する
    誰が見ても「これなら絶対にできる」というレベルの簡単な仕事から任せます。そして、できたらすぐに「ありがとう、助かったよ!」と感謝を伝えます。この小さな成功体験の積み重ねが、「自分でもできるんだ」という自己効力感を育みます。
  1. 存在そのものを承認する
    「〇〇さんがいてくれるだけで、職場の雰囲気が和むよ」といったように、成果だけでなく、その人の存在 자체を認める言葉をかけます。自分はチームに必要な存在なのだと感じさせることが、再び前を向くきっかけになります。

全タイプに共通!組織の土壌を育む「内発的動機づけ」の高め方

個別の対応と並行して、組織全体で取り組むべき普遍的なアプローチがあります。それは、社員が自らの内側から「やりたい」と思う力、すなわち「内発的動機づけ」を引き出す環境を整えることです。

心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」が、その強力なヒントになります。この理論では、人間は以下の3つの欲求が満たされると、内発的にやる気が高まるとされています。

  1. 自律性 (Autonomy): 「自分の行動は、自分で決めたい」という欲求です。業務の進め方やスケジュールにある程度の裁量権を与えることで満たされます。
  2. 有能感 (Competence): 「自分はできる、有能だ」と感じたい欲求です。少し挑戦的な課題を乗り越えさせたり、成長を実感できるフィードバックを与えたりすることで満たされます。
  3. 関係性 (Relatedness): 「誰かと尊重し合える関係を築きたい」という欲求です。職場の人間関係が良好で、チームの一員として受け入れられていると感じることで満たされます。

これらの欲求を満たす土台となるのが、「心理的安全性(Psychological Safety)」です。これは、「この組織の中では、自分の意見を言ったり、失敗したりしても、罰せられたり、人間関係が悪くなったりしない」と信じられる状態のことです。心理的安全性が確保されて初めて、社員は安心して挑戦し、自律的に行動できるようになるのです。

内発的動機付けと心理的安全性については、以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。

Q&A

Q1. 評価制度自体を変える必要はありますか?
A. 直ちに大規模な変更をする必要はありませんが、見直しは有効です。特に、結果だけでなくプロセスや挑戦した姿勢を評価する項目を取り入れたり、上司からの一方的な評価だけでなく、同僚や部下からもフィードバックをもらう「360度評価」を部分的に導入したりすることは、多くのタイプにポジティブに作用します。大切なのは、評価が「罰するため」ではなく「成長を支援するため」のものであるというメッセージを会社全体で共有することです。

Q2. 1on1ミーティングがうまくいきません。何かコツはありますか?
A. 1on1が「上司が進捗確認をする場」になっていませんか?主役はあくまで部下です。上司は「話す」のではなく「聴く」ことに徹し、話す割合は「上司2:部下8」を目指してください。また、「何か困っていることは?」という漠然とした質問ではなく、「最近、仕事で一番『面白い』と感じた瞬間は?」「もし、何でも一つ改善できるとしたら、何を変えたい?」といった、相手が答えやすい具体的な質問を投げかけるのも有効です。事前に「今日はこんなことについて話したい」とアジェンダを共有するのも良いでしょう。

Q3. 年上の部下で評価を気にしないタイプにはどう接すれば良いですか?
A. 年上の部下に対しては、特に「敬意」と「頼る姿勢」が重要です。これまでの経験や知識に対して敬意を払い、「〇〇さんのご経験から、この件についてアドバイスをいただけませんか?」といったように、プライドを尊重しながら頼ることが効果的です。また、これまでの会社の歴史や、過去の成功事例などを教えてもらう「聞き役」に徹することで、相手も心を開きやすくなります。彼らの経験を、組織の知恵として活かす仕組みを作ることが、結果的に彼らのモチベーションにつながります。

まとめ

「評価を気にしない部下」は、決してやる気がないわけでも、会社に貢献する気がないわけでもありません。彼らは、私たちとは異なる価値観のモノサシを持ち、異なる動機で動いているだけなのです。

彼らを「問題児」と捉えるか、「新しい可能性を秘めた人材」と捉えるか。その視点の転換こそが、現代のマネジメントにおける最大の鍵です。

本コラムでご紹介したタイプ別の接し方や、内発的動機づけを高めるアプローチは、20年にわたる私のコンサルティング経験の中でも、特に効果が高かったものです。すべてを一度に実践する必要はありません。まずは、あなたの部下の顔を思い浮かべ、「このアプローチなら試せそうだ」と思うものから一つ、明日から始めてみてください。 あなたの小さな一歩が、部下の心に火を灯し、ひいては会社全体の推進力を生み出すきっかけになるはずです。部下一人ひとりの個性が輝く、強い組織作りを、心から応援しています。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。