唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
「今期もまた、赤字が決定的だ……」
決算月が近づくたび、胃がキリキリと痛み、眠れない夜を過ごしている経営者の方は少なくありません。コロナ禍という未曾有の危機を経て、一時的な業績悪化ではなく、慢性的な「赤字体質」に陥ってしまった企業が増加しています。
1期や2期の赤字であれば、「来期こそは」と銀行も社員も励ましてくれるかもしれません。しかし、これが3期、4期、そして5期連続ともなると、周囲の空気は一変します。銀行の融資態度は硬化し、古参の社員は静かに去り、もしかすると社長であるあなた自身のメンタルも限界に近づいているのではないでしょうか?
私は数多くの中堅中小企業の経営再建の現場に立ち会ってきました。その経験から断言できることが一つあります。
「5期連続赤字であっても、正しい手順と覚悟があれば、逆転は十分に可能である」ということです。
実際に、私が今期からご支援を開始したクライアント2社(製造業と印刷業)は、実際にコロナ禍前から続く長いトンネルを抜け、実に6期ぶりの「黒字転換」を達成する見通しが立ちました。この2社のクライアントは、決して魔法を使ったわけではありません。「限界ライン」を正しく認識し、そこから逆算した打ち手を泥臭く実行しただけです。
本コラムでは、赤字からの脱却を目指す経営者が直視すべき「資金・信頼・社員」の3つの限界ラインと、そこからV字回復するための実践的な処方箋をお伝えします。専門用語は極力使わず、現場で使える知識として解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。




なぜ「5期」が危険水域なのか? データで見る生存率


まず、客観的なデータを見てみましょう。
日本政策金融公庫総合研究所の「小企業の決算状況調査(2023年度決算、2024年8月発表)」によると、2023年度決算時点で「黒字」企業の割合は39.6%、「赤字」企業の割合は32.7%であることが確認されています。赤字そのものは珍しいことではありませんが、問題はその「期間」です。
一般的に、金融機関や信用調査会社は赤字が3期続くと企業の格付け(ランク)を大幅に引き下げます。そして5期続くと、多くの企業で「債務超過(資産よりも借金の方が多い状態)」が常態化し、実質的な破綻状態とみなされるリスクが跳ね上がります。
- 1〜2期赤字: 黄信号。改善計画で融資継続が可能。
- 3期連続赤字: 赤信号。追加融資が極めて困難になる。
- 5期連続赤字: 危険水域。銀行からの「経営改善計画書」の提出要求が強まり、貸し剥がしや金利引き上げの圧力が最大化する。
しかし、ここで諦める必要はありません。「5期連続赤字」は、逆に言えば「5年間も会社を潰さずに持ちこたえた」という底力の証明でもあります。この粘り強さを正しい方向に転換できれば、再生の芽は必ずあります。
経営者が直視すべき3つの「限界ライン」
赤字からの脱却を図る際、損益計算書(P/L)の数字ばかりを気にする経営者の方がいらっしゃいますが、それは間違いです。本当に恐れるべきは、以下の3つの「限界ライン」を超えることです。
【資金の限界ライン】現預金は月商の何ヶ月分あるか?
黒字倒産という言葉がある通り、会社は赤字だから潰れるのではなく、現金がなくなった時に潰れます。5期連続赤字の企業で最も危険な兆候は、「運転資金を補填するための借入」が限界に達することです。
- 危険なサイン:
- 銀行が「プロパー融資(信用保証協会を通さない直接融資)」を断り始めた。
- 毎月の借入返済額が、減価償却費(現金の支出を伴わない費用)を上回っている。
- 税金や社会保険料の滞納が始まっている。
私の経験上、現預金が「月商の1ヶ月分」を切ると、経営者の思考は「未来の戦略」ではなく「明日の支払い」に占有され、正常な経営判断ができなくなります。これが資金の限界ラインです。
黒字倒産については以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。
【信頼の限界ライン】取引先と銀行の視線
信頼は見えにくい資産ですが、赤字が続くと目に見えて信頼は毀損します。
- 対銀行: 「実抜計画(じつばつけいかく:実質的に破綻懸念先から脱却できると認められる計画)」の策定を迫られます。これを提出できない、あるいは計画通りに進捗しない場合、銀行は債権回収モードに移行します。
- 対仕入先: 信用調査会社の点数が下がると、仕入先から「支払いサイトの短縮」や「現金取引のみ」への変更を要求されることがあります。これは資金繰りを直撃します。「社長、うちはもう御社には掛け売りできません」と言われた時、それが信頼の限界ラインです。
【社員の限界ライン】「学習性無力感」の蔓延
私が最も深刻だと捉えているのが、この「人の限界ライン」です。5年も赤字が続くと、社内には「どうせ頑張ってもボーナスは出ない」「うちの会社はもうダメだ」という『学習性無力感』が蔓延します。
- エース級社員の離脱: 優秀な社員ほど、泥船からいち早く逃げ出します。残るのは、他に行き場のない社員か、経営者に過度に依存する社員だけになりがちです。
- 規律の低下: 挨拶がなくなる、掃除をしなくなる、遅刻が増える。これらは組織崩壊の予兆です。
「社長、話があります」と、最も信頼していた幹部社員から退職願を出された時、組織は崩壊のトリガーを引いたことになります。
「V字回復」への処方箋


では、これらの限界ラインを回避し、逆転するにはどうすればよいのでしょうか?私が実際にクライアント企業で実行し、今期の黒字化を実現させた手法をベースに、3つのステップで解説します。
STEP 1:止血(出血を止める)~聖域なきコスト削減~
まずは現金の流出を物理的に止める必要があります。ここで重要なのは、「社員の給料を下げる」などの安易な人件費削減に手を出さないことです。それは社員の士気を完全に折る劇薬であり、最後の手段です。
私が行うのは、徹底的な「固定費の総点検」です。
- 保険の見直し: 昔の付き合いで加入したままの、過剰な生命保険や損害保険はありませんか?
- リースの見直し: 複合機や車両など、不必要なリース契約を解約、または再交渉します。
- 地代家賃の交渉: 周辺相場と比較し、家主へ減額交渉を行います。
- 不採算事業の撤退: 「売上はあるが利益が出ていない(むしろ管理コストで赤字の)」事業や取引先を特定し、勇気を持って撤退・取引停止します。
これだけで、月間数十万円〜数百万円のキャッシュフローが改善することは珍しくありません。まずは「生き延びるための現金」を確保します。






STEP 2:対話(銀行と社員の信頼回復)
次に、失われた信頼を取り戻すフェーズです。
- 銀行に対して
「頑張ります」という精神論は通用しません。私が支援する際は、実現可能性の高い根拠ある数字に基づいた「経営改善計画書」の作成を支援します。「どの事業で、いつまでに、いくら稼ぐか」を明確にし、場合によっては「リスケジュール(返済条件の変更)」を依頼して、元金返済を一時的に止めてもらいます。これで手元の資金繰りを楽にします。 - 社員に対して
現状を正直に話すことです。「5期連続赤字で会社は危ない。しかし、この計画で必ず再生させる。そのためにはみんなの力が必要だ!」と腹を割って話します。今期黒字化が見えている印刷業のクライアントでは、社長が会社の現状を社員に対してオープンに伝え、再建への覚悟を語りました。これにより、冷え切っていた社内の空気が一変し、「社長がそこまで言うなら」と団結力が生まれました。
STEP 3:反転(利益率の改善と高付加価値化)
最後に、収益構造の改革です。赤字企業の多くは「安売り」をしています。
- 値上げの断行
原材料高騰を理由に、適正価格への値上げ交渉を行います。コンサルタントとして私が交渉のロジックを組み立て、ロープレを行ってから交渉に臨んでいただきます。意外にも、誠実に説明すれば8割の顧客は値上げに応じてくれます。離脱する2割は「利益の出ない顧客」であり、むしろ業務効率が改善します。 - 高付加価値へのシフト
製造業のクライアント様の場合、従来の下請け仕事(薄利多売)から、自社の技術力を活かした「試作品製作・小ロット短納期対応」(高単価)へと軸足を移しました。印刷業のクライアント様の場合、様々な印刷物を低価格で受注するというスタンスを改め、自社の強みを活かせる印刷物を再検討してそこにターゲットを絞り、Webマーケティングや営業活動を通じて能動的に訴求していきました。 この「単価アップ」と「付加価値の向上」こそが、黒字化への最短ルートです。


Q&A
Q1:すでに債務超過の状態ですが、それでもコンサルティングを受けて再建できますか?
A:はい、可能です。現在も債務超過になっているクライアントを支援しており、6期ぶりの黒字転換の見込みとなり、債務超過解消のスタートラインに立つことができました。むしろ手遅れになる前にご相談ください。債務超過であっても、本業で利益(営業利益)が出る見込みがあれば、金融機関は支援を継続します。お客様の経営状況を鑑み、特別応援価格で支援いたしますので、ご相談下さい。
Q2:整理解雇をしないと再建は無理でしょうか?
A:整理解雇は「最後の手段」であり、最初に行うべきではありません。前述の通り、安易な人員削減は残った社員のモチベーションを下げ、企業の活力を奪います。まずは経費削減、業務効率化、値上げなどで利益を捻出します。それでも追いつかない場合の最終手段として検討しますが、その場合でも「希望退職の募集」など、可能な限り摩擦の少ない方法を模索します。
Q3:黒字化までにはどれくらいの期間が必要ですか?
A:企業の規模や傷の深さによりますが、早ければ1年、通常は3年計画です。「単月黒字」であれば、コスト削減を断行して数ヶ月で達成できることもあります。しかし、安定的な「通期黒字」にし、さらに過去の赤字(累積損失)を解消するには、3年〜5年の中期的な取り組みが必要です。今回ご紹介した2社のように、正しい初動を行えば、1年目から劇的な改善が見込めます。
まとめ
5期連続赤字からの逆転は、決して平坦な道のりではありません。資金の壁、銀行との交渉、そして何より、自信を失った社内の空気を変えること。これらは経営者一人で抱え込むには重すぎる課題です。
しかし、私がコンサルティングの過程で見てきた復活した経営者たちは、みなさんある時点で「変わる」と決断し、プロのアドバイスを素直に取り入れ、一歩を踏み出した人たちでした。
「会社の数字は、経営者の決断の履歴である」
これは私の持論です。過去5年間の赤字という履歴は消せませんが、明日からの数字は、今のあなたの決断ですべて書き換えることができます。
今期、6期ぶりの黒字化を実現しようとしている2社のクライアント様も、最初は「もうダメかもしれない」と半ば自信を奏しているような状態でした。しかし現在は、「次はこんな施策をやりたい」と目を輝かせて経営に向き合っています。 あなたにも、その「逆転の瞬間」は必ず訪れます。まずは、現状の「限界ライン」を直視することから始めましょう。もし、その一歩を踏み出す勇気が欲しい時は、いつでもご相談ください。あなたの会社の潜在能力を信じ、復活のロードマップを共に描く準備はできています。
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