唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

中小企業が日本経済を支える大きな柱であることは、多くの方がご存じだと思います。中小企業は日本企業全体の約99.7%を占め、雇用の約70%を担っています。

しかしながら、その中でも大きな経営課題として指摘されているのが「事業承継」です。特に、創業者から事業を引き継いだ二代目社長の方が抱える悩みはとても深刻なケースが多く、「本当は継ぎたくなかった」「どうしても気が進まない」「やはり辞めたい…」と感じながらも、責任感や周囲の期待感から身動きがとれない状況に陥りがちです。

筆者は経営コンサルタントとして20年のキャリアを通じ、こうした二代目社長の方々からの相談を数多くお受けしてきました。経営者として最前線に立ちながらも、自分のキャリアや人生の方向性に悩み、事業を成長させる重圧と周囲からの期待に板挟みになる――そんな二代目社長ならではの苦悩を、身近に見てまいりました。

本コラムでは、「二代目社長を辞めたい…」と感じる後継者が直面しやすい主な課題と、その解決策についてわかりやすくご紹介します。

今正に「辞めたい」と悩む方はもちろん、経営を支える役員・管理職の方にも役立つ情報をお伝えできれば幸いです。

二代目社長が抱える主な悩みと背景

創業者(親)との価値観の違い

中小企業、多くは親族内承継となります。しかし、親子といえども価値観や経営観は同じとは限りません。

創業者には「自ら立ち上げた」という強いオーナーシップがあり、長年の経験で培った商習慣や人脈を大切にします。一方、二代目社長は新しい技術やデジタル化への意欲が高かったり、働き方改革を推進しようとしたりと、世代の違いに基づく考えをもっています。その結果、「もっと変化を起こしたい」「でも父(母)は昔ながらのやり方を変えたがらない」という衝突が生じます。

実際、「2021年版 中小企業白書(中小企業庁)」によると、事業承継における課題として「後継者の確保」が最も大きな問題とされており、親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)といった承継方法の多様化が進んでいることが指摘されています。また、事業承継の準備においては、後継者の育成や経営資源の引き継ぎが重要なポイントとなり、特に親族内承継においては、先代と後継者の経営方針の調整や円滑なコミュニケーションがスムーズな承継のカギとなることが示唆されています。

このような状況下で、自身の心の健康を維持することは、企業の持続的な成長と発展のために不可欠です。

社員や取引先との信頼関係に対する不安

二代目社長が直面しがちなもう一つの悩みが、「従業員や取引先からの信頼を得られているか?」という不安です。

特に先代との歴史が長い企業では、従業員や取引先が長年にわたり築いた関係性や慣習が色濃く残っています。二代目が新たな試みを打ち出そうとしても、「そんなことはやったことがない」「前社長はこうしていた」という声が社内外で根強く、抵抗感を示されるというケースは少なくないです。

結果として、孤立を感じ「もう続けたくない…」と思いつめることがあります。

経営責任の重圧

「社長」という肩書きは、表向きは華やかに見えるかもしれません。

しかし実際には多額の借入金や資金繰り、マーケットの変化への対応、人材育成や労務管理など、その責務は多岐にわたります。しかも、経営判断の良し悪しは自分自身だけでなく、社員やその家族の生活にも大きく影響します。

そうした重圧を日々感じながら、「自分には荷が重いのではないか?」「自分がやりたくて始めた仕事ではないのに、ここまで責任を背負わなければならないのか?」という思いに駆られる二代目社長が多いことも事実です。

自分自身のキャリアや人生観とのギャップ

本来、親の会社を継ぐことは人生の大きな決断です。継ぐ前はある程度覚悟をしていても、実際に経営の最前線に立ってみると、「自分には他にやりたいことがあったのでは?」「先代の夢や会社の発展のために、私は自分の夢を諦めるべきなのか?」と自問自答することもあります。

また、まったく別の専門分野を志していたが、家族の事情で急遽戻って継いだというケースでは、そもそも経営に対するモチベーションが高くなかったり、将来的な展望を描きにくかったりします。

そうした自己実現とのギャップが「辞めたい」気持ちを強める要因となりがちです。

解決策に向けたステップ

「二代目社長を辞めたい」という切実な思いを抱えたとき、それを単なるわがままや逃げとして処理するのではなく、冷静に自社と自分自身を見つめ直すプロセスが重要です。

ここでは、いくつかのステップに分けて解決策のヒントを探っていきましょう。

ステップ1:現状を客観視する

まずは自分が「なぜ辞めたいと思っているのか?」を明確に言葉にすることが大切です。

心理的・精神的な負担なのか、経営的なリスクの大きさか、社員や取引先との関係性か。具体的に悩みの正体を把握しなければ、的確な対処はできません。

  • 自分の仕事への満足度
    どの部分でやりがいを感じ、どの部分でストレスを感じているのかをリスト化する。
  • 経営状態の確認
    会社の財務状況や市場環境、売上や利益の推移、人材の状況などをしっかりと数字で把握する。
  • 家庭状況・プライベートの問題
    家族の事情、健康面、金銭面など、経営だけでなく個人的な条件も整理する。

ここで大切なのは、できるだけ第三者の視点を取り入れることです。私たちのような外部のコンサルタントに依頼したり、信頼できる先輩経営者・仲間に客観的に見てもらったりすることが有効です。

ステップ2:社内外のキーパーソンと腹を割って話す

二代目社長は、先代社長や幹部社員、あるいは主要取引先と率直にコミュニケーションを図りにくいケースがあります。特に親との確執をそのままにしたり、従業員や外部の支援者を巻き込まずに悩みを抱え込んだりしていると、問題はより複雑化しがちです。

  • 先代や主要幹部との面談
    自分が抱えている不安や想いを正直に伝えつつ、先代・幹部側の考えも聞く場を設ける。対話によって相互理解を深めるだけでも、気持ちの負担が軽くなることは多々あります。
  • 外部の専門家のサポート
    後継者を専門に支援する公的機関(商工会議所や中小企業支援センターなど)の利用や、外部のコンサルタントを活用するのもよいでしょう。

ステップ3:複数の選択肢を明確にする

「辞めたい」と思ったとき、頭の中が「辞める」か「続ける」かの二択になっていないでしょうか?しかし実際には、事業承継や経営には幅広い選択肢があります。

  • 経営幹部の外部採用
    後継者がトップとしての責任をすべて担うのではなく、社外からプロ経営者や参謀となる人材を採用し、経営をチームで回す体制にする。
  • M&A・事業譲渡の検討
    後継者不在やモチベーションの問題が根深く、現状では維持が難しい場合は、他社や投資ファンドなどへの事業譲渡を検討するのも一つの方法です。近年は事業承継型のM&Aが盛んであり、企業価値が思った以上に高く評価される可能性もあります。
  • 別法人化・事業分社化
    後継者自身が新しい分野にチャレンジしたい場合、従来の事業は既存の幹部や親族に任せ、自身は新事業を分社化して取り組む選択も考えられます。

このように、「全てを辞める」か「全部を背負い続ける」かだけではない、多角的な可能性を洗い出してみることが重要です。

ステップ4:決断と実行計画の策定

選択肢を洗い出したうえで、一度決断を先送りにしていると、状況はさらに悪化しがちです。経営環境の変化や周囲の疲弊も進むことがあるため、早期に方向性を定めることが望ましいでしょう。

  • 利害関係者との合意形成
    選択肢を検討した上で慎重に出した結論に対して、先代や主要幹部、取引先、金融機関、家族といった利害関係者に丁寧に説明・相談をし、理解を得るプロセスを踏む。場合によっては交渉も必要になります。
  • スケジュールと役割分担の明確化
    実行すると決めたら、誰がいつ何を行い、どんな成果を目指すのかを具体的なスケジュールやタスクに落とし込み、管理を行う。「自分だけが頑張らなければならない」という意識を捨て、組織で動く体制を整えることが大切です。

ステップ5:定期的な振り返りと調整

経営の世界には「絶対的な正解」というものはなく、市場や社内状況は刻々と変化します。策定した計画通りに進めていても、途中で新たな課題が生じるのは自然なことです。

定期的な振り返りを行い、必要に応じて計画を修正する柔軟さを持つことが、結果として後継者自身の負担を軽減し、企業の成長にも寄与します。

Q&A

Q1. 親との意見が対立しすぎて、まったく話し合いになりません。どうすればよいですか?
A. 親子間だと感情がぶつかりやすいので、第三者を交えて「言いづらいことを代弁・整理してもらう」方法がおすすめです。たとえば、信頼できる外部のコンサルタントを間に入れ、話し合いの場を作ることで、感情論から一歩引いた建設的な対話が期待できます。

Q2. 社員はみんな先代を慕っていて、私を見てくれません。どうやって信頼を得たらいいでしょうか?
A. 信頼は一朝一夕には築けません。具体策としては、まずは「経営理念の再確認と共有」を行い、会社が進む方向を明確に示すことが大切です。そのうえで、社内コミュニケーションの機会を増やし、日頃から社員の意見をじっくり聞く努力をしましょう。経営判断の背景を丁寧に伝えながら小さな成功体験を積み重ねていくことで、徐々に信頼感が高まっていきます。

Q3. 自分には全く経営のセンスがない気がします…。向いていないなら、本当に辞めるべきでしょうか?
A. 本当に自分が経営に向いていないかどうかは、客観的なデータや周囲の声などを総合して判断すべきです。やりたくない、あるいは自信がない中で無理に続ければ、本人も組織も疲弊してしまう可能性があります。ただし、その前に経営幹部の配置転換や外部人材の登用、組織体制の変更など、経営を自分ひとりだけで抱え込まない仕組みづくりを検討してください。それでも難しいと感じる場合は、事業譲渡や第三者への承継という選択肢も含めて考えましょう。

Q4. 親族内承継ではなく、外部の人に会社を引き継がせることは一般的なのでしょうか?
A. 以前は家族経営が当然と考えられていましたが、近年は後継者問題を解決するために外部の経営者や企業へ承継するケースが増えています。経済産業省の「事業承継ガイドライン」でも、第三者承継を視野に入れることの重要性が強調されています。大切なのは、会社の存続と社員の雇用・幸せを最優先したうえで最良の選択をすることです。

Q5. 先代との確執が原因で、会社の資金繰りや人材育成がおろそかになっています。どちらを優先すべきでしょうか?
A. 事業継続のためには、資金繰りや人材育成など日々の経営課題の解決が最優先です。しかし、先代との確執が深刻であれば、そちらを放置すると経営判断にも悪影響を及ぼします。短期的には経営課題をきちんとこなしながら、並行して先代とのコミュニケーションルートを改善する施策を進めるのが理想です。必要があれば、外部のファシリテーターに入ってもらうなど、周囲を巻き込みながら同時進行で解決を図りましょう。

まとめ:二代目社長としての道は一つではない

「二代目社長を辞めたい…」と感じるのは決して珍しいことではありません。重責や周囲との衝突、自己実現とのはざまで葛藤するのは、ごく自然な悩みです。ただし、そこに感情的に巻き込まれたまま行動できずにいると、経営面でも個人の人生面でも大きな痛手を被るリスクが高まります。

  • まずは自分の本音と会社の現状を客観的に把握し、整理すること
  • 信頼できる社内外のキーパーソンや専門家を巻き込み、素直に悩みを共有してみること
  • 「辞める」「続ける」だけではない、多様な選択肢を模索して具体的な実行計画を立てること
  • 一度決断を下したら、定期的に振り返り・調整を行いながら前に進むこと

このようなステップを踏むことで、二代目社長としての悩みを根本から解決しやすくなります。

「どうしても家業を継ぎたくない」という結論にいたる場合もあるかもしれません。しかし、その場合でも早めに適切な次善策を講じれば、会社を存続させつつ、自身は新たな道で再スタートを切るという選択も可能です。

大切なのは、一人で抱え込まず、専門家や信頼できる人々の力を借りて冷静に問題を整理し、自分なりの人生の舵取りを行うことです。筆者の20年の経営コンサルタント経験から見ても、適切なサポート体制さえ整えば、後継者本人と企業の双方が納得いく形で事業を継続・譲渡・再編できた事例は多数存在します。

あなたの人生が、そして会社がより良い方向に向かうよう、最初の一歩をぜひ踏み出してみてください。

二代目社長としての経営に関する悩み・ご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせたアプローチで、あなたの考える未来の実現をサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。