唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
中小企業の経営者にとって、クレーム対応は頭を悩ませる存在です。日々の業務に追われながら、「できればクレームは避けたい」「クレーム対応に割く時間がない」という思いが先行してしまう方も多いのではないでしょうか。しかし、ネガティブに見えがちなクレームは、企業を強く、しなやかに成長させるための「宝の山」でもあります。
「クレームに時間をかけるよりも、新規顧客の開拓や売上アップに注力すべきではないか?」と思われるかもしれません。もちろん、ビジネスを拡大させるための新規施策も大切です。しかし、クレームの裏側にある顧客の「生の声」を真摯に受け止め、そこから改善策を導き出すことこそが、商品やサービスの品質を飛躍的に向上させる原動力となります。クレームの本質を理解し、その学びを社内に根付かせ、組織全体で向き合っていくことで、顧客満足度とブランド力が強化され、結果として会社の信頼度や収益性が高まるのです。
本記事では、中堅中小企業経営者の方々が「クレーム対応をチャンスに変える」ために押さえておきたい考え方と具体的なアクションを、Q&Aを交えながら解説します。
クレーム対応が企業を強くする理由

理由①:クレームには改善のヒントが凝縮されている
お客様がクレームを入れる背景には、「本当は期待していた」「もっと良くなると感じていたからこそ、不満を口にする」という心理があります。お客様がこちらに何の期待もしていなければ、わざわざ連絡すらしないはずです。「なぜクレームが起こるのか?」「どうすれば同じ問題を繰り返さないか?」を分析し、そこに込められた要望や期待を汲み取ることで、商品・サービス品質の改善策や新商品のアイデアが見えてきます。
理由②:社内横断的な連携を促進する
クレーム発生時には、お客様対応の部署だけでなく、商品開発や製造、物流、経理、カスタマーサポートなど、様々な部署が連携して問題解決に当たる必要があります。この協力体制の構築は一時的なものではなく、継続的に情報共有を行うことで社内の一体感を高め、組織としての問題解決力を底上げするきっかけとなります。
理由③:社員の成長と自社ブランドへの誇りを育む
クレームを「ただの面倒ごと」と捉えるのか、「企業を強くするチャンス」と捉えるのかによって、社員の意識は大きく変わります。経営者や管理職が積極的に「クレームは財産だ」というメッセージを発信することで、社員はクレーム対応に対して前向きに取り組み、問題解決力や顧客対応スキルが格段に向上します。また、誠実な対応によって顧客との絆が深まれば、「自分たちが提供する商品・サービスは信頼できる」という自社ブランドへのプライドも高まります。
中堅中小企業が陥りがちなクレーム対応の落とし穴

その場しのぎで終わってしまう
クレームが起きたときに、局所的な対策だけで急場をしのいでしまうと、また類似のクレームが発生する可能性が残ってしまいます。目の前のトラブルに対処するだけでなく、根本原因の究明と改善策の制度設計を行わなければ、クレームの連鎖を断ち切ることは難しいでしょう。
責任追及だけで終始してしまう
クレーム発生時に「誰が悪いのか?」といった形で犯人探しに終始していると、本来の目的である「顧客満足度の向上」がおろそかになります。責任の所在は明らかにする必要がありますが、あくまでも「再発防止策の提案」や「組織全体の学び」がゴールであることを忘れてはいけません。
ネガティブな社内ムードを生む
クレーム対応にネガティブなイメージが強いと、社員は「ミスを恐れるあまり、萎縮してしまう」「クレームを報告したがらなくなる」という状態に陥ります。経営者や管理者が「クレームは学びの源泉であり、顧客の期待値が高い証拠でもある」と社内に発信し続けることで、ネガティブなムードの蔓延を防ぎましょう。
クレーム対応を成功に導くためのフレームワークと手法

5W1Hで事実を正確に把握する
クレームが起きた際、「誰が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」発生したのかを整理することで、情報不足や曖昧な推測を防ぎます。最初にしっかりと事実を確認しなければ、誤った対策を講じてしまうリスクが高くなります。
なぜなぜ分析で真因を追究する
単に「納期が遅れた」という事象だけを見るのではなく、「なぜ遅れたのか?」「さらにその原因は何か?」と「なぜ」を繰り返し問いかけます。例えば、システムエラーが原因なら、なぜエラーが発生したのか、アップデートのタイミングや担当者の教育体制に問題がなかったかなど、根本原因を徹底的に洗い出すのです。そうすることで、再発防止策が明確になり、今後の品質向上につなげられます。
PDCAサイクルを回し続ける
Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)を継続的に回すことで、組織の学習能力は格段に高まります。一度クレーム対応を行っただけで安心するのではなく、その後の効果検証や追加改善も行い、顧客目線で「本当に問題は解消したのか?」「さらなる改善点はないか?」を問い続けることが重要です。
顧客とのコミュニケーションチャネルの多様化
電話やメールに限らず、SNSやWebチャット、オンラインミーティングなど、多様なコミュニケーションチャネルを用意することで、お客様が気軽に問い合わせやクレームを伝えられるようになります。お客様の声を素早くキャッチし、可能な限りリアルタイムで対応することで、“顧客満足度アップ”と“トラブルの早期発見”を同時に実現します。
クレーム対応から得られるプラスの効果
効果①:既存顧客のロイヤルティ強化
誠実かつ迅速なクレーム対応は、お客様の心を掴み、長期的な関係性を築くきっかけになります。クレームを解消するだけでなく、期待を上回るフォローができた場合には、その顧客は「この会社なら信頼できる」と思うようになり、リピーターやファンになる可能性が高まります。
効果②:社員のモチベーションと学習意欲の向上
クレーム対応は、社員にとって「自分が会社のために貢献できている」「お客様の問題解決に直接関わっている」という手応えを得るチャンスでもあります。うまく問題が解決できれば、社員同士の達成感が共有され、チームワークが深まるでしょう。こうした成功体験が、モチベーションアップとさらなる学習意欲をかき立てます。
効果③:経営の透明性と意思決定のスピードアップ
クレームから得られた情報を経営判断に反映させることで、企業としての情報開示がスムーズになり、トラブル発生時の迅速な意思決定にもつながります。加えて、クレーム対応を通じて部門間連携が強化されると、全社的に情報共有が円滑化し、リスク対策や市場変化への柔軟な対応力が高まります。
”クレームを宝の山に変える”ための経営者のアクション

- クレームを「ウェルカム」と捉える社内文化づくり
経営者自身が「クレームは会社を育てる貴重な情報源だ」という認識を持ち、社員にも積極的に発信しましょう。クレームを恐れず、学びとして活かす風土を根付かせることが大切です。 - 定期的な情報共有と振り返りの場を設ける
例えば、月例会議などでクレーム対応の事例を発表し、どのような問題があり、どのように対処したかを全社員で共有しましょう。成功事例だけでなく、うまくいかなかったケースも共有し、再発防止策や新しいアイデアを議論することで、クレーム対応の質が高まります。 - 従業員教育とサポート体制の強化
クレーム対応を担当するフロントラインの社員には、問題解決力や接客マナーを養う研修やOJTを計画的に実施しましょう。同時に、現場だけに負担を押し付けないよう、経営層や管理職、ほかの部署がどのように連携・サポートするかを明確化し、全社的にバックアップする体制を整えます。 - お客様との長期的な関係構築を目指
クレームはネガティブな出来事ではなく、企業と顧客の間で新たな信頼を生み出すターニングポイントでもあります。問題解決後も継続的にフォローアップを行い、お客様目線での改善提案を積極的に取り入れながら、長期的なパートナーシップを築いていきましょう。
Q&A
Q1. クレーム対応に時間と人手を割く余裕がありません。どうしたらよいでしょうか?
A. クレーム対応をコストではなく「投資」と考えるように視点を切り替えましょう。確かに、最初は時間も人手もかかります。しかし、その過程で浮き彫りになる問題を解決すれば、同じトラブルが繰り返される確率が下がり、結果的に業務の効率化や顧客満足度向上、さらにリピーターの増加といった効果が得られます。慢性的なリソース不足を抱える中小企業こそ、クレーム対応を起点とした問題の本質的解決が重要です。
Q2. どこまでお客様に対応すべきか、線引きが難しいです。
A. クレームの内容によっては、企業が対応すべき範囲を超えた要求が含まれる場合もあります。その際は、まず事実関係の調査と社内ルールの確認を丁寧に行い、経営者や管理者が判断する基準を明確に持ちましょう。一方で、誠実な対応姿勢は常に示すことが大切です。お客様に対して「あなたの声を無視しているわけではない」ことを伝えつつ、合理的な範囲でサポートするスタンスを整備してください。
Q3. クレーム対応から学んだことを、どうやって組織全体に活かせばいいのでしょうか?
A. ポイントは、形式知化と共有の仕組みづくりです。たとえばクレームの内容や対応策をまとめたマニュアルやデータベースを整備し、誰でもアクセスできる環境を用意するとよいでしょう。さらに、定例会や朝礼などの場で具体的なクレーム事例を共有し、他部署の社員も積極的に意見交換することで、全社的な学びにつなげられます。
Q4. クレーム対応を通じたお客様フォローで、成果を実感できるまでどのくらいかかりますか?
A. 業種やクレーム内容、企業規模によって異なりますが、すぐに目に見える成果が表れるとは限りません。ただし、クレームを誠実に解決する行動を積み重ねていくと、顧客評価は徐々に高まり、口コミや評判が広がっていきます。短期的な売上増だけを指標とせず、ロイヤルティ向上やリピート率の数字に注目することで、クレーム対応の成果を実感しやすくなるでしょう。
Q5. 新規顧客の獲得とクレーム対応の両立は可能ですか?
A. むしろクレーム対応から得られる学びは、新規顧客獲得の大きな武器になります。クレームを通じて自社商品やサービスの弱点を知り、それを改善すれば競合他社との差別化ポイントが生まれます。クレーム対応は既存顧客の満足度を高めるだけでなく、新規顧客にも「この会社は誠実に向き合ってくれる」という好印象を与えるための絶好のアピール材料となります。
まとめ
クレームという言葉には、ネガティブな印象がつきまといがちです。しかし、その裏側には「顧客の期待」や「潜在的な改善要望」が数多く詰まっています。クレームに真摯に耳を傾け、適切なフレームワークで原因を究明し、組織全体で改善のためのPDCAサイクルを回すことで、中小企業は確実に強く、しなやかに成長していきます。
クレーム対応をシステム化・ルーチン化し、全社的に知見を共有することで、顧客満足度と企業のブランド力は加速度的に高まるでしょう。結果として、リピーターの増加、新規顧客の獲得、そして社員のモチベーション向上による生産性アップといったポジティブな連鎖が生まれます。経営者としては、時にはクレーム対応に神経をすり減らす場面もあるかもしれませんが、その先にはより強固な顧客基盤と組織力が育まれているはずです。
クレームを「会社の欠点を指摘するもの」と避けるのではなく、「会社の未来をつくる宝の山」としてポジティブに活かしましょう。顧客の声を真摯に受け止め、問題解決に全力で取り組む姿勢こそが、信頼される企業の土台を築く鍵となります。いま目の前にあるクレームは、中小企業が飛躍するための大きなチャンス――その視点を持って、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
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