唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

近年、多くの中堅・中小企業が深刻な「人手不足」に直面しています。少子高齢化による労働人口の減少、大企業の採用強化、働き方の多様化など、背景にはさまざまな社会的要因があると言われています。私自身、経営コンサルタントとして20年以上にわたり企業の経営改善や組織強化を支援してきましたが、ここ数年ほど「人手不足リスク」が顕在化している時期はそう多くなかったと感じています。

特に注目すべきは「人手不足倒産」の増加傾向です。人材を確保できずに現場の業務が回らなくなり、最終的に顧客離れや収益悪化を招き、そのまま倒産へ追い込まれるケースが増えているのです。

実際、帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査(2024年)」によれば、2024年の人手不足倒産件数は342件となり、調査を開始した2013年以降の過去最多を2年連続で大幅に更新しました。また、人手不足を感じている企業の割合は2024年12月時点で52.6%となり、新型コロナウイルスの感染が拡大したことで一時的に緩和された2020年以降は急上昇し、高止まりが続いています。

本コラムでは、「人手不足倒産」の前兆として現れやすいサインを9つ挙げました。

もしあなたのの会社で以下のような兆候が見られるなら、要注意です。早期に対策を検討するきっかけにしていただければ幸いです。

離職率が急激に高まっている

最初に注目していただきたいのが、社員の「離職率」です。

  • 一時的な退職増ではなく、恒常的・継続的に離職が増えていないか?
  • 離職理由を分析できているか?(労働環境、キャリアアップの不透明感、人間関係など)

離職率の推移・原因分析を放置していると、ノウハウ流出や採用コストの増大、既存社員への業務負荷が高まるなど、経営全体へ悪影響を及ぼします。

■ポイント

  • 早期対応の重要性:人事評価制度、福利厚生、コミュニケーション体制などを迅速に見直す
  • 離職率の時系列チェック:どのタイミングで退職者が急増しているかを可視化する
  • 退職理由の把握:アンケートや面談を行い、真の退職理由を徹底的に調べる

採用活動が長期化し、慢性的な人員不足に陥っている

「求人を出しても応募が少ない」「面接まで進んでも内定辞退が続く」──こうした採用難が長期化しているときは危険信号です。

  • 採用コスト(広告費、人材紹介会社への成功報酬など)が年々増加
  • 人手不足が続くことで、現場の社員に過度な残業や負荷がかかり、さらなる離職リスクへとつながる

近年は採用コストが上昇傾向にあるとのデータも示されています。採用難を理由に改善策を後回しにしていると、経営悪化が加速しかねません。

■ポイント

  • 採用ミスマッチの要因分析:募集要件が厳しすぎないか、仕事内容と求職者のニーズが噛み合っているかを見直す
  • 採用チャネルの拡充:ハローワークや求人サイトだけでなく、自社ホームページ、SNS、知人紹介なども活用
  • スピーディーな内定出し:募集から選考・内定までのプロセスを短くし、内定辞退のリスクを減らす

採用について詳しく知りたい方は、以下の記事もお読みください。

過度な残業や休日出勤が常態化している

人手不足が深刻化すると、既存社員の残業休日出勤に頼らざるを得なくなります。

  • 社員が疲弊してモチベーションが下がり、生産性も低下
  • 労働基準法違反のリスク(残業時間の上限超過、休憩未取得など)
  • 会社のイメージ低下や労働条件の悪化が、さらに人材流出を招く悪循環

「社長自らが社員の何倍も働く」という中小企業も確かにありますが、それが常態化してしまうと、組織としての持続可能性が危ぶまれます。

■ポイント

  • 勤怠データのモニタリング:部署ごとの残業時間を定期的にチェックし、基準超過を見逃さない
  • 抜本的な人員配置の調整:忙しい部署にピンポイントで追加要員を配置する、あるいは業務を外注化するなど柔軟に対応
  • 健康面のケア:産業医や外部機関のサポートを積極的に活用し、社員のメンタルケアにも注力する

残業の抑制や休日出勤の削減に向けての第一歩は、「勤怠データの把握」です。データ収集を効率化する上では、クラウド勤怠管理の活用が有効な手段の1つとなります。詳しく知りたい方は、以下の記事もお読みください。

顧客対応や品質管理に支障が出始めている

人手不足で最も深刻なのは、売上や信用に直結する顧客対応や品質管理に支障が生じることです。

  • 納期遅延や品質不良が増え、取引先や顧客からのクレームが増加
  • 新規案件を獲得しても対応が追いつかず、ビジネスチャンスを逃す

取引先や顧客からの信用が低下すれば、金融機関からの融資も困難になるケースがあります。倒産リスクが急激に高まる要因として見過ごせません。

■ポイント

  • 納期管理の徹底:生産・サービス提供スケジュールを細分化して可視化し、遅延を最小限に食い止める
  • 顧客満足度の測定:クレーム件数やリピート率などの指標を定期的にモニタリングし、早期に問題を把握
  • 業務フローの見直し:マニュアル化やシステム導入で作業負荷を減らし、属人的な運用を減らす産リスクが一気に高まる要因の一つとなります。仕組みで対応できる部分(マニュアル化・業務のシステム化など)は早めに着手し、属人的な業務範囲を縮小することが求められます。

管理職・経営層が現場作業に追われている

中堅中小企業では、経営者や管理職が現場のオペレーションまで兼務することは少なくありません。しかし、人手不足が深刻になると、その割合がさらに増大し、将来的な経営判断が遅れる要因となります。

  • 戦略立案や経営計画策定に時間が割けず、意思決定の質が低下
  • 部下の育成やフォローアップも手が回らず、離職率上昇につながる

管理職層が現場の穴埋めに追われ続けると、会社全体の舵取りをする余裕がなくなり、結果的に経営が行き詰まる可能性が高まります。

ポイント

  • 優先業務の切り分け:管理職や経営層が担うべき業務と他のメンバーが行うべき業務を明確化する
  • 権限委譲の推進:ルーティンワークや事務作業を担当者へ委ねる仕組みを整え、管理職は本来の経営指針やマネジメントに専念
  • 人材育成の計画化:現場への丸投げを避け、管理職自身がリーダーシップを発揮しながら後輩を育成する時間を確保会社全体が沈んでしまう可能性があります。人手不足で人材を十分に育成できず、ますます穴埋めに追われる状況は、倒産リスクが高まる典型的な前兆といえるでしょう。

一部のキーパーソンに依存しすぎている

小規模な組織であればあるほど、特定の技術や顧客対応を担う「キーパーソン」が存在するものです。しかし、そこに依存しすぎると、万が一の退職や病気で事業が大きく揺らぎかねません。

  • ノウハウや顧客情報がブラックボックス化し、引き継ぎが不十分
  • キーパーソン本人の負担が大きくなり、離職リスクやモチベーション低下を引き起こす

事業の継続性を高めるためには、日頃から複数人で業務をカバーできる仕組みづくりが欠かせません。

ポイント

  • 業務マニュアル化:キーパーソンが担当する業務を詳細に洗い出し、ドキュメント化する
  • ローテーションの導入:部署や担当を定期的に入れ替え、複数人が同じスキルを持つように育成
  • キーパーソンへのサポート強化:周囲に相談できる体制や、外部リソースを活用する仕組みを整える

業務効率化やIT化の取り組みが後手に回っている

人手不足は必ずしも「人を増やす」だけで解決するとは限りません。IT化や機械化で自動化できる部分を効率化し、少人数でも高い生産性を発揮できる組織体制を構築するのも重要です。

  • 紙ベースの作業やアナログ作業が多く、時間と手間がかかる
  • 他社が先行投資して効率化を進める一方、自社は検討を先送りにして競争力で劣後

日々の業務に追われてIT投資が後回しになっているようであれば、まさに倒産リスクが迫っているサインとも言えます。

ポイント

  • 業務フローの棚卸し:重複作業や手作業を可視化し、改善の優先順位をつける
  • 段階的なIT導入:一度に全てを変えようとせず、導入しやすい部分から始めて成果を確認しながら拡大
  • 外部専門家の活用:ITベンダーやコンサルタントと連携し、最適なシステム設計や導入を目指す力しなければなりません。ツールやシステム導入はもちろん、在宅勤務など柔軟な働き方を検討して優秀な人材を取り込みやすい環境を作ることも有効です。

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また、デジタル化をどこから始めればよいかわからない方は、以下の記事をお読みください。

キャッシュフローの悪化

人手不足が長引くと、売上減少と残業代・外注費の増加などによってキャッシュフローが悪化する可能性があります。特に、品質低下や納期遅延で顧客離れが進むと、売上が安定しなくなり資金繰りが厳しくなります。

  • 銀行からの追加融資も受けにくくなる
  • 仕入れ先や下請けへの支払いが滞り、連鎖倒産の引き金となることも

キャッシュフローの悪化は「倒産」という形で顕在化しやすいため、資金繰りが厳しくなった段階でスピーディーに手を打つことが重要です。

ポイント

  • 資金繰り表の作成と更新:毎月の入出金をシミュレーションし、早めに資金不足を予測
  • 経費削減と在庫コントロール:固定費や在庫を適正化して、キャッシュの流出を抑える
  • 資金調達方法の多角化:銀行借入だけでなく、補助金・助成金やクラウドファンディングなども検討

社内コミュニケーションの停滞

人手不足が長引くと、社員一人ひとりに大きな負荷がかかり、社内コミュニケーションが希薄になるケースが多々あります。

  • 部署間の連携が不足し、情報共有が遅れる
  • ギスギスした雰囲気から「この会社、先行き大丈夫なのか?」という不安が広がる
  • 経営者や管理職とのコミュニケーション不足で、社員がモチベーションを失う

組織全体の士気が下がると、さらなる離職を誘発し、悪循環に陥りやすくなります。

ポイント

  • 定期的な面談や意見交換の場:社員の声を吸い上げ、改善につなげる仕組みを作る
  • 部署横断のプロジェクトや交流会:部署同士の連携強化、チームワークの向上を図る
  • 経営ビジョンの共有:会社の目指す方向性を言語化し、全社員に伝えることで共通意識を高めるりに取り組む必要があります。

コミュニケーションについて詳しく知りたい方は、以下の記事もお読みください。

Q&A

Q1. 「人手不足倒産」って本当に増えているのですか?
A. はい、実際に増えてきています。帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査(2024年)」によれば、2024年の人手不足倒産件数は342件となり、調査を開始した2013年以降の過去最多を2年連続で大幅に更新しました。業種別では、建設業が99件(前年比+8件)で最も多く、物流業も46件(同+7件)と高水準でした。その他、労働集約型の産業である飲食店(16件、同+7件)や美容室やネイルサロンなどの美容業(9件、同+5件)、労働者派遣業(8件、同+5件)、警備業(6件、同+5件)なども急増しています。

Q2. 離職率が高いのに「人手不足倒産」の危機感が湧きません。そこまで重大な問題なのでしょうか?
A. 離職率が高くても、目先の業績が悪くなければ危機感を抱きにくいかもしれません。しかし、急激に社員が流出したり、キーパーソンが退職したりすると、一気に経営が回らなくなる可能性が高いです。結果として倒産リスクが跳ね上がりますので、軽視は禁物です。

Q3. 給与水準を上げる余裕がないのですが、人手不足を解消する方法はありますか?
A. 給与アップ以外にも、職場環境の改善や柔軟な働き方の導入(在宅勤務や時短勤務の活用)、評価制度の透明化などで社員満足度を高める手段があります。また、研修制度を充実させて「成長できる会社」という魅力をアピールするのも有効です。

Q4. 特定のキーパーソンに依存しすぎている現状を打破するには?
A. まずは業務を可視化し、ドキュメント化やシステム化を進めることです。現場が忙しすぎて着手しにくい場合は、短期間でもコンサルタントや外部専門家を活用し、集中的に業務整理を行うと効果的です。

Q5. どのタイミングで抜本的な経営改善策に着手すべきか迷っています。
A. 理想的には「残業や休日出勤が常態化し始めた」「離職率が増えた」と気づいた時点で早期に対応すべきです。人が辞めてからのリカバリーは時間もコストも大きくなりますので、早めに業務効率化や採用施策を打ち、社員の定着と成長を図ることが重要です。

まとめ

人手不足がもたらす問題は、一見すると「人材の確保が大変になる」という程度で済みそうに思えます。しかし実際には、離職率の急増、過度な残業、品質低下、キーパーソンへの依存、キャッシュフローの悪化など、企業の土台そのものを揺るがす深刻なリスクへと発展する可能性があります。特に中堅中小企業では、業務役割における一人一人の社員のウェイトが大きいことから、たった一人の退職が経営にダメージを与えることも少なくありません。

「人が足りない→既存社員に過度な負担→疲弊・離職→さらに人が足りなくなる」という悪循環に陥ると、経営者や管理職も現場対応に追われ、本来果たすべき経営判断の時間が奪われてしまいます。もし本コラムで紹介したサインにいくつも該当する項目があるようならば、早急に手を打たなければ、いずれ顧客や取引先に対する対応が不十分となり、倒産リスクが高まる恐れもあります。

打開策としては、以下のポイントを意識するとよいでしょう。

  1. 離職率の改善と採用戦略の見直し
  2. 業務効率化・IT化の徹底
  3. 評価・福利厚生制度などの社内改革
  4. 権限委譲やキーパーソン依存リスクの緩和
  5. 定期的なコミュニケーション強化と社内風土づくり

企業は「人」によって支えられています。人材を確保・育成し、人材が輝ける環境を作り出すことが、中堅中小企業が持続的に成長していくための不可欠な条件です。もし「うちの会社もサインが出始めているかも…」と感じた方は、ぜひ早めの対策を検討してみてください。

経営コンサルタントとしての20年超の経験から言えるのは、「早期に動いた企業ほど再建や成長軌道への復帰が早い」ということです。少しでも不安があるようでしたら、どうぞ遠慮なくご相談ください。あなたの会社の現状を踏まえ、最適な改善策や具体的なアクションプランを共に考え、共に実行し、事業の未来をより確かなものにしていきましょう。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。もし、この記事を読んで「自社の組織にも当てはまるかもしれない」「具体的な対処法について専門家の意見を聞きたい」と感じた方は、下記フォームよりお気軽にご相談ください。初回のご相談(1時間)は無料となっています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。